第13話 大江山
「さあ、着いたぞ」
ベンケイが言った。
蜘蛛の化け物を退治した翌日、私達は早くも次の目的地に向かった。
「次は大江山に行く」
私達は今朝、ベンケイにそう聞かされ、今その大江山の上空にいる。
「大江山には何をしに行くのですか?」
私が聞くと、
「
サラッとベンケイが言った。
「しゅてんどうじ!?」
「討伐!?」
酒呑童子について詳しいことは知らないが、“討伐”という言葉には”退治“以上にただならぬ出来事という意味合いが感じられる。
「しゅてんどうじって……」
私がこわごわと聞くと、
「うむ、近辺の村や街を襲って金品を強奪する、いわゆる盗賊団の
ベンケイが説明してくれた。
「盗賊団の頭目!?」
「その頭目を……」
「私達が討伐!?」
「できるのですか……?」
私達が口々に不安や疑問を言うと、
「まあ、やるだけやってみることだ」
と、相変わらずあっさりと言うベンケイ。
「その盗賊団にもたくさん人が……悪い人が集まってるんですよね?」
和叶が聞いた。
「そうだな、これ以上ないってくらいにガラが悪い悪党どもが数十人いるな」
「「「「ひぇええーー!」」」」
私達は四人で固まって抱き合いながら悲鳴を上げた。
「大丈夫だよ、君たち」
と、半泣きの私達にライコウが言った。
「酒呑童子討伐も僕の役目だからね」
と、自信満々で言うライコウに、
「「「「…………」」」」
私達は無言で
「あ、僕を信用してないね、君たち」
そう言うライコウに、
「だって……ねぇ……」
「「「ねぇ……」」」
昨日の有り様を見れば、信用しろというほうが無理というものだ。
「そうかい、やっぱり君たちは……」
と、表情を曇らせて、またしてもイジケモードに入ろうとするライコウだった。
が、そこにツナが割って入って、
「今回は私の他にも三人が加わりますので」
と、言った。
「そうだ、今日は四天王が揃うんだよ、うんうん!」
と、ツナの助け舟に
などとやっているうちに輿は大江山に着いた。
山の中腹に、山腹をえぐり取って平らにしたようなところがあり、輿はその平場に降下していった。
えぐられた山腹には大きな洞窟が見える。
私達が降りていくと、そこに待っていた三人の武者がやってきた。
「ライコウ様」
三人の中でも
「おお、キンちゃん!」
ライコウがご機嫌で答えると、
「ライコウ様」
「ライコウ様」
と、他の二人も歩み寄ってきた。
「サダとタケも。みんなよく来てくれたね」
「あの人たちが四天王?」
ライコウを取り囲む武者たちを見て私が言った。
「ああ、そうだ。ツナの他に、キン、サダ、タケの四人で四天王だ」
ベンケイが答えた。
「あの、キンちゃんって呼ばれた人、すごく大きいね」
華耶が言うと、
「そうだな、怪力無双のキンタロウとも呼ばれている」
「キンタロウ!?」
「相撲で熊を投げ飛ばしたキンタロウ?」
「いつも
私達が口々に言うと、
「まあ、そのへんはどこまでが本当かは分からんが、奴が強いということは間違いない」
と、ベンケイが太鼓判を押した。
「ようし!それじゃぁ、ちょいちょいと酒呑童子を倒しちゃおうかな」
心強い援軍を得て、ライコウは四天王を率いて意気揚々と洞窟へと入っていった。
が、―――――――
「ぐぁああああーーーー!」
「やられたぁああーー……」
「無念……」
「後は頼みます……」
あんなに強そうだった四天王はあっさりとやられてしまった。
「き、今日の酒吞ちゃんたちはつ、強いねぇ、ははは……」
四天王を倒されて、ならず者達の前に一人で立って、ライコウは脂汗を流している。
「ふっ、お前らが弱いんだろうが」
奥にいる女性が答えた。
ここは、洞窟の奥、盗賊団のアジトがある広間のようなところだ。
その、広間の奥の一段高くなったところの座敷に、今、ライコウに答えた女性が片膝を立てて座っている。
鮮やかな柄の着物を心持ち着崩した、
その人こそ酒呑童子だった。
「なんだいなんだい、全く相手にもならないじゃないか」
酒呑童子が言った。
「酒呑童子って女の人だったんですね」
私がベンケイに聞くと、
「今回はそのようだな」
「今回は?」
「うむ、その時々で男だったり女だったりするのだ」
「そうなんですね……」
納得できたようなできないような、もやもやした気分だったが、その話はそこで終わりにした。
「それじゃあ、一気にケリを着けちまおうかねぇ」
と、酒呑童子がならず者たちに指図をしようとしたところで、
「まあ、待て」
と、ベンケイが言った。
「ん……?」
酒呑童子は片方の眉を上げてベンケイを見た。
「こっちもまだ終わりではないぞ」
そう言ってベンケイは私達を手で指した。
「「「「え?」」」」
(まさか私達が……?)
ここは、ライコウと四天王に任せるんじゃなかったのか?
