転生公爵令嬢は悪を滅ぼす聖なる乙女となる

萩の花

1章 オルティア王国

第1話 公爵令嬢、そして王子からの誕生日プレゼントー①

 ちゅんちゅんと小鳥が鳴く音が聞こえてくる頃に赤色の豪華なベッドの上には可愛いらしい幼い女の子が眠っていた。彼女の名前は<エレニア・ディバイン・クラウディア>と、オルティア王国クラウディア公爵家令嬢であった。


「エレニア様起きてください!今日は忙しいですからね!」


 メイドに見える地球の年齢で13歳くらいに見える女の子がカーテンを開き日差しが部屋に入ってくるとベッドで寝ている綺麗な金髪を持つ小さい生き物はぐるぐると体を回しながら


「あと5分…」


 と人間の睡眠欲に抗わなく呟くのであった。しかし、茶髪で青い目でしっかりしている顔立ちのメイドは彼女の我が儘を許すわけがなく。


「オ!キ!テ!ください、エレニア様!今日はエレニア様の9歳の誕生日ですからね?許嫁の第1王子<ガビル>様が直々誕生パーティーを開くと仰いましたからね?!もう6時ですよー、早く起きるのです!」


 ベッドで第1王子の名前を耳にしたエレニアと呼ばれた女の子は枕に顔を埋めて足をバタバタし始めた。彼女は第1王子の許嫁になってからクラウディア領から離れ王都ヴォルシャにいる屋敷で住むこととなっていた。


(せっかく公爵令嬢に生まれ変わったのに、まぁ、王子というのはいいのよ?でもあの人性格可笑しいもんね。はぁ、第2王子の方が好みだけどなぁ)


 枕から顔を離すとそこには貴族の令嬢に相応しい可愛い見た目をしている緑眼の少女がいた。彼女はほっぺたを膨らまして気に食わない表情でぶつぶつと小さい声で何か言っていた。


「子供じゃあるまいし、エレニア様!しっかりしてください」


 何を言っているのかは分からないが茶髪のメイドは自分の主人がまた仕様もないことを考えているとため息をするのであった。


 とするとベッドから上体を動き不満そうな顔で起きたエレニアは退屈だけで行きたくもない王宮へ向かう準備をするためやっと自分の足で立ち上がるのであった。


(だりぃーエレニアで生きてもう9歳、いや、地球の歳で換算すると約11歳だっけ?ここの1年って462日だし)


 彼女は面倒そうな顔でパジャマで着ていたややピンク色のネグリジェのような服をそのまま脱ぐと茶髪のメイドが側に来てその服を手に取ってから主人が秋の季節の中寒くならないようボディータオルを巻いてくれた。


(公爵家で生まれたのはとても嬉しかったけどこの世界じゃ前世の記憶をあまり活用できないから自分で努力するしかないんだよね。クラウディア家はディバインという何故か英語で出来ている称号持ちでパラディンを多く輩出した家系だから肉体的にも精神的にもとても辛くて辛くて誕生日くらいはゆっくりしたかったのになぁ)


 エレニアは相変わらず文句で表情が良くないまま自分の部屋についている浴室へ向かい歩き始めた。その後ろを世話をするため茶髪のメイドが続く。


(この世界の人間は聖人族と堕落人種で分けられていて王族と貴族は聖人族として魔法と奇跡を使えるってここまではいいんだけど、堕落人種にも体に魔力が流れてはいるしむしろ全ての生命体に魔力が自然に流れているから強化した攻撃じゃないと攻撃が通用しないんだよね。つまり銃や矢が無駄っていうか、矢はなんか魔力の糸を繋いでおけばいけるとか聞いたことあるけど実際見たことはないし)


 彼女が浴室に入るとそこには既にお湯が用意されていてゆっくりと足を浴場に入れ全身をほぐし始めた。


(はぁ、政治とか通貨とか前世で学んだ基礎的な知識などはまったく使えないからね。もう全部ちゃんと整えられているしこの国。何が異世界転生無双だよそんなの全然無理じゃん)


 ブツブツと口をお湯に潜らせ茶髪のメイドに聞こえないように何か文句をするようであった。


「ねぇ、アデリア ガビル様に嫁いだらあたしただの子供を産む御人形さんになってしまうのかな?」


「エレニア様は小さい頃から物知りがよく、あと少しで女性として数十年ぶりのパラディンの称号を手にすると言われているお方なので、流石にそのような扱いにはならないのではないかとこのアデリアは思いますけど」


 青い目で実際優れた人材である主人の目を真っすぐに見つめながらメイドはそう話すのであった。


「あの王子、前あったときなんて言ったのか知ってる?あたしが13歳になるのが待ち切れないとか言ったのよ?体的な意味でね」


エレニアは呆れた顔で嫌そうに話すのであった。彼女にとっては女性の体を欲するのは理解できるけどまだ幼女である自分に向かってあんな言動をする第1王子が理解できなかったのだろう。


(常識的に考えて許嫁に対して犯したいとかの意味で言うのはないでしょ、ものにするとかきっも)


