第34話メンタル強男は指名される

今日はドラフト会議の日だ。


鈍感な俺でも、日々のニュースや新聞などを目にし、この日までに複数の球団のスカウトの人に声をかけられ両親を交えての面談も行い、流石に自覚をした。

どうやら俺はドラフト1位、それどころか競合確定と言われる程の評価を受けていたようだ。

こうなってくると指名されるかどうかとは別の緊張感が出てきた。


うちの学校にも沢山の記者の人たちが集まっていて、それも緊張感が増してしまう要因だった。


そしていざ始まったドラフト会議。


下位の球団からどんどん指名が行われていく。会場の緊張感もすごそうだ。


俺は4球団競合でのドラフト1位指名だった。ホッとする反面、ここまで評価された事にプレッシャーを感じる。

ちなみに4球団競合はもう一人いて、それは甲子園の決勝で戦った村雨君だった。

まさか村雨君と同等の評価にまでなるなんて、先輩達が引退して、エースナンバーをもらった時には考えてもなかった。

でもここまで来れたのも自分一人の力じゃない。みんなに支えられていたからだ。そう考えると先程まで感じていたプレッシャーも少し和らいだ。


そんなことを考えている間に、自分の指名権をかけたくじが始まった。

叶うなら、海やみんなと離れたくないと思うが、そんな甘えた考えではプロでやっていけないと思い、どこに選ばれても頑張ろうと気合を入れ直した。


結果、俺の指名権を獲得した球団はとらーズだった。会場のとらーズファンが歓声を上げて喜んでくれていた。

まだ誰にも注目されていない時から見守ってくれていたのはとらーズのスカウトの人だったので、これでよかったのかななんて思う。

というかとらーズって事は……。おじさんも今日のドラフトを見るって言ってたから、きっと今頃は狂喜乱舞しているかも知れない。

おじさんや喜んでくれていたとらーズファンの人達を考えると、これから頑張っていこうという気持ちになる。


記者会見も始まり、受け答えも無難に済ませられた。一応聞かれそうなことを海と空と考えていて準備をしておいた。


「ではこちらが最後になります。とらーズのファンは少し熱狂的で、更にドラフト1位ともなると応援の声も批判の声もあがると思いますが、何かファンの方に伝えておきたいことなどありますか?」


なんとも答えにくい質問が最後に来てしまった。多少焦ってしまうが思いついた言葉をそのまま伝えた。


「応援の声はそれを力に頑張ります。……批判の声には、自分のピッチングで語ります。見といてください!」


おぉと小さくどよめきが起きた。少しかっこつけすぎたかも知れない。



そうして会見を終えた俺は見守ってくれていたチームメイトのところに向かった。


「ほら、ドラフト1位だったっす!」

「あぁありがとうな。お前が俺の球を受けてくれたおかげだよ」

「へへ……そう言われるとめっちゃ嬉しいっすね! 俺も来年ドラフトで指名されるようにこれから頑張っていくっす!」

「坂下なら絶対いけるよ! 頑張ってな!」


坂下と話しているとみんなも加わってきた。


「おめでとう藍川! お前と野球出来たこと、一生自慢するからな!」

「よかったな! しかもファンに黙って俺の投球を見とけとか、結構言うじゃん!」

「これで情けないピッチングしたらファンから総スカンだぞ! まぁ藍川なら大丈夫だよ、頑張ってくれよな!」


チームメイトからもプレッシャーをかけられる形になってしまった。


「じゃあ胴上げでもするか! 俺達は引退してなまっちまってるから、2年がメインでいくぞー!」


胴上げされ、それを記者の人達が写真に撮り。

不安と緊張から始まったが、結果的に最高の一日になった。





家に帰ると当たり前のようにパーティの準備がされていた。なんか今年はいっぱいやっている気がする。


「ガッハッハ! やったぞとらーズだ!」


みんな喜んでくれていたのだが、やはりおじさんが一番嬉しそうだった。


「これで、来年はとらーズのちぃが見られるわけだ! 最高だな!」

「いやまず一軍に上がれるかわからないけど……」

「大丈夫大丈夫! ちぃならすぐに上がってエースだ!」


すでにお酒の入ってるおじさんは楽天的だが、かっこいい姿を見せるためにも頑張らないとな。


「もーお父さん声おっきい! でもちぃにい、ドラフト1位なんてホントにすごいよ!」

「ホントにおめでとうちぃ!」


右から海が、左から空が話し掛けてきた。

海は腕に抱きついてスリスリしてくる。空は頭をこっちに向けてナデナデを要求してくる。

俺は海に寄り添いながら空の頭を撫でた。


「……お前らそんなに仲良かったっけ?」


おじさんは俺等の様子を見て、訝しげに聞いてきた。

……しまった。空のペットを容認してから1ヶ月程が経ち、いつの間にかこれくらいのスキンシップは普通になってしまっていた。当たり前のようにみんなの前でも撫でてしまった。


