第2話 公爵令嬢、そして王子からの誕生日プレゼントー②

 エレニアは退屈であるだけで行きたくもない王宮へ向かう馬車の中で自分を犠牲ににしてでも家族や家の皆んなを守ると心を強くし綺麗な赤色のドレスに相応しい笑顔で平然としていた。彼女が乗っている馬車より先を走っている馬車には父上と母上が乗っていてそれは欲深い王子の機嫌を損ねる訳にはいかないため一人で寂しく王宮へ向かっているのであった。


(ガビル王子は自分勝手だからね、あたしをゲスな顔で妊娠させたいとか言うダメ人間だから父も母も誰もこれ知らないし,ってあたしが誰にも話してないから仕方ないけど。他人に言ったらその人をぶっ殺すとか言うし、はぁどうすればいいのかな)



 エレニアはバカ王子が本物の聖人族であれば性欲を制御できているはずなのに、制御しきれていないという事実にいつも疑問を抱いていた。彼女が知識で得ている聖人族とは破壊神<ルーデスド>に影響されない崇高な存在であるはずだが何故か<13歳の夢>の影響も受けていて堕落人種とは違いマンドラゴラの薬によって回避しているとか母上に聞いた覚えがある。つまり、聖人族が破壊神の影響下にないということは事実嘘になるわけで誰でも考察できるはずの事実から皆目をそらして自分の権力や力のために仮面をかぶっていた。


 しばらく一人で考察してもどうにでもできない現実に対して思っていれば王宮につき馬車のドアが外側から開くのであった。そのドアの向こう側にいるのは誰でもなく王子ガビルであった。彼はエレニアと似ているがちょっと薄い金髪でサファイアみたいな青い目をしていてエメラルドのエレニアとはまた違う印象を与えた。白い王宮の服は青と金色の紐で飾られていて青いマントには王家を現す白き旗を持っている天使二人が王家の王冠を手に持って祀っている紋章がうなじの下の部分に刻まれていた。


「おお、我の愛しきエレニアよ」


 第1王子<ガビル・エラダスケダニア>は興奮してそうな顔で彼女に手を差し出した。その手を丁寧に取りエレニアは馬車から降りる。そのせいか王子ガビルはとても満足しまた変なことを口にする。


「やはり君ではないと物足りないな、早く13歳になってはくれないか?」


 欲に満ちた彼はエレニアの体を欲しがりそう言うのであった。欲深い彼は変に法律的に禁じられている13歳未満の結婚に関してはきちんと守っている。


(吐きそうだわまじで、でも笑顔笑顔にしなきゃ。あたしの命だけじゃなく皆のためだよエレニアしっかりしよう)


「わたくしもガビル様の妻になることをいつも待ち望んでいます」


「ふーむ、そうか。ならもう少し我慢することにしようじゃないか」


「感謝いたします、ガビル様」


 ガビルと手を繋ぎそのままエレニアは兵士たちが左右厳重に並んでいる綺麗な王宮の道を歩き彼女の誕生日を祝うための会場へと向かい始めた。




――――


 (えーと会場についてから体感で1時間ほど過ぎたかな?だるすぎるわ。ってガビルはあっちこっち忙しくあたしの自慢をしてるし、あたしの誕生日なのになんでここに座ってるだけなのよ!まぁあの王子が誰かがあたしに話しかけることすら許さないから仕方ないか、諦めよ)


 そうエレニアは極度に退屈な誕生日パーティーを過ごしていた。ただ自分の席に座り誰とも話せず、他の令嬢たちとも群がれず、ただただそこに座っているだけ。


 ニコニコと笑顔を作ることしかできなくアデリアもいないそんな誕生日会場で辛い経験をしていたら、王子ガビルが兵士達と一緒に会場から出て行く姿が目に見えた。


(どこに行くのかな?はぁ息苦しいわ。なぁにあんなに楽しそうな顔でどっか行っちゃって、ちゃんと婚約者の相手もしろよっつーの。こんなドレスのまま椅子に座って1時間以上ニコニコしているのも辛すぎるし、何も喋れないから口の中も乾燥して死にそう。飲み物もガビルじゃないと渡してくれないし、まじで何なのよ。こんな王宮可笑しくない?神様がいるなら本当に本当に願わくばあたしを救済してくださいな)


 パラディンの称号を持つには当然信仰の力、つまり奇跡を行使できるっとのこと。エレニアもまた神の下部として唯一神である<ヴォリチェード>へその信仰を捧げていた。神の存在を科学の世界で生きていた彼女は否定するかも知れないが、神の存在を否定し続けるものは奇跡を永遠に使えないという事実、また自分も王子ガビルにより心が砕けそうになった日以来、神に信仰を捧げたら奇跡を使えるようになったところからその存在証明になっていた。


