第15話 異世界のこと
「リクトさん!」
学校からの帰り道、駅前で後ろ姿を見つけて駆け寄る。
「おお、一花殿。おかえり」
「ただいま。リクトさんも今帰り?」
「ああ」
ガションガションと鉄の鳴る音を聞きながら、重戦士と女子高生は並んで歩く。
「駅から
篁家と東風野川駅の距離は徒歩15分。歩けない距離ではないが、疲れている日は足も重くなる。しかし、
「一日で山を二つ越えたり、中腰で洞窟の中を三日間探索していた生活に比べれば、真っ平らな道ど幾日でも歩いていられるぞ」
……現役冒険者に訊いた一花が馬鹿だった。
「やっぱ駅まで自転車で行こうかな? でも、駐輪場が高いしなぁ」
利便性を取るか、節約に勤しむかで悩む女子高生に重戦士は首を傾げる。
「ジテンシャとは?」
「あれです。二輪の乗り物」
一花は丁度通り過ぎたクロスバイクに視線を向けた。
「ほう。あれのもっと丈夫そうなのと対決したことがあるぞ」
「原付バイクですね。ネットニュースで観ました」
トレンド上位に上がっている全身甲冑を見つけた時は目眩がした。
「原付バイクは免許が要るからわたしは運転できないんですが、自転車は乗れますよ」
「この世界の乗り物には操縦に資格の要る物もあるのか。あれもか?」
「あれもです」
行き交う自動車を指差すリクトに一花は頷く。
「リクトさんの世界では操縦資格の要る乗り物はなかったんですか?」
「資格というより所有できる財力があるかだな。船乗りなら船を、乗り合い獣車なら引き手を確保しなければならない」
「乗り合い……獣車?」
「魔獣が客車を引く乗り物だ。双角熊などは力が強く一遍に百人は運べるぞ。この国にはないのか?」
「馬車はありますが、魔獣はちょっと……」
戸惑う一花の言葉にリクトが食いつく。
「馬車か。馬はトツエルデにもいるぞ。クエストで遠出する時は、ギルドの装甲馬を借りることもあった」
「装甲馬! リクトさん、馬に乗れるんですか?」
今度は一花が食いついた。
「ああ。トツエルデの民は大抵乗れるぞ」
「装甲馬って甲冑着てるんですよね? リクトさんとお揃いだ。かっこいいなぁ」
目をキラキラさせる一花に、リクトは訂正する。
「甲冑を着るというか……鱗自体が金属だな」
「……鱗?」
「そう、特に首と胸の鱗は分厚くて、額の飾り鱗の輝きは、それは見事で――」
「ちょ、待って、待って!」
話し続ける異世界人に、日本人は待ったをかけた。
「鱗があるんですか? リクトさんの世界の馬には?」
「装甲馬にはな。泳魚馬には鱗に加えてヒレもあるし、有翼馬には羽がある。この世界の馬は違うのか?」
訊かれた一花は無言でスマホをタップして、検索画面をリクトに向けた。
「なっ!? これが馬か? 姿は似ているが、鱗もヒレないぞ!」
「……わたし、たまにリクトさんが異世界人だと実感します」
今度一緒に動物園に行こう。
そう心に決める一花だった。
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