「べ……別に、普通ですよ?」

「海は交際してるんだからそんなもんだと思うけど、空までなんか仲良くなってないか?」


流石におじさん達に空のペット化がバレるのはまずい。なんとかごまかさないと。


「……幼馴染だし! 頭ナデナデくらいはしますよ!」

「……そうかぁ? まぁ仲が悪いよりかはいいけど」


おじさんはなんとかごまかせたようだ。だけどおばさんはまだ疑いの目を向けてくる。


「まさかちぃ君、空と海二人共彼女にしてるとかじゃないわよね?」

「ち……違います! 付き合ってるのは海だけですよ!」

「ふーん……」


おばさんからの疑いは晴れないようだ。


「ま、ちぃはとらーズに入ったからな! これでエースになったなら、空も一緒に娶っていいからな!」

「ちょっとあなた!」

「でもほら見てみろ、空の幸せそうな顔を」


おじさん達に疑われているので空の頭を撫でる手を離そうとしているのに、その手を掴まれてナデナデを継続させられている。

そんな空の表情は、ペットらしく幸せそうな顔だった。


「……二股かけてるわけじゃないのね?」

「それは絶対に! 誓います!」

「……だったらいいわ。はぁ……空のちぃ君離れはまだしばらく無理そうね……」


遂に親公認になってしまった。でもきっとおじさん達も夢にも思わないだろう。これ、ペットなんです……。


「でも、ちょっと遠くの球団になっちゃったから、せっかく恋人になれたのに海は寂しいわね」

「うん……私もちぃにいの近くの高校を受験したいなぁ……」

「高校生の間に一人暮らしなんて危ないから絶対にダメよ!」

「そうだよねぇ……」


海が寂しそうに呟いた。


「……もし高校3年間、成績も落とさずに真面目に生活できたら、大学はあっちの方でも許してあげるから」

「本当!? うん、頑張るよ!」

「でも一人暮らしは危ないから、ちぃ君が一緒に住んであげてね」

「ちぃにいやったぁ! 同棲する許可がでたよ! 楽しみ!」


おばさんの意見に反対するつもりはないけど1つ問題がある。


「海と一緒に住めるのは俺としても嬉しいんですけど、プロ野球選手って1週間くらいの遠征は当たり前だし、やっぱり心配じゃないですか?」

「あぁ、それもそうね。どうしたものかしら……」


そんな話をしていると、頭を撫でられて恍惚とした表情をしていた空が手を上げた。


「じゃあ、私も一緒に住む! それならいいでしょ?」


その言葉を聞いておばさんはため息をついた。


「……空あなた、ちぃ君離れする気あるの?」

「ないよ!!」


元気よく答える空に、おばさんはさらに深いため息をついた。


「……ごめんねちぃ君。海が大人になるまではこれもセットで面倒みてもらっていいかしら?」

「それは全然大丈夫なんですけど……」

「流石にちぃ君と海が結婚でもすれば、空も諦めが着くと思うから……」


おばさんは半ば諦めの表情だった。おじさんはこの会話を聞いて笑っていた。

うちの両親も相変わらず遠巻きにニヤニヤしているので、これで完全に公認と化してしまった。


「じゃあ空も、ちゃんと大学に行って何も問題を起こさなかったら、海についていくのを許可します。この前みたいな事をしでかしたら、もう一歩も外に出さないからね!」

「はい!」


ペットになってからの空は元気いっぱいで、見てるとほんわかする。

……まずい、俺も無意識の内に空をペットとして認識してきてしまっているのかも知れない。毒されない様に気をつけねば。


空とおばさんが話をしている間も、スリスリしている海はご機嫌だ。


「海嬉しそうだね」

「うん! 3年後にはちぃにいと一緒に住めるんだもん! それまでにお母さんに家事もいっぱい教えてもらって、ちぃにいを支えられるようになっておくからね!」

「ありがとう。じゃあ俺はそれまでにいっぱい活躍して沢山稼げるようになっておくよ。海に苦労はかけたくないから」

「……別に贅沢な生活とかはいらないよ? 私はちぃにいさえ側にいてくれるなら、どんな生活でもいいの!」


本当にいい子だな海は。


「いや、これは俺がやりたいことだから。好きな女の子を幸せにしたい、男のプライドだよ!」

「……うん! じゃあ期待してるね!」


愛しい海のためなら、きっと頑張っていけそうだ。




そうしてパーティも終わり、涼木家のみんなは家に帰っていった。

残りの片付けを終わらせようとしていると母さんに声をかけられた。


「ちぃ、あなた空ちゃんと変な関係になってるでしょ?」


核心を突いた質問に思わず身体が跳ねてしまう。


「恋人とかじゃないっぽいけど……あれはそうね……ペットみたいに見えたわね」


我が母ながら、鋭すぎて怖くなる。


「……ペットって何だよ、ただの幼馴染だよ」

「ふーん……まぁいいけど。空ちゃんが側にいることを許すなら、ちゃんと空ちゃんも幸せにしてやりなさいね!」

「う……うん」

「返事が小さい!」

「はいっ!!」


これ以上追求されるとボロが出そうなので、さっさと片付けを終わらせて自分の部屋に逃げよう。




ちなみに、次の日の新聞を母さんがウキウキで買ってきてくれたが、とらーズメインで取材をしている新聞の一面には、胴上げされている自分の写真と共に一文が添えられていて


『とらーズドラフト1位 藍川千尋 「批判上等! ピッチングで黙らす!」』


とだいぶ脚色された見出しがついていた。あの過激なとらーズファンからの批判の声を考えると、俺は頭を抱えてしまった。



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ドラフトとか面白く書けそう!とか思ってたけどいざ書き始めると流れとか全然わかんなくて結局ぼかした感じで誤魔化しました…

どなたか!読者様の中にドラフト1位競合された方はいらっしゃいませんか!?

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