「なるほど……その娘っ子達が切り札ってわけかい」
酒呑童子はニヤリと
「まあ、そういうことだ」
相変わらずサラッと何事もないように言うベンケイ。
「ちょ……ベンケイさん!」
「話が違います……!」
「無理です……」
「ブルブル……」
あの強そうなキンちゃん達四天王があっさりとやられてしまったのだ。
(やられ方が妙にあっさり過ぎる気はするけど……)
とはいえ、今度の相手は本能のまま突っ込んでくる化け物ではなく、戦い慣れしているならず者達だ。
普通の十六歳の女子の私達が戦って勝てる相手であるはずがない。
「ベンケイさん……」
私は涙目でベンケイ訴えかけた。
「心配するな、とりあえずやってみろ」
ベンケイから予想通りの答えが返ってきた。
そんな私達のやり取りを見ていた酒呑童子が、
「野郎ども、やっちまいな!」
といきなり手下に発破をかけた。
「「「おおーーーー!」」」
男達の野太い声が響く。
「へっへっへっ、可愛い姉ちゃんたちじゃあねえかぁ」
いかにも悪役という感じのおっさんだ。
つるっぱげで、顔は傷だらけ、口と顎には髭を生やしている。
その横にいるのは、なぜかモヒカンカットで顔には入れ墨、長い舌をレロレロしながらいやらしく笑っている。
「ヒッヒッヒッ」
(こ、怖い……!)
昨日戦った蜘蛛の化け物とはまた、違った意味での恐さがある。
「どうしようか……」
私はみんなを見ながら言った。
すると
「昨日話した
と、言うと、
「あ……そうだね、試してみるチャンスかも」
「え……あれをやるの?」
狐々乃の顔が曇った。
(確かに……狐々乃の気持ちもわかる)
と、私も思ったけれど、
「上手くいけば強力な技になるじゃない!私達も一緒にいるから、ね!」
と、私なりに精一杯狐々乃を元気づけた。
「「うんうん!」」
華耶と和叶も大きく
「それじゃ……すごく恥ずかしいけど……」
と、狐々乃も覚悟を決めたようだ。
「へっへっへっ、まずはそのお嬢ちゃんからかぁ〜?」
つるっぱげヒゲオヤジが狐々乃へ近づこうとした。
狐々乃は半身に構えると、首をめぐらして、見返りの姿勢でつるっぱげヒゲオヤジを見た。
そして、
パチリ!
と、片目でウィンクをした。
すると、
「うおぉおおおおーーーー!」
と、つるっぱげヒゲオヤジは叫ぶと、顔を真赤にして
「何なりとお申し付けください、お嬢様!」
と、狐々乃の前で土下座で額を地面に叩きつけた。
「おおーーーー!」
「やったねーーーー!」
「妖術【魅了】大成功ーーーー!」
私達は飛び跳ねて大喜びしたが、狐々乃は、
「うう……恥ずかしい……」
と、着物の袖で顔を覆っている。
「お嬢様、ご無礼を働いた
と、つるっぱげヒゲオヤジは膝をついたままズイッと狐々乃に近づいてきた。
「え……いや……!」
と、狐々乃が腕を振ったところ、着物の袖が軽くつるっぱげヒゲオヤジの頭に当たった、というよりは
すると、
ドゴォオオオオーーーーン!
と、とんでもない勢いでつるっぱげヒゲオヤジはすっ飛び、
「ありがとうございまぁああーーーーす……ぐぎゃ……」
という叫びとともに、大広間の反対側の壁に激突した。
「え……?」
狐々乃は
「すっごぉおおーーーーい!」
華耶が大喜びで狐々乃に駆け寄った。
「コノヤローーー!」
「やりやがったなーー!」
と、他のならず者たちが怒声を上げながら狐々乃に向かってきた。
だが、その恐ろしげな怒声にもかかわらず、ならず者達の顔は火照って、何かご褒美を期待するかのようなゆるゆるの表情だった。
だが、油断してはいけない。
「狐々乃っ!」
私は狐々乃のそばに駆け寄った。
「もう一回!」
和叶が叫ぶ。
「うん……!」
戸惑いながらも狐々乃は応え、
パチリ!
パチリ!
と、今度は両目で向かってくるならず者たちにウィンクした。
「「「「うぉおおおおーーーー!」」」」
たちまち、ならず者たちは狐々乃に【魅了】された。
「「「「お嬢様、お仕置きをーー!」」」」
「え……またやるの……?」
狐々乃が恥ずかしそうに言ったが、
「うん、やっちゃって!」
と、無責任にも私は言った。
「もう……」
狐々乃は左右の腕を交互に振った。
狐々乃の腕の動きに呼応するように、首に下げた
ドゴォオオオオーーーーン!
ドゴォオオオオーーーーン!
「「「「ありがとうございまぁああーーーーす!」」」」
ならず者達は歓喜の叫びとともにぶっ飛ばされていった。
と、ぶっ飛ばされた男の一人が酒呑童子に向かって飛んでいった。
(あ……!)
このままだと激突する、私はそう思った。
だが、酒呑童子は右手を握りしめ、拳の裏で飛んできた男を引っ叩いた。
男は、彼女の腕の一振りで横に吹っ飛んでいった。
「え……!?」
「片腕で……」
「座ったままで……」
「つ……つよい」
酒呑童子の桁違いの強さに、私達は硬直してしまった。
「やるじゃないか、あんたら」
酒呑童子はそう言いながら、ゆっくりと立ち上がった。
彼女もベンケイ同様、長身でしっかりとした体格の女性だった。
彼女は座敷から降りてきて私達と対峙した。
「それじゃあ、あたしが相手になろうかねぇ」
その艶めかしい笑顔に、私達は震え上がった。
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