第21話 カップ麺、再び
「リクトさん、リクトさん。今日のお昼はカップ麺にしましょう! こだわり醤油味と本格とんこつ味、どっちがいいですか?」
「どっちも知らない味で食べてみたいが……今日のカップ麺は家の収納棚に常備してある物より器が大きくきらびやかではないか?」
「あ、気づいちゃいました?」
一花は燦然と輝くカップ麺を両手に掲げ、ふふんと得意げに嗤う。
「これはコンビニ限定の高級カップ麺なのです! いつものカップ麺より100円はお高いのですよ!」
「おぉ!」
あまりの眩しさにリクトは兜越しの目を細める。
「なんという贅沢を……! 一花殿、気は確かか?
「心配はご無用です」
オロオロ狼狽える重戦士に、女子高生は自信満々で胸を張る。
「コンビニのアプリに対象商品の100円引きクーポンがついていたのです! しかも、QRコード決済で10%ポイント還元! 節約しながら贅沢できる完璧な布陣!!」
「す、すごい。意味はこれっぽっちも判らんが一花殿が軍師に見える……!」
実際はごく一般的な買い物だが。
フタを半分剥がして小袋を取り出し、先入れ具材を入れて湯を注ぐ。
スマホでタイマーをセットしている日本の女子高生の横で。異世界の重戦士が「むむむ」と唸りを上げる。
「一花殿、大変だ。俺はとてつもない難問にぶち当たったぞ」
「? どうしたんですか?」
首を捻る一花に、リクトは手のひらを突き出して、
「見てくれ! 『お召し上がりの直前に入れてください』と書かれた小袋が3つもあるぞ。どれから入れるのが正解なんだ!?」
……。
「お湯を入れて規定時間待って、麺をほぐした後ならどれからでもいいんじゃないですか?」
「そんなわけにもいかんだろう!」
適当な一花の答えにリクトが食い気味に噛みつく。
「もっとも美味しい形で食べなければ、作り手にも失礼だろう。どの順で直前に入れればいいのだ? 3つ同時に開けて投入すればいいのか!?」
「……私、リクトさんのそういう探究心、良いと思いますよ」
その時、丁度スマホからアラーム音が響いた。一花は悩むリクトを置いて、完全にカップ麺のフタを剥がして後入れスープを混ぜてラーメンを啜り出す。
「リクトさん、麺のびますよ?」
「ちょっと待ってくれ。もうちょっと考えたい」
ちゃぶ台に肘をついて頭を抱える重戦士を見ながら、一花は美味しく昼ご飯をいただいた。
そして……『どこからでも切れます』小袋は、今日もどこからも切れなかった。
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