第36話空気も読める、お役立ちペット(海視点

ちぃにいと初体験を終えた後は、本当に幸せな時間だった。


男の人は終わったら冷める、というのをすでに経験済みなクラスの子に聞いたことがあったので、もし終わった後にちぃにいが冷たかったらちょっと悲しい。それならまだしも、そのまま飽きられたりしたら泣いてしまうとも思っていた。


でもちぃにいは終わった後もずっと気遣ってくれた。息も絶え絶えな私の側を離れず、ずっと頭を撫でてくれた。

まだ痛むかと聞かれ、声を出す元気もない私が小さく頷くとお腹も撫でてくれる。撫でる手が優しすぎて、なんだかお腹がキュンキュンするのが止まらない。


しばらくしてようやく息が整ってくるとちぃにいは離れてしまった。やだな……もっと撫でて欲しいのに……。

服を着て部屋を出ていく。これが男の人が冷たくなるってことかな? とか考えていたが、ちぃにいは手にコップを持ってすぐに戻ってきてくれた。


「海、起きられる? 水持ってきたよ」


あぁ、少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしい。ちぃにいの優しさは底なしだ。

その後も優しく気遣ってくれて、私はどんどん嬉しくなってくる。ちぃにいはこれ以上私を惚れさせてどうしようと言うのか。

ここまでされて振られたりしたら、絶対に死にたくなってしまうだろう。だったら今まで以上に尽くして、愛して、絶対に離れられないようにするしかない。

そんなことを考えていると一つの疑問が浮かんだ。


ちぃにいは私の身体に満足してくれたのか。


もし私の身体が気持ちよくなくて、もう求めてもらえなかったら。それで他の人を好きになってしまったら。

そう考えてしまうと、どんどん不安になってくる。もうこうなったら素直に聞いてみて、ダメなところがあったなら教えてもらうしかない。

そう思い、直球で気持ちよかったか聞いてみた。


ちぃにいは顔を赤らめ、恥ずかしそうに答えてくれた。長い間一緒にいる私にはわかる。これは嘘や気遣いをする時の顔ではないのを。

そんなちぃにいの表情と、気持ちよかったという言葉を聞くと、またお腹がキュンキュンなりだした。私はどこまでちぃにいの事を好きになってしまうのだろう。少し怖い。


その後もすごく優しくて、私の初体験は最高のものになった。今まで生きてきた中で、一番幸せな日だった。


だけどその後のパーティでは、私が顔に出しすぎたのか、お母さん達にすぐバレてしまった。


「……海あなた、したわね?」

「……はい」


エッチをしたのか聞かれているわけではないが、私は素直に答えた。

でもお母さんも怒っていたりはしない。むしろ嬉しそうだ。


「……どうだった?」

「……すごい幸せでした」


ちぃママも興味津々と言った感じで話し掛けてくる。

私の言葉を聞くとニヤニヤと笑い出した。


「……海、よかったね。ちぃは本当に優しくしてくれるから!」


お姉ちゃんも少し悲しそうな表情ではあるが、祝福してくれる。

そうか、お姉ちゃんもあの幸せな時間を体験しているのか。そう考えると少し嫉妬してしまう。

でもこれからは私が独り占め出来るんだ、そう思うと小さな嫉妬も消えていく。


そこからはみんなに祝福され、からかわれる楽しい時間だった。

時々ちぃにいの方に目を向けると、何を話しているのか気になると言った表情でこちらを伺っていた。ごめんね、もう全部バレちゃった!

ちぃママに後で詰められるかも知れないけど許してね!




