第43話メンタル強男は正直に話す

そして2年後、俺はポスティングで海外球団への移籍が決まった。

去年の契約更改の時にポスティングを認めて欲しいとお願いしたが、球団の人は難色を示した。

だから条件をつけた。今年も四冠を穫る。その上で日本一になる。それを成し遂げた時は認めてほしいと。

球団は渋々認めてくれた。そんな結果は出せないと思われたのか、俺の熱意が伝わったのか。


だが俺はやりきった。エースとして3年連続の四冠を獲り、日本シリーズも勝ちきった。

これには球団も頷かざるを得なかったのだろう、ポスティングを許してくれた。FA権を持っていたため、他球団に行かれるよりかは……というのもあったのかも知れない。


ありがたい事に、自分に手を挙げてくれる球団は多かった。

金銭面はどこも破格でチームにこだわりはなかったので、日本人でも住みやすいく治安のいい街が本拠地の球団に絞ってもらった。

そうしてチームも決まり、引っ越しの前に改めて両親とお義父さんお義母さんに挨拶に向かった。


海外移籍を決意してからは相談はしていた。

うちの両親は俺の好きにしろ、お前の人生だと言って後押ししてくれた。

お義母さんも海と子供が幸せになってくれるならいいとだけ。

……お義父さんだけ反対だったけど。とらーズにずっといてくれと泣かれた。でも俺の熱意に負けて、最後は頷いてくれた。


子供の頃から一緒にいたお義父さんお義母さんだけど、結婚の挨拶をする時は緊張した。そして今も、その時と同じくらい緊張している。

なぜか、それは海外に空も連れて行く事の了承を得るため。その上で、空と俺の関係を素直に白状することを決めたからだ。


「……空が実はペットでしたなんていきなり伝えたら、二人とも倒れちゃわないかな?」

「まぁ娘をペット扱いしてたなんて、信じられないよね普通」

「だよねぇ……。でもここはちゃんと正直に話して誠意を見せたいんだよなぁ」


実家に向かう移動中、考えがどんどん後ろ向きになってくる。


「大丈夫! 私からお願いしたってちゃんと伝えるから!」

「それに、私もお姉ちゃんのペットのお願いを安易に聞いちゃったから……。まさか10年近く経ってもこのままだとは思わなくて……」


俺もそうだ。すぐに離れていくものだと思っていたのに、今でも一緒にいる関係になるとは。空の執念を舐めていた。



実家に着いた俺達は今、涼木家のリビングに集まっている。

子供たちは久しぶりにおじいちゃんおばあちゃんに会えて嬉しそうだ。葵は母さんに、碧はお義母さんに抱っこしてもらっている。


「改めて、海外に行ってきます。海と子供たちを連れて行く挨拶に来ました」

「うん、前にも言ったけど幸せにしてくれるなら止めることもないわ。それにあなた達はもう一つの家族だしね」


お義母さんも真剣な表情で答えてくれた。


「……ダメだ! とらーズを捨てないでくれちぃ!!」


お義父さんは相変わらずだった。


「あなた、応援するって決めたでしょ? ちゃんと送り出して上げなさい!」

「うぅ……。ちぃ、海外でも頑張れよ……! そしていつかとらーズに帰ってこい!」

「ありがとうお義父さんお義母さん。家族を守る為にも、全力で頑張るよ!」


そして俺は今日来た一番の理由の話もしないといけない。


「それで……。空の事も連れていきたいんです」

「それは……」


さっきまでは笑顔で応援してくれていたおばさんの顔が歪む。


「空は今までずっとサポートしてくれてました。子供が産まれてからは更にお世話になってます。仕事柄、毎日家にいられない自分に代わって海を支えてくれてました。そんな空と、これからも一緒にいたいんです」

