第31話メンタル強男はまた守る/私は気付いた(空視点あり

騒がしかった日常も少しずつ落ち着きを取り戻して来ていたある日、また事件が起きた。


「藍川君! また空が絡まれちゃって……! 助けてあげて!」


お昼休み、空と海が作ってくれたお弁当を堪能していると、こころちゃんが大きな声で話し掛けてきた。

前髪を下ろすようになって、ようやく落ち着いてきたと思っていたがまだ許されないようだ。


こころちゃんの案内で現場に着くと、女子3人に囲まれている空がいた。


「あんたは浮気して別れたんだから、藍川君の事にいちいち口出してくるんじゃないわよ!」

「そうよ! それに冤罪までかけようとした癖に、なんでまだ藍川君の側にいるのよ! さっさと離れなさいよ!」


またあの件で絡まれているようだ。だったら俺が守らないと。俺は空を背中に庇うように中に割って入った。


「ストップ! ちょっと落ち着いて!」

「……何この陰キャ」

「ちょっと! これが藍川君だから!」

「え゙っ!?」


一人の女の子が喧嘩腰に話しかけてきたが、もう一人の子がそれを慌てて止める。

たしかこの喧嘩腰の子は友人グループでもたまに話題に上がっていた、学校で一番可愛いと言われているらしい子だ。

うーん……海の方が100倍可愛いな!


「あ……藍川君! 実はね、さっき私が藍川君に告白したいって相談してたんだけど、それを涼木さんが邪魔してきて! だからこれはいじめとかじゃないの!」

「そうなの! 涼木さんが藍川君に告白するなって言ってきて!」


なるほど。おそらく俺への告白の話を聞いてしまった空が、海を心配して止めようとしてくれたんだろう。

俺としても海を悲しませたくないので、水際で止めようとしてくれたのはありがたいんだが、無茶だけはしないで欲しい。


「それを涼木さんに言われる筋合いはないと思うの! もう二人は別れてるんでしょ!?」

「まぁそれはそうなんだけど……」


俺は一つの疑問を投げ掛けた。


「告白しようとしてた相手が前髪下ろしただけでわからないの?」

「……」


完全に黙ってしまった。

この子も俺が有名になったから付き合いたいとかそういうタイプだったのだろう。

友人二人は可愛いと言っていたが、松木君はなんか性格が悪そうと言っていた。どうやら松木君が正解のようだな。


「それは……好きになったばっかだから!」

「うん、でもごめん。俺恋人がいるんだ。それにいきなり陰キャ呼びしてくる人とは恋人がいなくても付き合いたくないかな」

「ぐぬぬ……」


これで終わってくれるといいんだが、この子は田町さんと同じ匂いがする。諦めが悪かったら面倒な事になりそうだ。

俺に被害が出る分には別に構わないが、空がこのままいじめの対象になったりするのは絶対に阻止したい。


ここで俺は、あの時の松木君の作戦を思い出した。そうか、自ら評価を落として俺への興味を無くさせれば向こうから勝手に離れてくれるはず。

そう思いついた俺は、空の横に立つと肩を掴んで抱き寄せた。


「ていうか、空に手出すのやめてくれる? これ、俺の物だから」

「……は?」


女の子達は何を言われたのか理解できてないようだ。


「だからさ、これをいじめて良いのは俺だけなんだ。俺専用だから」


みんなドン引きしている。そりゃこんなこと言ってくる奴がいたら、俺だってドン引きだ。……空には後で事情を説明して謝ろう。


「そ……そうなんだ……。藍川君ってそういう……」

「は……はは、じゃあ二人の邪魔は出来ないから……私達もう行かせてもらうね……」

「うんごめんね! 空にはもう関わらないでね!」

「はい……もう二人には関わらないです……」


そう言うと足早に去っていった。またしても犠牲は出てしまったがこれで空が安全になるならいいだろう。


みんなが完全に去っていったのを確認して、空を抱いていた手を離し向かい合った。


「……ごめん空! こんな方法しか思いつかなくて酷いこと言っちゃった!」


事情を説明しようとするが空の目はぼーっとしたままだった。


「……空?」

「……え? あ、うん! またちぃに守ってもらっちゃったね、ホントにごめんね!」

「いやそこはいいんだけど……。あんな事言っちゃったけど、ホントは……」

「ううん大丈夫! ちぃの気持ちはわかってるから!」

「……そう? まぁたしかに、俺達の長い付き合いならすぐわかるか!」

「うん! あ、またこころちゃんを心配させちゃった! 早く戻ろっ!」


空も気にしてない様子だし、俺の作戦に気付いてくれたのようだ。それならよかった。


そして、俺はこの時ちゃんと説明しなかったことをしばらく先まで後悔することになるのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


こころちゃんとお昼ごはんを食べに行こうと移動してる時にそれは起こった。


学校でも一番可愛いと言われている子と、その友人達の会話を聞いてしまった。


「藍川君絶対プロになるよね! やっぱ今の内に告白しておこうかな!」

「いいじゃん! まりならいけるよ!」

「なんか中学生と付き合ってるらしいけど、まりなら絶対奪えるよ!」


どうやらまたちぃが告白されるようだ。でもちぃは海が悲しむから告白されることは嫌がっている。

そのためにロリコンなんてそしりも受け入れ、私の案だが前髪もまた下ろすようになった。

それのおかげで、告白される事は無くなったようで海にも笑顔が戻った。なんならこの前のデートでプレゼントされたらしいネックレスを見つめてずっとニヤニヤしている。


私としても、また海の笑顔が曇るようなことにはなってほしくない。

そのためには、ここは私が頑張らきゃいけないと思う。こころちゃんに迷惑はかけたくないので、用事を思い出したと言い別れた。

こころちゃんがいなくなったのを確認すると、私は意を決して3人に話し掛けた。


「あの……」

「え? ……あぁ涼木さん」


この3人は違うクラスだが、私の噂は同学年には伝わっているのだろう。嫌そうな顔をされた。


「ちぃに告白するの、止めてほしいんだ。付き合ってる人が心配してるから」

「……はぁ? なんでそんなこと、あんたに言われなきゃいけないの?」

「……付き合ってるの、私の妹だから」

「へーそうなんだ。浮気した挙げ句に、妹に彼氏取られちゃったんだ、ウケる!」


悔しい気持ちもゼロではないが、今は応援する気持ちの方が大きくなっている。だからそんな言葉では怯まない。


「だから、告白しないで欲しいの」

「そんなのこっちの勝手でしょ? ていうか、幼馴染だかなんだか知らないけど、藍川君こんなのに未だに付き纏われてて可哀想!」

「それは……ちぃが一緒にいていいって……」

「それで藍川君の事を好きな人にこんな牽制してくるの? ちょーうざくね?」


私は言い返す言葉がなくなってしまった。私の消沈っぷりを見て、彼女達は更に追い打ちをかけてきた。


「ていうか、あんたは浮気して別れたんだから、藍川君の事にいちいち口出してくるんじゃないわよ!」

「そうよ! それに冤罪までかけようとした癖に、なんでまだ藍川君の側にいるのよ! さっさと離れなさいよ!」


3人に詰め寄られて私は声が出せなくなってしまった。だけどその時、大好きで、安心する声が聞こえた。きっとまた、こころちゃんが呼んできてくれたんだろう。


「ストップ! ちょっと落ち着いて!」


割って入ってきたのはやっぱりちぃだった。あぁ、またちぃに守られてるんだ。

ちぃはその大きな背中で私を隠すように立ってくれた。それだけで私は嬉しくなってしまう。


ちぃ達は何か話しているが、私は守られるのが嬉しくて、気持ちよくて、頭に入ってこない。

しばらくすると、ちぃが私の横に来た。あぁ、ちぃの背中が……。

そう思っていると急に肩を抱かれ、引き寄せられた。まずい、海がいるのにドキドキしてしまう。

しかしそんな思考も、次のちぃの言葉を聞いて弾け飛んだ。


「ていうか、空に手出すのやめてくれる? これ、俺の物だから」


……ちぃの物? 私が?


「だからさ、これをいじめて良いのは俺だけなんだ。俺専用だから」


私がちぃ専用? ちぃにいじめられちゃうの?


私はちぃとの初めてのエッチの時くらい、ドキドキしていた。

ちぃに振られてから、色々考えてきた事が頭に浮かんだ。


本当は、ちぃに振られて少しホッとしてしまっていた。

ちぃの恋人に戻りたかった気持ちは嘘じゃないが、私は他の男に抱かれてしまった身だ。こんな汚れた私がちぃの恋人に戻って良いのかずっと悩んでいた。

もしちぃと恋人に戻って、エッチする時にちぃが気にしてしまったらどうしよう。自分ではわからない変化があったらどうしよう。男の人が怖くなっていたらどうしよう。

そう考えると、ちぃと恋人に戻ることも怖かった。

だから、海を選んだと聞いたときは、悲しい気持ちの中に少しだけ、安堵があった。これで、ちぃに汚れた私を見られないですむと。


でも、幼馴染に戻った私は物足りなかった。やはり、今まで恋人だったところからの幼馴染は少し味気なかった。

だけどちぃと海の邪魔をしたいわけじゃない。二人の事は、本当に祝福している。

二人の邪魔をしないように、一緒にいられる関係を考えた。でも何も思いつかなかった。

それでも少しでも一緒にいられるように、たまに二人の厚意に甘えて登校に混ぜてもらった。

そんな時、迷子の犬がいた。

あの時、ちぃが犬を撫でていた時、羨ましいと思った。

海も撫でられてたけど、なぜか私は犬の方が羨ましいと思った。


だけど、さっきのちぃの言葉を聞いて気付いてしまった。



これなら、海の邪魔にはならない。

これなら、ちぃの側にいられる。

これなら、ちぃの匂いも嗅げる。

これなら、ちぃに撫でてもらえる。

これなら、ちぃと家族になれる。

これなら、ちぃとずっと一緒にいられる。



そうだったんだ。ようやく気付いた。点と点が繋がっていく感覚。


恋人になれなかった私が、本当になりたかったもの、それは……













ちぃのペットだったんだ。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

空、ペットエンド。



本当に、空派の皆様には申し訳なく…(3回目


最初から最後まで、これが書きたかっただけの作品でした!

でもこんなへんてこ設定なのに、読者さんにあっさりバレてビビりました!ちょっと軽くフラグ立てしただけなのに!


ここまで真面目にラブコメやってきましたが、ここから始まるはギャグラブコメです!

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