第33話メンタル強男は約束する

空はなんて言ったんだ?

ペット? 誰が? 誰の?


突然の言葉に頭が混乱する。


「ちぃ、大丈夫?」


空が心配そうに顔を覗き込んでくるが、俺の頭はまだ混乱したままだ。

隣をチラリと確認すると、これまた海もわけがわからないという表情をしていた。


「えっと……ごめん、もう1回言って?」

「だから、私はちぃのペットだから、撫でられても変じゃないでしょ?」


……何を言っているんだ空は。

空がペット? どうしてそうなったんだ?


「……なんでお姉ちゃんがちぃにいのペットなの?」


海もわけがわからないようで質問を投げかける。


「だってちぃがこの前、私はペットって言ってくれたじゃない」


そんな記憶ないんだけど!?

だけどその言葉を聞いて海がジトーっとした目でこちらを見る。


「……ちぃにい?」

「いやそんなこと言ってないよ!?」

「言ったわよ! 私はちぃのものって! それってつまり、ペットってことでしょ!」


あれかぁ……。幼馴染同士だから全部言わなくてもわかってもらえたんだって思ってたけど、全然意図が伝わってなかった……。

ていうかよしんば、俺のものってことだとしても、それがなんでペットにまでなるんだ!


「あれは空にヘイトを向けないよう、俺が気持ち悪い奴になるように言っただけだよ! 空もそれを理解してくれてたと思ってたのに、まったく伝わってないじゃん!」

「えっ……? でも、今日もこのカチューシャくれたじゃない! これを着けて俺のペットでいろってことじゃないの!?」

「いやそれは……冗談で買ってきたプレゼントで……本命は別に用意してあって……」

「……そんなぁ……」


空が泣きそうな表情になってしまった。

悲しむ空を見たくはないが、どこに幼馴染をペットにする男がいるんだ。流石にこれは止めなきゃいけない。

海も全部はわかってはないが、ある程度の流れは理解したようだ。


「それで、お姉ちゃんはどうしてペットで嬉しそうなの?」

「……ペットになれば、ちぃと離れなくてすむと思って……。それに、この前の犬みたいに可愛がってもらえるかなって……」


空に好かれてるのは嬉しいのだが、ここまで拗らせる程だとは思ってなかった。


「ペットなら、海の邪魔にもならずに家族になれるかもって……。だから、この犬耳をプレゼントされて、ホントに嬉しくって……」


可哀想だけど、これを受け入れるのは絶対にダメだと思う。ここは心を鬼にして……。


「……はぁ。まぁお姉ちゃんがちぃにいから簡単に離れられるわけはないと思ってたけど」

「……海さん?」

「私もお姉ちゃんが側にいるのは嬉しいし、いいんじゃない? お姉ちゃんがそうなりたいなら」


海!? なんてことを言い出すんだ。


「ちょ……ちょっと待って! 流石にペットは受け入れられないよ!?」

「でもお姉ちゃん、このままじゃ可哀想だよ? ほら、こんなに泣きそうな顔してるんだよ?」


そりゃたしかに、空の悲しい顔を見るのは辛いけど、でもペットはないだろ!

だけど空がここぞとばかりにウルウルした瞳でこちらを見てくる。まるで捨てられた子犬のようだ。くっ……流されるな!


