第35話メンタル強男は約束を守る

ドラフト後は、また慌ただしい生活になりそうだったが、そこはペットになった空が阻止してくれた。

あの件以来、クラスでも浮いた存在になっていた空だが、俺がペットを容認して以降は気にしなくなっていた。


俺に近づいてくる女の子には威嚇をし、連絡先などを聞いてくる人もうまいこと追い返してくれた。

空にばかりヘイトが向かないように自分からもしっかり断った。恋人がいるから女の子の連絡先は受け取れない旨を伝え続けた。



そうして、やっと落ち着いてきた頃。今日はあの約束の日、海の誕生日だ。


夜はまたみんなで海の誕生日パーティをするので、日中は二人きりでデートをすることにした。


「おまたせ海」


玄関を出るといつも以上におめかしをした海が待っていた。


「今日の服、すごい似合ってるよ。可愛い」

「えへ……! ちぃにいもすごくかっこいいよ!」


俺も今日は気合を入れている。今日という日を海の大事な思い出にしてほしいから。




と思っていたが、いざデートを始めると知らない人達に話し掛けられてばかりだった。


「お、藍川じゃん! 一緒に写真撮ってもらっていい!?」

「藍川! なぜとらーズに……地元の球団以外は断ってくれてもよかったのに……!」


ドラフト1位効果は、甲子園優勝より更にすごかったようだ……。プロになる手前、こういうファンを無下には出来ない。

結局、海と二人きりでゆっくりデートすることは叶わず、午前中に出かけたのにお昼前には家に帰ることになってしまった。


「ごめんね海……大切なデートの日だったのに……」

「ううん、ちぃにいが悪いわけじゃないもん。しょうがないよ!」


海は気にしてないようだが、俺としては悔しい結果になってしまった。


「でも、誕生日に家デートじゃ味気なくない?」

「うーん……別に、私はちぃにいが側にいるならどこでもいいよ! それにお家なら、人目を気にせずくっつけるし!」


そう言って海は俺の膝に頭を預けた。


「ほら、前にやってもらった膝枕もしてもらえる! 今度はちゃんと恋人になった膝枕だよ!」


海の明るさにはいつも救われてしまう。本当に、海が恋人でよかった。

俺も気にするのは辞めて存分に楽しもう。


「ありがとう。だったら俺も、全力で海を可愛がっちゃおうかな! 今日は親もいないし」


父さんと母さんも今日はデートに行くと言って出ていった。

もしかしたら、今日の海とのデートがこうなることを見越して、二人きりになれるように気を使ってくれたのかも知れない。だとしたら感謝だ。


「うん可愛がって! まずはナデナデを所望します!」


海の髪に触れるとくすぐったそうに目を細める。


「海の髪、前よりサラサラで綺麗になったね。触ってるだけで気持ちいいよ」

「私も女の子だもん! 部活も引退したから、ケアは怠ってないよ!」

「これずっと触っていたくなる。癖になりそう」

「ふふん! 私に触って良いのはちぃにいだけだから、いくらでもどうぞ!」


それなら遠慮なく。髪を梳くように指を立てて頭を撫でる。頭皮を触られるのは意外と気持ちいい。

いつものナデナデとの違いに気付いたのか、最初は困惑していた海だが、その気持ちよさからだんだんと眼がとろけていった。


「どう? 気持ちいい?」

「うん……なんだかすごく眠くなってきちゃいそう……」

「寝ちゃってもいいよ?」

「やだ……ちぃにいとの時間が減っちゃう……」


そうは言うが俺の手を止めようとはしない。ふふっ、俺のナデナデには抗えないようだ。


