第40話メンタル強男は同棲生活を堪能する

ふと目が覚めた。枕元に置いてあったスマホを確認するともう朝だった。

昨日は登板日だったので今日はオフ。もう少し寝ていてもいいのだけどあまり眠気が来ないので起きることにしよう。


「海ー、起きるから離してー」

「……うーん……」


そんな俺のお願いとは逆に、抱きつく腕に更に力を込めてきた。

海が隣で寝ている。そう、あれから2年が経った。

おばさんとの約束通り、真面目に高校生活を送った海は晴れてこっち、関西の大学に入ることを許可された。

それに合わせて俺も退寮し、一人暮らしを始めた。一人暮らしと言っても海と空がいるので一人ではないが。


「ほらー離れてー」

「……スンスンスンスン……」


俺の胸に顔を埋めたまま離してくれない……。海もずっと離れた生活だったせいか、いざ同棲が始まるとそれはもう甘えっぱなしだ。


この2年、俺の野球人生は順調だ。1年目に結果を残せた事により、2年目は開幕からずっと一軍、先発ローテの一角を任された。

1年目と違い、2年目はしっかりと中6日のローテ。夏場に少しだけバテてしまったが最後まで一軍で投げ続ける事が出来た。

結果として、最多勝と最高勝率のタイトルを穫ることが出来た。でもこれはチームメイトのおかげだ。なぜか俺の援護率がすごく高かった。

まぁ少しだけ、自分でも打点を上げているが。なぜかチャンスでまわってくるとめちゃくちゃ打てる。チャンスやピンチだと普段の力以上の物が出る感じだ。

巷ではメンタル強男なんて呼ばれている。昔の弱気だった自分に聞かせてあげたい。


3年目もしっかりと結果を残せた。2年目の反省を活かし、夏場もなんとか乗り切れた。

その結果は防御率、勝利数、勝率でトップを獲った。投手四冠まであと一歩だった。そうして俺は一躍とらーズの、いやリーグを代表するエースになった。

こうなってくると外からの誘惑も増えたが俺の海への想いは変わらず、むしろますます好きになっている。海も一緒にいられない間に気持ちが離れるような事も無く、今もこうして抱きつかれクンクンされている。


うーん幸せ!!