「お願いちぃ、私はちぃと本当の家族になりたいの。恋人になれなかった私に、最後の希望をちょうだい……」

「ぐぬぬ……」


断りにくい流れにされてしまった。海も半分諦めの表情でこちらを見ている。


「……空が俺と離れたくないって言ってくれるのは嬉しいよ。高校を卒業したら離れ離れになるだろうし。その為に英語を勉強したいって言ってくれるのも嬉しかった」

「ちぃ……」

「でも流石に……ペットは……」

「お願いちぃ、私にはもうこれしかないの!」


真剣な瞳で訴えてくる空に、俺は折れた。


「……俺はペット扱いしないからね! あくまで幼馴染、恋人の姉として接するからね!」

「じゃあ……!」


パァッと空の表情が明るくなる。


「……いいよ、空がペットになりたいって言うなら……それで」

「本当!? ありがとう、ちぃ!!」


さっきまでの涙はどこにいったのか、満面の笑みだ。


まぁ、いつか……。いつかきっと空も目を覚ましてくれるはずだ。そしたら新しい好きな人なんかも出来て離れていくだろう。

だから、その時までは俺が空を見守っていよう。


嬉しそうな空に海が話しかける。


「じゃあお姉ちゃん、ペットとして越えちゃいけないラインを伝えるよ!」


海としては、ペットは許したが守るものは守ってもらわないといけない。


「まず、エッチな事は絶対に禁止だからね!」

「それはそうよ! ペットとエッチな事をする人なんていないでしょ!」


……まず幼馴染をペットにする人がいないと思う。


「キスとかも禁止だからね! これは恋人の私の特権だから!」

「ワン!」


ワンって……。


「あと、他の人の前ではペット禁止だよ! ちぃにいが変態さんだと思われちゃうから!」

「ワン!」


海のその心遣い、出来れば空がペットになる前にしてほしかった……。


「ちなみに、ナデナデはいいでしょうか!?」

「……まぁそれくらいなら……」

「……大丈夫? 犬に嫉妬してた海が我慢できる?」

「で……出来るもん! ……たぶん」


出来なさそうだなぁ。まぁ空を撫でて嫉妬していたらそれ以上に海を可愛がろう。


「匂いを嗅ぐのは……?」

「……それも許しましょう。ていうか、お姉ちゃん今でもたまにちぃにいの洗濯物もらってるしね」


え!? あれまだ続いてたの!? 母さん!?