「……空はどうしたいの?」


お義母さんが俺の横で正座している空に話しかける。


「私は、これからもちぃと海を支えていきたい。だから一緒に着いていきたい!」

「……でもそれだと、あなたの人生はどうなるの? 結婚もしないの?」

「しない、するつもりもない! 私はずっとちぃ達と一緒にいたいの!」

「はぁ……。ここまで拗らせるなんて……。これはあの時に止めなかった私達の責任もあるわね」


大きなため息と共に諦めの表情になったおばさん。


「……いいわよ。それで空が幸せなら」

「ありがとうお母さん!」

「まぁちぃの甲斐性なら、みんなが不幸になることはないだろう。いいんじゃないか?」

「お父さんも! ありがとう!」


両親の了承も得られて、空もホッとしたようだ。でもこれで終わりじゃない。爆弾を落とさなきゃいけないんだ……。


「それで……。今までずっと黙っていたんですが、空との関係って……その……ペット……なんです……」

「「ペットぉ!?」」


うちの両親が驚愕の声を上げているがお義父さんとお義母さんはびっくりした顔はしているが声は上げなかった。


「私がお願いしたの! どんな形でも、ちぃの側を離れたくなくて! それでペットなら、家族だって思って!」

「すみません! まさかここまでの想いだとは思ってなくて……安請け合いしてしまって……」

「私も……」


俺達3人は頭を下げる。しかし二人から怒りの声は聞こえてこなかった。恐る恐る頭を上げるとお義父さんは微妙な顔をしていて、お義母さんは青ざめていた。


「おい……お前のせいだからな……」

「……」


お義父さんは俺達にじゃなくお義母さんに非難の目を向けていた。


「アッハッハ! 百合ちゃんの負けね!」


そんな俺達を見てなぜかうちの母さんが大声で笑い出した。ちなみに百合はお義母さんの名前だ。


「百合ちゃんの遺伝子、ちゃんと受け継がれちゃってたみたいね!」

「……どういうこと?」


わけがわからない俺は率直に聞いてみた。


「……こいつも昔、俺のペットになりたいって言ってたんだ……」

「……えっ!?」


お義父さんから驚愕の事実が伝えられる。


「結婚前にな……喧嘩して別れそうになった時に……。いや、俺は断じて認めてないからな!?」

「でも結構百合ちゃんの事可愛がって上げたんでしょ? 百合ちゃんが酔っ払ってる時に熱く語ってくれたわよ!」

「それは……」


なんだろう。まるで最近の自分の事のようだ。お義父さんと今までにないくらい親近感が湧いてきた。


「……もしかして子供の頃、海と家でかくれんぼしてる時に見つけた猫耳って……」


空の言葉を聞いてお義母さんは顔を真っ赤にしだした。

……まさか空のペット化にそんな理由があったなんて。


「……ちなみに海は大丈夫だよね?」

「……えへっ♡」


嘘だろ!? 海までペットになったらもう収拾がつかなくなるぞ!?


「あ、でも子供が出来てからはその欲がなくなったかも?」

「……そうよ! 私もそうだった! 空と海が産まれてからは普通になったもん!」


こんなに取り乱しているお義母さんは初めて見た。


「空! 子供を産みなさい! そして人間に戻りなさい!」

「やだ! ちぃのペットでいい!」

「それなら海外に着いていくのは反対よ!」

「なんで! さっきいいって言ったじゃん! 今更他の人と結婚なんて考えられないよ!」


お義母さんと空が口論になってしまった。どうやって止めようかと考えている時に、海から先ほどとは比にならない爆弾が落とされた。


「じゃあ、ちぃにいと子供作ればいいんじゃない?」

「……は?」


俺は海の発言を聞いて開いた口が塞がらなくなった。


「だってお姉ちゃんは他の人と結婚したくないんでしょ? で、お母さんは子供を作れって言うんでしょ? じゃあちぃにいと子供作れば全部丸く収まるんじゃない?」

「いや俺は海と結婚してるし……」

「もちろん別れるつもりはないよ? そりゃ世間的には二人の女性と子供を作るなんて非難されるだろうけど、お姉ちゃんにはずっとお世話になりっぱなしだしそろそろ自分の幸せのことも考えてほしいもん」

「……」


たしかに、結局空には子供の頃から世話になってばっかりになってしまった。

だけどそんな関係になってしまったら俺達はいいとしても、子供達の未来にまで被害が及ぶかも知れない。


「いざとなったら私達の事なんて誰も知らないところでみんなで生活すればいいんじゃない?」


そんな事出来るわけ……出来てしまうくらい今回の契約金は高かった。金銭面で言えば一生困らない、それどころか頑張っても使い切れないくらいだ。


「まぁでもまずはお姉ちゃんの気持ちだね」


海がそう言うとみんなの視線は空に集まった。ちなみに話し合いが始まる前に碧は父さんのところに移動し、今は二人ともこんな状況にも関わらずすやすや眠っている。


「私は……」

「正直に言っていいよ、私に遠慮なんてしないでね」


そう言われた空は覚悟を決めた顔をした。


「私は、ちぃとの子供だったら……欲しい!」


……こうなってくると今度は俺に視線が集まる。


「それは……」

「こんな想い、ペットが持っちゃいけないって思ってたんだけど……葵と碧を見てるとその気持ちが抑えられないの……」

「……私は賛成よ」


煮え切らない反応の俺を後押しするかのようにお義母さんが声をあげた。


「ペット云々の前に、空にも幸せになって欲しい。それがちぃ君の子供を産む事だって言うなら……その願いを叶えてあげてほしい」

「……そうだな。それにちぃなら、人柄も金銭面も問題ないからな。空の事も幸せにしてやってくれ、頼むちぃ!」


お義父さんまでもが認めてくれる。二人は頭を下げた。


「前に空ちゃんの事も幸せにするように言ったわね。今がその時なんじゃない?」

「そうだぞ千尋、男を見せる時だ!」


うちの両親も反対はしないようだ。……いや父さんだけ少し楽しそうだ、人ごとだと思って……。


頭がぐるぐる回る。空のことは嫌いじゃない。いや、むしろ今でも好きだ。

別れてからもずっと一途に支えてくれた。そんな空の願いなら叶えて上げたい。でも世間的には許されない関係だ、妻がいるのに他の女性を孕ませるなんて。

そしてそんな産まれた子供達を守れるのだろうか。考えても考えても答えは見つからない。


そんな時に海に手を握られる。海を見ると優しい目をしていた。

あぁ、そうだな。世間にどう思われようとも、海と空と、子供たちが側にいてくれるなら他の事なんて些細な事だ。

周りのせいで普通の生活も困難なようなら、海の言う通りどこか誰も知らない国に行くのもいい。

みんなが幸せなら、それだけでいい。だから……。




「……俺は」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

すみません、前に空とは復縁しないって言ってたんですけど…ほぼ復縁みたいな形になっちゃいました…!

個人的には10年近く一途なままだったのでこんなエンディングもありかなと思ってるんですが…

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