「エレニア様、7時には奥様が用意しているドレスに着替えないといけないのでお早めに体を清らかにしましょう」


「そうね。お願いするわ」


 お湯から出てきたエレニアは目を閉じて今日行われる誕生パーティーが無事終わりますようにと願った。


(アデリア以外あたしの部屋に入れないのもあのクソ王子のせいなんだよね。男のくせに嫉妬とかありえん、ってかアデリアは小さい頃からあたしと一緒に育ったお姉ちゃんみたいなポジだし?今日もアデリアは家で留守にしておかないと何されるかわかったもんじゃないわ)


 そうお姉ちゃんともいえるメイドに綺麗な金髪を洗い流されると気持ちよさそうにエレニアは顔が柔らかくなっていった。


 4歳の時、王子の婚約者として決められて以来から毎日が嫌になっていくエレニア、それでも家族や家の使用人たちのために一生懸命頑張って我慢したのであった。彼女にとってはこの婚約が生まれ変わってから受ける前世での罰と思うくらいだった。不真面目で親に心配させたあげく、大学生になって夏休みの海でクラゲに刺され死亡したという。


(運がないものよ成人でクラゲの毒に死亡する例はあまりないはずだけど小柄だからかクソ辛く死んだんだよね。で、公爵令嬢と生まれ変わってやったあたしの人生始めたな!と思ったらこれよ)


 かつての死亡の記憶で体が震えるとアデリアは主人が寒いと感じたと勘違いして水の温度をもっと上げた。


(あったかーって中世みたいな世界なのに普通に蛇口ついているし魔石で温度調節もできるんだよね。これ絶対あたしより早くこの世界に転生した人が作ったんだろうな)


 清潔に体を流すと浴場の中にいい香りが広がっていく、何も知らないアデリアは主人が王子様によいアピールになるだろうと奥様が手に入れた清潔材を満遍なく使ったのであろう。ゆっくりと濡れている髪をタオルで拭くとキラキラと感じられるほど美しい金色の髪がより目立つのであった。アデリアはその主人の髪がとても好きであった。


「行きたくない、行きたくない」


 いきなりエレニアはそう愚痴をした。


「なりません」


「ねぇアデリア、貴族の中でもなんであたしだけこんな早くも婚約者が決まったの?あたしは子を増やす結婚なんかよりもっと色んなものを見て色々経験をして知識も増やしたいのに、聖人族の数も足りてると思うけどなぁ」


 裸で立ちながらそう彼女が話すとアデリアはその白い肌をボディータオルでまた囲みながら答える。アデリアのことお姉ちゃん見たく思ってくれる彼女だからさっきも似たような愚痴をしたはずなのに軽々しくメイドである自分に不満を吐くのであると理解していた。


「エレニア様は幼い頃から聡明な方ですからガビル様のお気に入りになったのでしょう。聡明なエレニア様はこの世のため、また聖人族の偉大な種を後世に残すため義務を全うするほかありません」


「つまらない答えね、アデリア。その義務は理解していても14か15歳で母にならないといけないのは退屈で嫌いだわ。母上もエルニッツ兄さまを産んだのが20歳だったのに6年も早いって可笑しくない?王国でも平均的な婚姻年齢は確か17歳だったよね?成人の13歳になってから直ぐに子を産む人形になるって嫌よ。あの王子を体に受け入れないといけないとか最低、あんな馬鹿のことか絶対産みたくないし孕むことすらごめんだわ」


 エレニアの愚痴が止まらなく早言で続く


「聖人族の寿命は150年もあるのにその10分の1でなんもできずただ子を産めとかありえない、本当に大嫌いっ!」


 アデリアは毎日のように聞いたその愚痴を自分は聞いてないと考えながら黙って風呂場を出て行く主人の後ろに続く。


「はぁ、アデリアが羨ましいわ。幼い頃には姉妹みたくしてくれたアデリアは最近どんどん距離感を感じるし。魔法を使えるから他の堕落人種より良い生活が保障されていて、結婚相手も自分で決められるし。貴重な人材だから結婚後もメイドとしてちゃんと仕事できるし。あーあ羨ましいってば」


 アデリアは何も言わずエレニアの髪を整えるのであった。彼女は主人が距離感を感じていることを知っている、それは自分からそう振舞ったからであって歳をる度世の中を理解し始めた頃には可愛いエレニアと自分は別の世界で住んでいることを理解したからであろう。


 エレニアはそのせいかアデリアも王子に奪われた気分になって愉快ではなかった。パラディンの訓練も母上に止められてもやり続けた理由は訓練中には何も考えなくてもいい、自分の力では何も変えられない現実から逃げることができたからだった。パラディンになれれば子を産む人形になることを少しは遅らせると信じているけど、今のままじゃその願望も無駄になるだけであった。国の最戦力であるパラディンに向かってはあの王子もそう簡単に扱うことはできないとその一点に賭けているのであった。


(やっぱりこんな感情や気持ちになるって聖人族というのも大したことないかもね…何が7つの大罪に抗える人族なんだよ。ガビルとあたしでもう聖人族ってないって証明できるじゃない。くだらないわ)


 エレニアはそう不満そうな顔が笑顔になることもなく坦々とアデリアのおめかしに身を委ねた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る