第22話 転機

 ――変化はいつだって突然訪れる。

 その日の一花はいつもと変わらなかった。

 いつも通りの時間に起きて、いつも通りに学校に行って、いつも通りに帰って来る。

 いつも通りの日々が変わってしまったのは……帰宅の玄関を開けた時から。


「ただいま〜! っと。あれ?」


 ローファーを脱いで六畳間に上がると、薄暗い部屋の真ん中では全身甲冑のリクトが俯いて正座していて、小さなちゃぶ台には溢れんばかりのスーパーの惣菜が並んでいた。


「これ、どうしたんですか? リクトさん」


 灯りを点けながら尋ねてみると、重戦士は緩慢に顔を上げた。


「おお、帰っていたのか、一花殿。夕飯の用意をしようと思ったのだが、どうすればいいのか分からず、適当に店で買ってきた」


 覇気のない声で返すリクトに、一花は首を捻る。


「なんでこんなことを急に? あ、もしかしてバイトのお給料がいっぱい出たとか? それとも、何かやらかして私に謝らないといけないことがあるとか!?」


 わざと茶化して明るい雰囲気を作ろうとする一花に、リクトは背中を丸めて正座したままポツリと言う。


「実は水沢氏から連絡があって、トツエルデへの扉が見つかったそうだ」


「……え?」


 水沢はリクトの担当行政官で、異世界人と日本政府との折衝役だ。呆然とする一花にリクトは続けて、


「道はすでに閉じているそうだが、何か戻る手掛かりが見つかるかもしれない。だから俺は明日現地に……」


「わたしも行きます!」


 言い終わる前に、一花は叫んでいた。


「明日、わたしも一緒に行きます」


 断言されて、リクトは困惑する。


「しかし、明日は平日。一花殿には学校があるのでは?」


「大丈夫。うちの高校、出席日数が足りてて成績が良ければ、私用で欠席してもうるさく言われませんので」


 そのために定期試験は常に学年上位三位圏内をキープし、返済不要の奨学金だってもらっているのだから。


「扉の場所はどこです?」


「ええと、たしか……」


 リクトが出した地名は、東風野川市から県を二つ跨いだ山岳地帯だった。


「それなら新幹線の距離ですね。朝、ATMが手数料なしの時間にお金下ろさなきゃ。さ、早くご飯食べて銭湯行って寝ましょう。明日は忙しいですよ!」


「お、おう……」


 隣に座るやいなや、惣菜のパックを開けて食べ始める一花に圧倒されながらも、リクトも箸を手に取った。

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