海を撫でながらそんなことを思っていると、ようやく目が覚めてきたのか海が離れた。


「……おはようちぃにい♡」

「うんおはよう」


返事を返すと同時にキスをされる。海と暮らし始めて数ヶ月程経つが、家にいる時は毎日こんな感じだ。

よく同棲をすると相手の嫌なところも見えてしまって気持ちが冷める、みたいなのをよく聞くが俺と海はそんなことなさそうだ。

なんなら更に好きになっていく一方だ。海もそう思ってくれてたら嬉しい。


「……起きてすぐにちぃにいを見られるの、幸せ♡」

「俺も海が隣で寝てるの幸せだよ」

「……うー、しゅきっ♡」


また抱きつかれてクンクンされてしまった。俺達の朝は毎回こんな感じで、起きてから動き出すまで時間がかかってしまう。なので予定がある時は少し早めのアラームが必要だ。

今日は予定があるわけではないのでゆっくり出来る。海が満足するまでこのままにしておこう。


30分程撫でていると海がそっと離れた。


「うーんいっぱい堪能できた! 遠征で1週間会えなかった間のちぃにい分を補充できたよ!」

「ごめんね、寂しい想いさせて」

「仕事だからしょうがないよ! で、朝ご飯食べる?」

「起きちゃったしいただこうかな」

「うん! じゃあすぐ作っちゃうね!」


そう言うと元気よく布団から飛び出した。

上にパーカーを羽織っているだけの寝間着。これは俺が去年まで使ってたやつだ。

もうそこそこの稼ぎがあるので新しいのが買えないというわけではないのだが、海がこれがいいと言う。

なんでも俺がいない時でもちぃにいを側に感じられるのが最高! とのことだ。

俺のパーカーなのでだいぶ大きいが、下は何も履いてないせいでギリギリ隠れるくらいだ。そんな海が立ち上がると綺麗な足に加えて、かがむとお尻までが見えそうになる。


……寝起きということもあり、大変なことになった。

昨日も海としたばっかりだというのに元気いっぱいである。


「……ちぃにいは起きないの?」

「……起きるよ。ちょっとしたらね」

「……ふーん♡」


何かに気付いた海は妖艶な笑みを浮かべて近づいてきた。

そのままベッドに腰掛けると、今度はパーカーのジッパーをゆっくりと下げだした。

あれから更に成長した海の谷間が少しずつあらわになる。


「……する?♡」

「しません! 空も起きてるかも知れないから!」

「……お姉ちゃんは気にしないと思うよ?」

「俺が気にするの! ほら早く、ジッパー上げて! 下履いて!」

「ぶー……。じゃあまた、夜にね♡」


一緒に住むようになってからの海は積極的で我慢するのが大変だ。


海が着替えている間にようやく落ち着いてくれた俺の下半身を確認し、海と一緒にリビングに向かう。

リビングの電気は点いていた。空は起きているようだ、危なかった……。

テーブルにはノートパソコンとにらめっこしている空がいた。


「おはよう空」

「……おはようちぃ」

「……なんか疲れてる?」

「……うん、キリのいいところまで仕事終わらせようと思ったんだけど、結局朝になっちゃった……」

「ありゃ徹夜か、それはお疲れ様。まだかかりそう?」

「もう終わって……最後のチェックも……終わったぁ! 疲れたぁ!」


そう言うと空はすくっと立ち上がって自分の部屋に走っていった。

俺はそれを見送るとソファーに座った。テレビをつけて、録画してもらっている昨日の自分のピッチングでも確認するかと思っていると空がすぐに戻ってきた。


頭に猫耳カチューシャを着けて。

……今日は猫か。

最近の空は気分でカチューシャが変わる、ハイブリッドペットになってしまった。

そのままソファーにダイブをすると俺の膝に頭を乗せてきた。


「にゃーん♡ 疲れたにゃん♡」


徹夜でナチュラルハイなようだ。


「……はいはい」


俺はそのまま空の頭を撫でる。……いつのまにか、これくらいは普通になってしまっていた。

調子に乗った空がお腹に顔を埋めてクンクンしているが、猫も匂い嗅ぐの好きなのかなぁなんて事しか思わなくなっていた。

そんな俺達が視界に入ったのか、海が怒る……


「おはよー、お姉ちゃんもご飯食べる?」


ような事もなく。それくらい当たり前になっていた。


「おはよう海! 食べる!」

「はーい、じゃあお姉ちゃんの分も作っちゃうねー!」


返事をするため顔の向きを変えたがすぐに戻ってクンクンしている空を撫でながら、俺も自分のピッチングを確認する作業に戻っていく。

これが今の俺達の日常だ。




海の作ってくれたご飯を食べ終えた後は、朝の身支度を済ませまた録画の確認に戻る。

ソファーに腰掛けると両隣に海と空も座った。空がまた俺の膝枕を狙っているようだ。


「ほらお姉ちゃん、ちぃにいも昨日投げて疲れてるんだから! 甘えるなら私にしなさい!」


そういって足をポンポンと叩いている。


「……にゃん♡」


そのまま海の隣に移動して頭を下ろしていた。俺がいなかった3年間の間に、海にも甘える様になっていたようで最近はこんな感じだ。

……これだとどっちが姉かわからないな。

ショートパンツから出ている生脚に顔をこすりつけている空。

ぐぬぬ……羨ましい。俺も後でしてもらおう。


海に撫でられて嬉しそうにしている空の格好は下こそちゃんと履いているものの、上はワイシャツ1枚。ちなみにこれも俺のお古だ。

俺が寮時代に愛用していた服は海と空に全部奪われてしまった。今では二人の寝巻きや部屋着にされている。


空は英語の短大を卒業した後は翻訳の仕事をしている。基本は在宅での仕事になるので、これなら海を一人にすることも無く安心だ。

海も今は栄養学を学べる学校に行っている。それとは別で、整体なんかも勉強してくれていて、俺もたまにお世話になるがとても気持ちいい。

家事も二人で分担してやってくれているようで、本当に頭が上がらない。こんな二人を苦労させない為にも、俺もより一層活躍して稼がないと。


「ちぃにい、今日はオフだけどどうする?」

「特にすることもないけど……デート行く?」

「うーん……。人目があるとあんまりイチャつけないからなぁ……」


俺もそこそこ有名になり、この街だと外に出るだけでファンに囲まれてしまうようになった。


「じゃあ今日はゆっくりしよっか」

「そうだね! お姉ちゃんは……寝る?」

「そうね、流石にね……。……徹夜だったからぐっすり寝ちゃうと思うから、昨日みたいにエッチしても大丈夫よ!」


……まぁ徹夜してたなら気付いてますよね!

結構良いマンションなので、セキュリティーも万全で防音もしっかりしてるんだけど、致す時の海の声が少し大きめなので空が自分の部屋に居てもすぐバレてしまう。


「大丈夫、私は空気の読めるペット! ご主人様達の愛の営みを邪魔することはないわ!」


そう言われても幼馴染で元恋人にバレバレだと思うと気が引ける。


「だってちぃにい! お姉ちゃんの許可も出たよ!」


そんな俺の思いとは裏腹に、海はやる気満々だ。持ってくれよ、俺の身体!


「……まぁそれは冗談で、またいつものやる?」

「じゃあお願いしようかな」

「はーい! じゃあお姉ちゃんそろそろどいて?」

「そうね、じゃあ私は寝るから後はお二人で!」


そう言って自分の部屋に帰っていく空を見送った。

それを見届けると今度は俺が海の足に頭を下ろす。


「はい、ちぃにいお疲れ様♡」

「うん」


甘えたがりな海だが、登板日の次の日はこうやって甘やかせる側に回るのが最近の常だ。


「いつも頑張ってくれてありがとね! 昨日のちぃにいもすごくかっこよかったよ♡」


俺の頭を撫でながら労ってくれる。


「幸せいっぱいの生活が出来るのもちぃにいのおかげだよ!」

「……でも海もまだ大学生だし、もっと遊びたいんじゃない?」

「え? うーん……別に興味ないかなぁ」

「俺の為に勉強もしてくれて、嬉しいけど海の自由がなくない?」

「それも私がやりたいだけだし! いいの、ちぃにいと幸せに過ごせるのが一番だから!」


そう言われると嬉しくなる。せめて金銭面では苦労をかけないようにこれからも頑張っていこう。

そんな事を思っているが、朝の陽気、海の太ももと撫でる手つきの気持ち良さにまぶたが重くなってくる。


「……あれ、ちぃにい眠い?」

「少し……」

「ふふっ♡ いいよ、このまま寝ちゃって」

「うん……ありがと……」


本能に従い目を閉じる。そうするとすぐに深い眠気が来た。意識が無くなっていく。


「……きっと私が世界で一番幸せだよ、ホントにありがとね。大好き♡」



何か言葉が聞こえるが頭に入ってこない。だけど心がポカポカする。そんな幸せを感じながら、俺は眠りについた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

まだまだ時間が飛び続けるぞ!もうウイニングランに入っている!

察しのいい読者様ならお気づきかと思うんですけど、自分の好きな物はハーレム!へんてこハーレム!

あと空にメジャー行った時の通訳やってもらおうと思ってたんだけど!なんかアレな事に!

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