それからの日々も幸せいっぱいだった。

暇さえあれば、ちぃにいとお家デートして。少なくない数身体を重ねて。すごく充実した日々だった。


学校でも、私の幸せが溢れてしまっているのか、ありさちゃんにはすぐにちぃにいとエッチしたことがバレてしまったようだ。


「海ちゃん、藍川さんと恋人になれたって話は聞いてるけど……。最近益々幸せオーラが強くなってきてない?」

「えーそうかなー? えへへそうかなー?」

「……その反応、まさか……」

「えーよくわからないなー! なんだろうねー!」


ありさちゃんは聞くんじゃなかった、という呆れた表情をしていた。


「……まぁ素直に祝福しとくよ、おめでとう」

「えへ! 何のことかよくわからないけどありがとー!」


ため息を着くありさちゃん。しかしその後聞き捨てならない事を口にした。


「はぁーいいなぁ藍川さん。私も……」

「私も?」

「……なんでもないです」

「いくらありさちゃんでも、ちぃにいを狙うなら容赦しないからね」

「わ……わかったから……その目をやめて……」


私の威嚇に恐れをなしたありさちゃんは怯える子犬の様になってしまった。でもたとえ親友でも、ちぃにいだけは絶対に渡さない!




そんな幸せな日々の終わりは早かった。

私とお姉ちゃんは受験勉強に、ちぃにいも入寮が近づいてきてピリピリしていた。


お姉ちゃんはあの件以来、毎日ちゃんと勉強をしていたので余裕はありそうだ。私も難関校に行こうというわけではないので、少し頑張れば大丈夫だろうという評価だった。

ちぃにいといられる時間も後少ししかないが、ここで受験勉強をサボるのはよくないということで、最近はみんなで一緒に勉強をしている。


その日もちぃにいの部屋で勉強会をしていた。

と言ってもお姉ちゃんは大学受験に、私は高校受験に、ちぃにいはプロ野球選手に向けての勉強だ。

私とお姉ちゃんはテーブルで向かい合って勉強をしている。わからないところがあってもお姉ちゃんがすぐに教えてくれるので私はすごい助かっていた。


そうしてしばらく集中していたが疲れてきてしまった。休憩する事にしよう。

私は少しだけ構って欲しくてちぃにいの方を確認すると、スマホで真剣に動画を見ている。前に見せてもらったけど、筋トレの仕方や、変化球の投げ方など、いろんな動画で勉強しているようだ。