しばらく撫で続けるといつの間にか目を閉じていた海は寝息をたてはじめた。

どうやら俺は寝かしつけの才能もあるようだ。いつか子供が出来たらやってあげたい。



30分程海の寝顔を楽しんでいたが海はゆっくり目を覚ました。


「……あれ……ごめんちぃにい、寝ちゃってた……?」

「うん、可愛い寝顔だったよ」


寝ぼけ眼だった海だがそれを伝えると顔を赤くしていた。


「うぅ……。……もう! 今度は私がちぃにいをダメダメにする!」


正気を取り戻した海が元気よく頭を上げる。


「ほら! 今度は私が膝枕してあげる!」


そう言って自分の太ももをポンポンとする海。

今日は寒いので、短めのスカートだが黒のタイツを履いている。前の時のように生足だったら理性が危なかったがこれなら大丈夫だろう。


「あ、ちょっと待ってね」


頭を下ろそうと姿勢を変えようとした時に海が声をあげた。

そして、何を思ったのか急にタイツを脱ぎだした。


「はい、せっかくだから生足膝枕!」


その気遣いはいらなかったなぁ……。持ってくれよ、俺の理性!

そう思いながらも、海の膝枕の魅力には抗えず俺は頭を下ろした。


「どう?」

「……正直、めっちゃ気持ちいいです」

「えへ♡ じゃあこのまま、今度は私がちぃにいをナデナデしまーす!」


そのまま海は俺の頭を撫でた。

甘やかす側はいつもしていたけど、逆は割りと新鮮だ。


「なんか、こういうのもいいね! 次からは私が甘やかしてあげるからね!」

「じゃあ海は、俺のナデナデはもういらないの?」

「うー……やっぱなし! どっちも欲しい!」


欲張りな海。でも俺もそっちの方が嬉しい。


「俺も海を甘やかせるの好きだから。どっちもしていこうね」

「うん!」



そうしてしばらく幸せな時間を過ごしていたが、急に海の様子が変わった。


「……ごめんちぃにい、一回離れてもらえる?」

「えー……やだ」


俺はそのまま海のお腹に顔を埋めた。


「ちょ……ホントに、少しだけ待って!」

「いやです」

「あ……ダメ……あっ」



キュー……



……海のお腹から、可愛らしい音が聞こえた。

埋めていた顔を離し、海の顔を確認すると真っ赤になっていた。


「……もー! だから離れてっていったのに!」

「……ごめんなさい。でもお腹の音も可愛かったよ!」

「そんなの褒められても嬉しくないよ!」


プリプリ怒る海。そう言えばお昼ご飯がまだだった。外でデートしてそのままどこかで食べる予定だったから用意していない。


「もうお昼すぎてたね、ご飯どうしようか。出前でも頼む?」

「あ、じゃあ私が作るよ!」


怒っていた海はころっと表情が変わり、嬉しそうに言った。


「でも今日は海の誕生日だよ?」

「私がやりたいの! ちぃにいにご飯を作るのも私の幸せだよ!」

「そっか。だったら俺も、海のご飯が食べたいかな」

「任せて!」


二人で誰もいないリビングに降りていく。

そのまま冷蔵庫の中を確認する。


「うん、簡単な物ならすぐ作れそう!」

「じゃあお願いするね。何か手伝う事ある?」

「大丈夫! ちぃにいは座って待ってて!」


そのままリビングのソファーに促されてしまった。


「ちぃママのエプロン借りちゃうね!」


さっとエプロンを着けそのまま料理を始める海を見ていると、結婚したらこんな感じなのかなぁと思い幸せだった。



ご飯を食べ終わった後は二人で俺の部屋に戻りまたイチャついていた。

しかし俺は例の約束の事で頭がいっぱいになってきた。


海は特に変わった様子はないので、もしかしたら忘れているのかも?


でもここは男で、年上の俺の方から切り出すべきだろう。

俺は意を決して海に話し掛けた。


「海、この前の約束だけど」

「……うん」


話を切り出すと、海がぴくっと反応した。どうやら忘れているわけではないようだ。


「俺も男だから、始めたらたぶん止まれなくなると思う。海の心の準備がまだなら、また別の日に……」

「やだ! 今日する!」

「……わかった」


女の子にここまで言わせてるんだ。俺も覚悟を決めよう。

先にシャワーを浴びてきてもらい、続いて俺もお風呂に向かった。


これから海を抱くと思うと、ドキドキが止まらない。俺は冷水のシャワーで頭を冷やし、少しだけ落ち着きを取り戻した。


部屋に戻ると海が見当たらなかった。だけど俺の布団が膨らんでいる。海はそこにいるようだ。


「海、あがったよ」


そう声をかけると布団がビクンと跳ねた。海もすごく緊張しているようだ。

ここからは俺がリードしなきゃ。気合を入れ直す。


カーテンを閉め、電気を消す。時間が時間なだけにそれでもまだ少し明るかった。

ベッドに腰掛けると、布団から恥ずかしそうに海が顔を出した。

俺はそんな海にキスをする。

そのまま、あの時の様に舌を入れる。海も覚悟が出来たのか、積極的に舌を絡めてくれた。

しばらくキスを続けてから離れた。海の顔はとろけきっていた。

そんな海の頬に手を添えて話しかける。


「痛かったり、怖かったらちゃんと言ってね。止められるように頑張るから」

「……うん」

「海、大好きだよ。海の全部、もらうね」

「私も……。私のハジメテ、全部ちぃにいのものにして……」


その言葉に抑えていたものが溢れ出す。俺はそのまま、海のいる布団の中に潜り込んだ。









事が済んだ後、俺は服を着て一人リビングに向かった。コップに水を汲み、自分の部屋に戻る。

海はまだ動けないようだ。我慢が出来なくて、無理をさせてしまったかも知れない。


「海、起きられる? 水持ってきたよ」


そう声をかけると布団で身体を隠しながら、のっそりと起き上がった。


「……うん、ありがとちぃにい」

「ごめんね、少し無理させちゃったかも」

「ううん、ちぃにいの優しさがいっぱい伝わったよ」


コップを手渡すと勢いよく飲み干した。そのままコップを机に置く。


「痛かったけど、すごく幸せ」

「そっか。ならよかった」

「ちぃにいは……? 気持ちよかった?」


そう聞いてくる海の顔がすごく大人びていた。たった一度の経験で、女の子はこんなにも変わるものなのか。


「……気持ちよかったです」

「……えへ♡ はー、こんな幸せでいいのかなぁ」

「これからもいっぱい幸せにしてあげるからね」

「……ちぃにいのエッチ」

「……言うタイミングを誤りました」

「ふふっ、嘘っ。わかってるよ、ありがとっ♡」


そう言ってほっぺたにキスをしてきた。身体を重ねただけで、あんなに愛おしかった海が更に愛おしくなる。

キスを返すと俺達はしばらくイチャつき続けた。




「さて、じゃあ証拠隠滅でもしますか!」

「はーい!」


海が元気を取り戻す頃にはもう日が暮れ始めていた。夜は海の家で誕生日パーティがあるし、うちの親もいつ帰ってくるかわからない。


「とりあえず、海はまたシャワー浴びておいで。その間に色々やっておくから」

「わかった!」


お風呂場に向かう海を見て思い出した。


「あ、海ちょっと待って。……これ、プレゼント。誕生日おめでとう、海」


そう言って紙袋を渡す。毎年恒例のシュシュだ。


「ありがとうちぃにい! 今までで一番幸せな誕生日になったよ!」

「それはよかった。お風呂上がったら着けてみてくれると嬉しいな」

「うん! 楽しみにしててね!」


嬉しそうにお風呂場に向かっていく海を見送る。

さて、俺も俺の仕事をしますか。まずは換気を……。





その後、何もなかった様に海の誕生日パーティに向かった。うちの両親もその頃に帰ってきた。

俺はバレないように細心の注意を払っていたが、海はあまりにも幸せそうな顔をしていた。笑顔がピカピカと輝くようだった。

そんな海の表情で、女性陣にはしっかり気付かれてしまったようだ。少し離れたところで海、空、母さん、おばさんがコソコソと話をしている。

たまにニマニマとしながらこちらに視線が向く度、冷や汗がでる。父さんとおじさんはすでにお酒が入っていて、気付いてなさそうなのが唯一の救いか……。


パーティが始まった後も俺は何を言われるのか気が気じゃなく、怯えながら過ごして行くのだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

不自然な改行のところは、いつかノクターンで書きたい!

ラノベは全然読んだことないって言ったんですが、よく考えたらエロゲはいっぱいやってきたので、自分の中のラブコメのラストはエッチシーンなんだな!

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