――――


 あれこれ30分くらい考えていてたら会場を出て行った王子ガビルが息を荒らしながら帰ってきた。彼は何故か嬉しそうな顔でエレニアに向かって速足で歩いて30秒も満たない時間で彼女の前に立った。エレニアは彼が一体何のつもりなのか見当もつかなかったが首を少し傾け疑問を伝えた。


「ああ、エレニア。君のための誕生日プレゼントができたんだよ」


 子供のような純粋とも言えるほど喜ぶ顔でそう言ってくる彼に違和感を感じエレニアは一瞬吐き気がしたが外に出さず我慢するのであった。そう耐える彼女の手首を強く握り会場の皆へいきなり大声で叫び始める。


「今から我の婚約者であるエレニアへ特別なプレゼントを贈るためしばし席を外す!皆気にせず交流するが良い!誰も付いて来るのは許さん!」


 と言いながらエレニアの手を引っ張り彼女を椅子から起こし外へ続く扉に向かい始めた。彼に引っ張られるまま抵抗することもできずエレニアは長く座り続けた椅子からやっと解放されたがそう嬉しいものではなかった。


(誕生日プレゼント?この会場がそうなんじゃなかったの?へーほんの少しだけ気になるかな)


 エレニアはほんの一瞬だけこの人も配偶者になれる人に対して何らかのロマンチックな考えができるのかと感心するが手首が痛くなるほど握る彼にそんなはずはないと気を取り直した。


「君の9歳の誕生日にお似合いのプレゼントができたんだ。これをちゃんと見せておかねば」


 彼はウキウキした表情でそう語るのであった。


(できた?見せる?準備してたものではないの?あたしが王宮に来てから準備したのかな?なんだろうね。どうせしょうもないものだろうけど)


 もともと準備していなかったことを確信した彼女はもう期待する気持ちは1ミリグラムも残らなかった。引っ張られるまましばらく王宮内を歩き回されていたら奥側の彼女の記憶が正しければ王子ガビルの個室がある区域に向かっていることに気づいた。


(あれ?ここ進むとそうだよね?え?え?いやいや13歳までは我慢するんじゃなかったの?)


 エレニアはいきなり王子の部屋に向かっていることに慌てて口を開く。


「ガビル様、わたくしはまだガビル様の個室に入室することは許されていないはずです。どこへ向かっていらっしゃいますの?」


 少し恐怖感が感じられる震え声が出てしまった。パラディンの修行をして結構強めの精神力を持つエレニアだったが、やはり犯されるという恐怖からは逃げられることはできなかったんだろう。その震え声が気に入ったのからガビルは平気だよと言いそうな顔で返答する。


「心配無用。我の部屋に向かっているわけではないぞ。我の趣味の部屋だ」


(趣味?クソ嫌な感じがしますけど、この人の趣味って変態ぽいのじゃない?絶対そうだよ)


 しかし、エレニアの想像をはるかに超える風景が彼女の目に映るにはそう長い時間が必要なかった。守っている兵士も誰一人見当たらない王子の趣味のための部屋その扉にすぐにも辿り着く。


「これぞ、君への誕生日プレゼントだ刮目せよ!」


 と叫びながらドアを両手で開きだした。


「おえぇぇぇぇ!」


 急にエレニアは吐き散らし始めた。今まで生きてて一度も出したこともない変な声で地面に腰を下ろしながら吐く。


(ウソウソウソウソ!やばい目にした瞬間吐くことしかできなかった。あれ…?えっ…)


 綺麗なドレスが汚くなったがそれどころじゃなかった、いやどうでもよかった。


「やっとだ!やっと君の作っている笑顔をぶち壊すことができたよ!今日はとても良い日ではないか!記念日にせんとな!」


 ガビルは成し遂げたという感情が溢れる声で嬉しくその場で踊るように足を動いた。


(えっ…えっ?部屋の奥にいる死体…いや、首…あれってア…アデリア?)


 彼女の目線の先にいるのは人間の死体を部分的に切り刻みトーテムのように飾っている血まみれの部屋であった。そしてその真ん中に飾られているのは王宮に来てないはずのメイドアデリアの首が目を閉じたまま吊らされていた。


「君の家族を直接トーテムにするわけにはいかないからなー。王家にも損があるし、まあメイドなら良かろうと考えたのは正解だったな!普段から君からの寵愛を独占する汚い娘をいつか殺してやろうと思っていたんだよ」


 ガビルはそうはしゃぎながら続けて語る。


「君は我の物だ。前にも言ったはずだが君の一族もこうなりたくなければ我に逆らうのは絶対許さん。我の前で作り顔もやめろ、ゾクゾクするほど生々しい今の君の顔がよほど美しいからな」


 ガビルはそう挑発し、その言葉にエレニアは何も言えずただ恐怖に怯えるのであった。




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