第2話 大伯母さん
十六歳の誕生日も、いつも通り
「今日は大事なお客さんがくるから、学校が終わったら真っ直ぐ帰ってくるのよ」
朝の
「カフェでプチお誕生会やろうよ!」
と、
「本当にごめんね、今度絶対に埋め合わせするから!」
と、泣く泣く断って帰って来なくてはならなかった。
(それにしても、大事なお客さんって誰だろう……?)
その日の授業が終わると、華耶たちに「ごめんね!」を連発しながら、私はあたふたと一人家に向かった。
「ただいまぁーー」
玄関の扉を開けると、見覚えのない女性用の靴があった。
(お客さんは女の人か……)
居間に入ると、両親と一人の女性がソファに座っていた。
「おかえり、桃」
「おかえり」
母と父が笑顔で迎えてくれた。
(お父さん、今日は仕事休んだのかな……それとも早退か?)
などと考えていると、
「おかえりなさい」
お客様と思しき女性が挨拶をくれた。
「は……はい、ただいま……です」
こういう場合に、どう応えればいいのかわからなくて、しどろもどろになってしまった。
「こちらは遠い親戚の方で、桃の
父がお客様を紹介してくれた。
「よろしくね、桃ちゃん」
大伯母さんと紹介された女性が柔らかく微笑みながら言った。
「はい……よろしくお願いします」
私は軽くお辞儀をして答えた。
大伯母さんは、一見すれば四十歳前後の上品な感じの女性に見えた。
(でも大伯母さんということは……)
私の祖父母の誰かのお姉様ということになるのであろう。
そう考えればもっと上の年齢のはずだが、とてもそんな高齢には見えなかった。
「さあ、ぼうっとしてないで着替えて来て頂戴、桃」
母はそう言いながら自分も立ち上がった。
「あ……うん、すぐ着替えてくる」
思っていた以上に私は大伯母さんを見続けてしまっていたのだろう。
少し
私が居間に入ると、ちょうど母が私の分も含めて新しいお茶とケーキを並べているところだった。
(きゃぁああーーチーズモンブランだぁああーー♡)
チーズモンブランは
華耶たちにもそれぞれイチ押しのケーキがある。
華耶は王道の苺ショートケーキ、
(ありがとう、お母さん♡)
口には出さなかったが、私は目をハートにして母に感謝を伝えた。
母は軽く微笑みを返してくれた。
「じゃあ、座ってくれるか、桃?」
父がそう言いながら、大伯母さんの横の席を指し示した。
「はい」
そう答えながら、私は心持ち緊張しながら大伯母さんの隣りに座った。
「じゃあ、まずはお茶とケーキをいただきましょうね」
母がそう言ってくれるのをウズウズしながら待っていた私は、隣の大伯母さんに“がっついてる”と思われないように気をつけながら、お上品に(なったつもりで)大好きなチーズモンブランケーキをいただいた。
(うーーーーん、美味しいぃいいいーーーー♡)
ほっぺが
私は、一気に食べてしまいたいところを
そして、最後の一口までゆっくりと味わって食べ終え、ティーカップを手に取って周りを見ると、皆ケーキを食べ終えてゆったりと紅茶を飲んでいた。
(やば……私待ちだったか……!)
「それじゃ、話を始めようか」
父が私を見ながら言った。
コクリと
「うちが古い
「うん……千年以上続く家系なんだよね?」
「ああ、そうなんだ」
そう言いながら父は大伯母さんを見た。
大伯母さんは父に軽く頷くと、話を受け継ぎ、
「その後は私からお話をしましょう……」
と私を見ながら話し始めた。
「桃ちゃんは桃太郎のお話は知ってるわよね」
「……?はい……知っています」
予想だにしない話から始まったので、私は少なからず驚いて言った。
「
「そうなんですか……って……えっ……?」
(あれ……?私、何か聞き間違いをしたのかな……?)
大伯母さんは優しく微笑んで見ている。
「あの……もう一度仰っていただいてもよろしいでしょうか……?」
私は、さして賢くもない脳細胞を総動員して、最大限失礼のないように大伯母さんに聞き返した。
「騎美都家は桃太郎の直系の子孫の家柄なのよ」
大伯母さんは嫌な顔一つせず、優しい微笑みを崩さないまま繰り返してくれた。
「桃太郎の……直系の……子孫?」
やはり聞き間違いではなかった。
両親を見ると、母は多少気がかりな表情をしていたが、事前に話を聞いていたのであろう、それほど驚いた様子はない。
一方、父はいつも通り普通に笑顔だった。
私は基本的に新しいことや変わったことが好きな
未知なる体験にも不安よりも期待が先立つ、ある意味得な性格をしていると自分でも思っている。
だけど、今回に限っては珍しく不安が先立ってしまっている。
(い、一体、これからどんな話が始まるの……?)
私はゴクリと喉を鳴らして、大伯母さんの次の言葉を待った。
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