第14話 重戦士とサーコート
晴れた休日は、布団を干す。
「これで夜はふかふかお布団で眠れますよ〜! 約束された勝利!!」
狭いベランダにぎゅうぎゅうに布団を二枚並べて、一花はご満悦だ。
「天気がいいと、それだけで気分が上がりますよね。今日は暑くも寒くもなく、風が穏やかで最高の日だ!」
言いながら畳に寝そべる同居人を、重戦士が呆れた目で見下ろす。
「最高の日なのに、外に出ないのか?」
「天気がいい日に外に出ずに家でゴロゴロするのが至福の贅沢なのです。家以上に安らぐ場所なんかないじゃないですか」
一花は基本インドアな人間だった。リクトは「そんなもんか?」と首を傾げつつ、ちゃぶ台の前に胡座をかく。
「俺は旅ばかりで自分の家を持っていなかったからな。屋内に留まる方が落ち着かん」
「そうなんですか? じゃあ、普段はどんなところで寝てたんですか?」
「クエスト中は野宿。仕事がない時はギルドの宿泊施設が多かったな」
「荷物は? 服とかキャンプ道具とか、クエストの戦利品は?」
「持ち歩ける量しか持たん。大きな荷物が出来た時は、売って現金にする」
絵に描いたような冒険者生活を送ってきた重戦士に、日本の女子高生は俄然興味が湧いてくる。
「冒険者って、どんな仕事するんですか?」
「魔物を討伐したり、山で薬草を集めたり、荷物を配達したり、キャラバンの護衛をしたり、様々だ。魔物が出ないだけで、今の生活とあまり変わらん」
異世界から来たリクトにとっては、日本の道を歩くのはダンジョン探索と同じくらい物珍しいことなのだろう。
「そういえば、トツエルデの気候って、どんな感じなんですか?」
「どんな感じとは?」
「晴れたり雨が降ったり雪が降ったり、暑かったり寒かったりしますか?」
「晴れが多いが、たまに雨も降る。夏は暑く、冬は寒い」
「あ、トツエルデにも四季があるんだ」
月が五個も出る世界なのに、案外日本と気候が近いようだ。
「じゃあ、夏の暑い時って、鎧はどうするんですか? 金属ってめちゃめちゃ熱くなりますよね?」
気密性の高い全身甲冑の中に閉じ込められていたら、ホイル焼き状態にならないのかな? と心配する一花に、リクトはさらりと答える。
「そういう時のためにサーコートがある」
「サーコート?」
「鎧の上から羽織る上衣だ。照りつける太陽や雨で錆びることなどから鎧を守る。俺は野良の重戦士だから、必要な時にしか使っていなかったが。騎士団所属の騎士は揃いの紋章入りサーコートを着ていた」
「へぇ」
一花は中世戦記映画やファンタジーゲームのグラフィックを思い出す。あの騎士達が着ていた上衣は、ファッションだけでなくそういう役割があったのか。
「リクトさんは今もサーコート持ってるんですか?」
「いや、生活用品の入った背嚢は、この世界に来た時に役人に接収されてしまったからな」
……本来なら、真っ先に甲冑や剣を没収されそうなものだが、それは重戦士が頑なに拒んだのだろう。
一花はいいことを思いついて、体を起こしてちゃぶ台の向こうのリクトに身を乗り出した。
「じゃあ、リクトさんが夏まで日本にいたら、わたしがサーコートを作ってあげますね。日本の夏はそりゃあもうえげつない暑さなんです。リクトさんの身長なら、古いシーツを折り返せば丁度いい長さになりますよ」
浮かれて未来の予定を語る一花に、
「それはありがたいが……」
リクトは戸惑ったようにボソッと、
「何故、古布の再利用が前提なのだ?」
……。
「えっ?」
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