「マーキングは……?」

「それはダメです! ちぃにいの匂いが薄くなっちゃう!」


幼馴染にマーキングされている姿を想像すると、もうダメそうだ。


「うーん……とりあえずそんなとこかな! 後は一緒にいて、気付いたらまたルールを決めていこう!」

「わかった! ありがとう海、大好きよ!」


そう言って海に抱きつく空。うん、いつもなら微笑ましい姉妹愛だなって思えてたんだけど、今はペットとご主人様の図だ。

俺達は選択を間違えてしまった気がしてきた……。

そう考えるが幸せそうな空を見ると、今はこれでよかったかななんて思い始めてしまった。


しばらく海に撫でられていた空が、改めて言葉にする。


「ちぃ、海、私の事を受け入れてくれて本当にありがとね!」

「……多少不本意ではあるんだけど」

「でも、結構可愛かったよペットなお姉ちゃん!」


海が割りと普通に受け入れてて怖いよ。


「じゃあ、後はお二人で仲良くね! 私は空気の読めるペットだから!」


そう言うと海の部屋から去っていった。嵐のような時間だった……。


二人きりになると海はすぐに抱きついてきた。


「でも、海はよかったの? 俺は海を選んだんだから、あんな提案突っぱねてもよかったのに」

「うーん……他の女の子だったら絶対に許さないけど、お姉ちゃんならいいかなって!」

「でも姉がペットになりたいって妹としてはどうなの?」

「ようは、これからもずっと一緒にいたいってことでしょ? ペットって考えになったのにはびっくりしたけど」


他の女の子に告白されたと聞いた時は落ち込んでいたが、姉が相手だとすごく広い心になるようだ。


「流石にペットを認めるのはどうかと思ったんだけど……たぶんいつか目を覚ますと思うんだ」

「私もそう思うよ! いくらへんてこになっちゃったお姉ちゃんでも、大人になったらペットなんて扱い嫌になると思う!」

「そ……そうだよね! そうだよね!!」

「だからそれまでは、ちぃにいと私とお姉ちゃん、3人でいられるね!」

「うん、それは素直に嬉しいよ。やっぱりずっと一緒にいたから、離れるのは寂しいよね」


離れるという単語を聞いた海は、抱きつく手を強めた。


「……でも、ちぃにいがプロになって遠くに行っちゃったら……私も会えなくなっちゃうんだね……」


寂しそうにつぶやく海を、俺からもきつく抱きしめた。


「そうだね。でも、毎日連絡するよ。時間があったら電話もする。遠征でこっちの方に来る時は会いに来るよ。たとえ数分しか会える時間が無くても絶対に来るよ!」

「ちぃにい……」


顔を上げた海の眼が潤んでいてすごくそそられる。俺は思わずキスをした。


「ん……」


海も答えてくれる。空の件で頭から薄れていたが、ここはまだ海の部屋だ。海の匂いに包まれながらのキスは、理性をとろけさせていく。

我慢が出来なくなってしまった俺は、そっと舌を海の口に挿し込んだ。


「んっ……!」


驚いたようだが、海はそのまま受け入れてくれた。しばらく俺達は舌を絡ませあう。

しかしこのままだと抑えきれなくなりそうだったので、海の肩を掴んで俺達は離れた。


「……これ……しゅごい……♡」


舌を出しながら眼をトローンとさせてる海は、今までに見たことがない程艶めかしかった。

いかん、これ以上はホントに止まれなくなる。


「ちぃにい……もっとぉ……」

「ごめん、俺からやっといてなんだけど、これ以上は我慢できなくなる」

「……いいよ、ちぃにいなら……エッチなことも……」


そう言われて心が揺らぐが、今はまずい。下の階にはみんなもいる。


「今はダメだよ」

「じゃあいつするの……? 私が大人になるまでしないの? プロになったらちぃにい遠くに行っちゃうかもなんだよ? ちぃにいに愛されずに離れ離れなんて嫌だよ!」


たしかにそれはそうだ。俺は海の事を大事にしたいという気持ちのあまり、海の気持ちを考えられてなかったのかも知れない。


「……わかった、じゃあ海の誕生日にしよう。恋人になって初めての誕生日、絶対に忘れられないものにするよ」

「うん約束! 私も心の準備しておくから!」


なかなかにとんでもない約束をしてしまったが、海はすごく嬉しそうなのでこれでよかったんだと思う。

そのまま海が落ち着くまで俺は海の頭を撫で続けた。



「じゃあそろそろ戻ろうか。下も静かになってきたし片付けしてるかも」

「そうだね! ……でもちぃにいは先に行ってて。私は着替えてから行くから」

「着替え? 必要なくない?」

「もう! ちぃにいは相変わらずデリカシーが足りないよ!」


よくわからないが怒られてしまった。


「ご……ごめん、じゃあ先に戻ってるね」


そう言い逃げるように海の部屋を後にした。


リビングに戻るとちょうど片付けの最中だった。空もいたが、犬耳は外してくれていた。親の前でアレをされたら流石に擁護しきれない。


「お、やっと戻ってきたか。なんだ、海とイチャついてたのか?」

「そんなとこです」

「……まさか、エッチな事をしてたんじゃないだろうな?」


その言葉にドキリとさせられてしまうがなんとか平静を保ちながら続けた。


「そんなわけないじゃないですか。ちょっと話をしていただけですよ」

「ホントかぁ? まぁ別にちぃならいくらでも手を出していいけどな! ガハハ!」


おじさんは豪快に笑っていた。海と約束してしまった手前、反対はされなさそうでよかった。


「……でも、ちゃんと避妊はするのよ」


後ろからこっそり近づいてきてたおばさんに釘を刺される。


「……はい、わかってます」

「ならいいのよ。海を大事にしてあげてね」

「それは約束します!」

「ふふっ」


おばさんも嬉しそうに笑っていた。

うちの両親もそれを遠目に見てニマニマしている。みんなの了承も得られたようで安心だ。


今日は色々あった。空がペット(自称)になったり、海とエッチの約束をしたり。でもどれも嫌な気分じゃない。



そんな幸せを噛み締めながら、俺はみんなの片付けを手伝うのであった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ベロチューはセーフですよね!?

空はエッチなペットじゃないです!健全なペットです!


ちなみに最終的には海のエッチなのも書きたいのでいつかノクターンに出没するかも!

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