8.この町で
「ねぇ、ねぇ」
「何だ?」
「司さんはさ、どうしてこの町で暮らす気になったの?当初は訪れるのだけが目的になってたんでしょ?」
「まぁ、そうだな。気分転換というか、何というか……………とにかく、何かのキッカケになればくらいに考えて訪れたのは事実だ」
「うん。私が案内してあげた日にそう言ってたもんね」
「言ってることはその通りだが、そのドヤ顔が腹立つな」
「だって、どこぞの馬の骨とも知れぬおじさんを案内してあげたんですよ?私、偉いですもん!えっへん!!」
「………………こりゃ案内を頼む奴、ミスったな」
「え?あの時のことは今でも夢に見るぐらい感謝してるって?えへへ〜それほどでも〜」
「こいつのこのポジティブさは純粋に見習いたいな」
「で?早く話を前へ進めて下さいよ」
「……………」
「全く…………耳を離すとすぐに話が脱線するんだから」
「……………まぁ、それで誰かさんに案内して頂きながら、この町を見て回っている内に段々と住み心地が良さそうな感じがしてきてな」
「え?ここが?」
「ああ」
「え〜?そうかな〜?」
「長くその環境にいれば、当たり前になりすぎて気付かないこともあるさ。そういった時に外から来た者の意見は貴重だと思うぞ」
「……………という意見を書いた手紙を町長に向けて郵送したの?」
「しとらんわ!俺は一体、何様じゃ!!」
「末尾には"だから、これからは俺という新しい風を受け入れて、どんな無茶振りでも聞いてもらうからな"という脅迫とも取れる一文を添えて……………しかも差出人不明で」
「だから、俺は一体、何様じゃ!!しかも差出人不明って!!それ完全に"あ、調子に乗って書いちゃった!!でも、送ってみたい………"っていう末のチキン野郎の行動じゃん!」
「それか、厨二病とかね」
「どっちにしろ、嫌だわ!!」
「へ〜でも、そんなことがあったんだ〜」
「上手くまとめようとするな。それから、俺ん家の前で平然とスナック菓子を食うな」
「でもさ……………」
「ん?」
「私にとってはね、良かったよ」
「何がだ?」
「司さんがこの町で暮らしてみたいって思ってくれて」
「ん?お前、そんなにこの町のことが好きなのか?」
「うん!!まぁ、それだけじゃないんだけどね」
「それは一体、どういう……………」
「自分で考えて下さ〜い。明日までの宿題です!」
「ケッ!まぁ、気が向いたらな」
「ふふふ。お願いね」
そうは言いつつもその日は一日中、雪の言葉が司の頭の中を駆け巡っていたのだった。
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