第3話


一体なんだ?

間近でよく見ようと右手を床に着くとそのスペースに文字が表示された。


hoi;jo;


は?

呆然としている間に文字はスッと消えた。

それから手を着いた床の感触が少しおかしいことに気づいた。

右手を退け、今度は試しに人差し指を伸ばし、ゆっくり床に触れてみた。


u


続けて何度か試してみた。

あくまで慎重に。


r0,


文字は数秒でスッと消えてしまう。

あっ。分かった……かもしれない。

この文字が表示されるスペースの下にある床は、おそらくキーボードになっている。

だから文字を打ち込めるんだ。

ということは——

これがこの空間から出るためのキーなのかもしれない。


その後、キーボードらしき床を指で押していき、その都度現れる文字と空白。

間違いない。

これはキーボードであり、配列にも記憶がある。

とすると、ここに正しいキーを入力ことで、ここから脱出できる。

要は一種の脱出ゲームのようなもので、暗号をここに入れろということか。


なるほど。

一人納得していたが、それでも全ては仮説に過ぎない。

だが周りを観察したところで何か変化をもたらす仕掛けがあるわけでもなく、頼るべき場所はここだけだった。


そういえば——

ここが一応、隔離された空間だとしても自分一人だけという確証はまだ得られてはいなかった。


だから「お~い! だれか~!!」と大声で叫んでは見たものの反応は皆無だった。


ヒントを探して正しいパスワードを入力する。

しかしヒントらしきヒントは皆無。

いや、さっき見た文章がヒントなのでは?

でもどういう意味で?

あれがヒントだとしても、それの何がヒントであるというのだろうか?

どちらにせよ手掛かりが足りな過ぎた。

それとも力業で、適当に文章を打ち続けて鍵をこじ開ける?

パスワードが何文字かすら分からないのに?

それこそ天文学的な確率だろう。

猿がタイプライターでハムレットを再現するようなものだ。


……いったん落ち着いて、状況を整理しよう。

ここは見知らぬ真っ白な空間。周りには特に何もない。

自分のことは思い出せず、周りには誰もいない。

そして外に出る手掛かりはミッキー・スピレイン『銃弾の日』の冒頭文と、文字が入力できるスペースがあることのみ。


さて、どうしよう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る