うーん……甘えたいけど、ちぃにいの邪魔にはなりたくない。


そんなことを考えてためらっていると、同じく休憩に入ったお姉ちゃんが動いた。

お姉ちゃんはベッドに腰掛けるちぃにいの足元まで寄っていき、スマホを持っていない方の手を掴むと自分の頭に持ってきた。

ちぃにいは動画に集中していて気付いていないようだが、無意識のままお姉ちゃんの頭をワシャワシャと撫でていた。そしてお姉ちゃんは幸せそうな顔をしていた。


ぐぬぬ……羨ましい……。というかちぃにいも無意識でお姉ちゃんを撫でているあたり、ペットなんて認めないと言っていたけどしっかり調教されているようだ。

そうして撫でられて満足したお姉ちゃんは、次は海よ。と言った目を向けてきた。

私はそのお姉ちゃんの案に乗っかり、撫でてもらう事にした。

ちぃにいに近づき、同じ様に手を取り頭の上に乗せる。そうすると先程と同じ様にちぃにいがワシャワシャと頭を撫でてきた。

いつもの優しいナデナデじゃなく、お姉ちゃん(ペット)向けの少し荒々しいナデナデ。でもこれはこれでなんだかすごく気持ちがいい。癖になってしまうかも知れない。


そんなことを考えながらワシャナデを堪能していたがいつの間にかちぃにいの手が止まっていた。どうしたんだろうと上を向くと、ちぃにいと目があった。


「……何してるの海?」

「えっと……これは……」


まずい、ちぃにいに気付かれてしまった。どうして私の時に……。


「お……お姉ちゃんが……!」


そう言いお姉ちゃんの方を確認すると、何も知りませんみたいな顔で日向ぼっこしていた。おのれ……。


「甘えたくなっちゃった?」

「……うん。でもちぃにいの邪魔はしたくなくて……」

「別に邪魔じゃないよ。海が甘えてくれるのもすごく大切な時間だよ。ほら、おいで?」


優しい言葉をかけながら腕を開いたちぃにいに、私は遠慮なく飛びついた。


「うー、しゅきっ♡ しゅきっ♡」

「はいはい。海とこうしていられる時間も短いから、遠慮なんてしなくていいからね」

「クンクンクンクン……」


胸に顔を埋めて匂いを堪能する。うーん、勉強で疲れた頭がとろけていく。


「ふふっ。じゃあ、頭ナデナデもしてあげよう!」


そのまま頭を撫でられる。あの日の、髪を梳きながら頭皮を撫でるナデナデだ。さっきのがお姉ちゃん用のナデナデだとしたら、これは私専用のナデナデだ。


「ふ……ふぁぁああ……♡」


ちぃにいに抱きしめられ、匂いを嗅ぎながら私専用のナデナデ。私の頭は真っ白になり、お腹がムズムズしてくる。

我を失った私はそのままちぃにいをベッドに押し倒した。


「はぁ♡ はぁ♡ ちぃにい……♡」

「ちょ……海、目が……! 今は空がいるからダメだよ!」


ちぃにいは先程までお姉ちゃんがいた方を見るがそこには誰もいなかった。


「……いないね♡」

「待って待って! ホントに……あっ」






こうして勉強会は終わった。

甘えるきっかけを作ってくれて、更に空気を読んでひっそりと姿を隠してくれている。お姉ちゃんは本当にお役立ちペットだ。







月日は流れ、いよいよちぃにいが入寮のため、出発する日になった。


「ちぃ、身体に気をつけてね。無理はしないでね!」

「頑張れ千尋! 無理そうだと思ったら帰ってきてもいいんだからな! 俺達はいつまでも千尋の味方だ!」

「うん、ありがとう父さん母さん。行ってきます!」


「ちぃ、頑張れよ! そしてとらーズの未来は任せた! 優勝させてくれ!」

「もう……この人は……。ちぃ君、無理せず頑張るのよ!」

「おじさん、おばさんありがとう。頑張ってきます!」


両親達とお別れの挨拶をすませている。次はお姉ちゃんだ。


「ちぃ、本当に無理だけはしないでね。これからもずっと、応援してるから! 頑張って!」

「ありがとう空。空が色々面倒見てくれたおかげでここまで来れたよ。ありがとね」


そう伝えられたお姉ちゃんは涙目になってしまった。そんなお姉ちゃんを、ちぃにいは笑いながら撫でていた。


そしてついに私の番だ。


「ちぃにい……」


私は涙をこらえるのに必死だった。ちぃにいは私の笑顔が好きと言ってくれた。だから、今日は笑顔で送り出すって決めていた。


「海、行ってくるね」

「うん……」

「大丈夫、今生の別れってわけでもないんだから。卒業式の日も帰ってくるし!」


そう言われても悲しいものは悲しい。私が生まれた時から隣にいてくれたお兄ちゃん。それが離れていってしまう。

涙を見せないようにちぃにいの胸に顔を埋めた。

そんな私をちぃにいは抱きしめてくれた。


「もし、海がどうしても無理ってなったらいつでも会いに来るよ。寮の門限を破ってでも会いに来る」

「……でもそんなことしたら、ちぃにいの立場が……」

「海より大事なものなんてないからね。そんなもの、どうでもいいよ」


私はこんなにもちぃにいに愛されているんだ。我儘ばっかりじゃダメだ。

涙をふいて笑顔を作る。


「大丈夫! 私も頑張る! だから、ちぃにいも頑張ってね!」

「……ありがとう海、行って来ます!」


そのままちぃにいはキスをしてくれた。私も背伸びをし、心を込めてキスを返す。頑張ってねちぃにい、いってらっしゃい!



挨拶を終えたちぃにいは私達に背を向けて歩き出す。私達はみんな、ちぃにいの背中が見えなくなるまで見送っていた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

完!!!でもいいくらい切りが良い。

でももう少しだけ続くんじゃよ!


今更ですが☆が1000越えました!ありがとうございます!

個人的に☆100あると結構面白い、1000を越えるとめちゃ面白い!ってイメージだったので自分の作品が1000越えるとは思ってなかったので嬉しいですw

作品ごとの♡やコメントも嬉しく思ってます!ありがとうございます!

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