第70話 索敵
数日は雪が酷く、一日降り積もった。
私は村の子供がいる数軒を順繰りに診て回った。
熱を出した子供も薪をくべて暖を取り、栄養のある物を食べるだけでもかなり改善されてきた。大人も子供も大多数が栄養失調で、痩せこけているか逆に顔も身体も浮腫んで太っているかだった。
野菜も肉も足りず、木の根や葉っぱを食べる事が普通だそうだ。
オラルドが置いて行った食物でしばらくはもつだろうが、頑なに物資を拒否する家もあった。侯爵を連れて行かれるくらいなら、食べ物も薪も拒否するという具合だ。
エルダを中心に、何軒かがそういう態度だった。
けれど子供がいる、または老父母がいるような家では命には代えられず、エルダと敵対しても薪や食べ物を受け入れた。
村人達の仲はぎくしゃくし、それはすべて他所からきた私のせいだった。
物資をがないならないで貧しくも仲良く生きていけた村は物資が手に入るとなれば、諦めてきた諸々を諦めずにすむようになり、その結果は団結にヒビを入れた。
幼い子供がいるにもかかわらず、エルダは断固として救助の手を拒否した。
侯爵を連れて行かれるという恐怖が、何よりも勝るのだろう。
「村長さん、お孫さんだけでも、こちらの家に引き取ったらいかが? 手持ちの薪もつきて、でもこの吹雪じゃ、森に木を拾いにも行けないでしょう? 食べ物だってないんでしょう?」
彼女が拒否しても村長と私で何度か薪と食料を家に運び、侯爵にも物資を渡したのだが、エルダは半狂乱になって、全てを外に投げ捨ててしまう。
それを見ている他の村人がその投げ捨てた物を拾いに行き、自分の家へ持って帰る。
他の村人にすればもったいない話だ。
私は定期的に彼女一家に回復の呪文で生気を回復しているが、飲まず食わずではいずれ彼女達は死に誘われるだろう。
「エルダは子供を離さんよ。ダンと引き裂かれるくらいなら一緒に死ぬだろうさ」
村長は私を非難めいた目で見た。
「お前が来たせいで、エルダも孫も死んでしまう」
と言いたいのだろう。
「ダン……村長さん、あなたのお孫さんが侯爵……ダン氏の子供じゃないのは分かってますわ。では、本当の父親、エルダさんの夫はどうなさいましたの?」
「エルダの夫は……死んだのさ。森に獲物を狩りに行ってな」
「そうですか」
その時、ドアが開いて隣人が顔を覗かせた。
「村長、エルダんとこの子供のが一人いなくなったとかで……」
「え?」
「一番上のジョーイがいないんだと」
「ジョーイが?」
ジョーイはエルダの長男で六歳の賢い男の子だ。
弟妹の面倒もよく見ていて、ヒステリックなエルダによく怒られているが、口答えもしない大人しい子供だった。
村長が血相を変え、家を飛び出したので、私も後に続いた。
各家からも人が出てきて、ジョーイの名を呼んでいる。
エルダも雪に塗れてうろうろとしている。
私は魔力を張って広げた。それは魔力を使用した索敵スキルだ。
ジョーイには会った事があるし、子供の気配を追う事は出来る。
子供の足では村の外へ出ないと思ったが、村から一キロも離れた箇所で人間の気配を察知した。
「アラクネ!」
「おっけー」
アラクネは私の意図を読み取り、すぐさま私の前で大型の蜘蛛の姿を現した。
「ここから北に一キロ」
「うん」
私がアラクネの背に乗ると、アラクネはすぐに飛びだそうとしたが、
「待ってくれ! 見つかったのか? 俺も行く!」
と侯爵がアラクネの背に乗り込んできた。
「え、ま、いいか。アラクネ、行って!」
大きな赤い蜘蛛が私と侯爵を乗せてぴょーんと飛び上がった。
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