第71話 森の熊さん
一キロほどの距離をアラクネは一瞬で飛び、雪の中に蹲っているジョーイをすぐに発見する事が出来た。この寒さと雪では一刻も早く発見しなけらば子供ではすぐに凍死の危険がある。
「ジョーイ!」
アラクネから飛び降りた侯爵がぐったりしているジョーイを抱き上げた。
「すぐに村へ戻りましょう!」
「ああ」
私達はすぐにまたアラクネへ乗り込んだが、
「やばい、リリちゃん……アイスベアーが……」
と言うアラクネの言葉と私達を覆う黒い影に頭上を見上げた。
「アイスベアー!」
と侯爵が言い、腰につけたナイフを手にして身構えた。
真っ白い巨熊がいた。
この世界の魔獣はたいがいが巨大で豪腕、凶暴で残忍だ。
前世のように危険だと言われていた熊や虎、ライオンでは比べものにならないほどそのサイズが大きく、出会った人間はまず食われる。
その巨体に似合わず足が速く嗅覚にも優れている。
人間の足で逃げるのは絶対無理で、冒険者でもSSクラスが集団でないととても挑めない種にアイスベアーがいる。
「対物結界強化!」
頭で考えるよりも先に言葉が出た。
オラルド達との旅は私に警戒心と素早さを上げさせた。
冷気遮断や対物理の結界は村を出た時から私達の周囲を囲んでいる。
アイスと名が付くくらいだから寒さには強いだろうが獲物が狩れず空腹なんだろう。
狂気を宿した目で、久しぶりの獲物を見下ろしている。
五階建てのビルほどの大きさで、ぼたぼたっと頭上から落ちてくる水滴は涎だろうと思う。
一歩でも動いた瞬間に襲いかかってくるのは絶対だ。
結界を強化しながら、私の右手に火の弾が生まれる。
ほんの少しの熱気にアイスベアーが反応した。
警戒したのか、うううと低く唸る。
「侯爵様、子供を連れてアラクネに乗って下さい。アラクネ、先に村に戻りなさい」
「リリちゃん!」
「そんな事は出来ない!」
とアラクネと侯爵が同時に言った、その瞬間、アイスベアーも吠えた。
その轟く咆吼で、近くの雪山や木からドサドサっと雪の塊が落ちた。
「私はここで仕留めます」
「危険だ、逃げなければ!」
「いいえ、逃げたら追って来ます。村から一キロですよ。一口で村中の人間が熊のお腹の中ですわ」
「俺も戦う。アラクネと言ったな。ジョーイを村まで頼む!」
と侯爵がジョーイの身体をアラクネの背に乗せた。
「侯爵様、この魔獣相手にあなたを護りながら戦うのは……」
「いいから、行くんだ!」
「へ、はい!」
アラクネは蜘蛛の糸をシューッと吐き、ジョーイの身体を包んで背中に巻き付けた。
これで落ちないだろうし、暖かさもあるだろう。
アラクネがぴょーんと飛び上がった瞬間に、アイスベアーが吠えてからそちらを向いたが、私の火弾が顔に当たったので、すぐに私の方を見て怒りにまた吠えた。
「死んでも知りませんよ」
と私は言った。
「俺は死なない。確かに記憶はないが、どうしても行かなければならない場所があるからな」
「それは? エルダさんの側ではなくて?」
「話は後にしよう」
「そうですね。では参ります。少し離れていてくださいな。熊の丸焼きを作りますわ。超・炎爆!!」
手の平に火がぽっぽっぽと灯り、それはすぐに百の数を超え、一つにまとまる。
それの塊がまた百を超え合体し、すぐに熊の頭部ほどの大きな火の弾になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます