第29話メンタル強男は新しい日常も堪能する

今日は少し投げたい気分だったので、久しぶりに野球部の方に顔を出すことにした。


朝練だと少し時間が短いので放課後にすることにしたので、朝はいつも通り海と一緒だ。

玄関を出るといつも先に待っている海がいなかったので少し待っていると、空と海が一緒に出てきた。


「おはよう海、空も」

「おはようちぃ」

「おはよーちぃにい! ごめんね待たせちゃった?」

「俺も今来たとこだよ。今日は空も一緒に行くの?」


そう聞くと空が少し気まずそうに答えた。


「うん、二人の邪魔じゃなかったらたまには一緒に行きたいなって」

「俺は全然大丈夫だよ。というか、幼馴染なんだからそんなこと遠慮しなくてもいいのに」

「私も気にしないよ! お姉ちゃんも大好きだもん!」

「ありがとう二人とも!」


空も海も笑顔だ。関係が壊れなくて本当によかった。


「ちぃ、今日のお弁当はね! 海にも手伝ってもらったの!」


お弁当を受け取ると、空が教えてくれた。


「そうなんだ、じゃあ今日のお昼が楽しみだなぁ!」

「もーあんまり期待しないでね! まだ料理始めたばっかりだから自信ないし!」


照れくさそうにしているが、海が自分の為に作ってくれたんだ。楽しみすぎる。


そのまま3人で並んで歩いていた。こういうのも久しぶりな気がする。変わったことは、俺と海が手を繋いでることだ。空も気にしている様子はないし、いつもの3人に戻れた感じだ。




信号待ちで止まっていると足に何か当たる感じがした。気になって確認すると足元に犬がすり寄っていた。


「あれ? 迷子の子かな?」

「ホントだ。首輪してるから、どこかから逃げてきちゃったのかな?」


海が周りを確認しているが飼い主らしい人は見当たらないっぽい。車がよく通るこの道でこのまま放っておくと危なそうだな。

そう思いしばらく待ってみようと、しゃがんで撫でてみた。


「この子、すごい人懐っこいね。ちぃにぃに撫でられて気持ちよさそうにしてる!」

「うん、めっちゃ可愛い!」


撫でても嫌がるどころかもっととせがんでくる。うーん、愛い奴め。

撫で続けるとお腹まで向けてきた。可愛すぎる!


夢中になって撫でていると隣に海もしゃがんできた。


「……私も可愛いと思います」


少しムスッとした顔で頭をこちらに向けてきた。……もしかして嫉妬してる? 空いてる手で海の頭も撫でた。


「……犬に嫉妬しちゃった?」

「……」


そういうと顔が真っ赤になった。うーん、こちらも愛い。

しばらく海と犬を撫で続けていると飼い主さんらしい人が走ってきた。


謝罪と感謝をたくさん述べ、そのまま散歩に戻っていった。……少しだけ名残惜しい。


そろそろ学校に向かうかと二人を確認すると、空がぼーっとした目になっていた。

……流石に空の前でイチャつくのは少し配慮が足りなかったか?


「……ごめん空。怒ってる?」

「……え? あ、ごめんちょっと考え事してただけだから! 気にしないで!」


空がそう言うなら本当に気にしてないのだろう。また3人で歩き出した。

少し歩き出すと海がこそっと話し掛けてきた。


「……今度、さっきのワンちゃんよりいっぱい可愛がってもらうからね」


まだ嫉妬してた、ホント可愛い。



ロリコン認定されてしまったがクラスでの人望はまだ失われていなかった。よかった。

いつもより騒がしい日々になってしまったが嫌ではない。充実した生活だ。


お昼休みになったので、朝から楽しみにしていたお弁当の時間だ。

いつものメンバーで机を囲む。


「お、今日も愛妻弁当か! いや、愛妻じゃなくなったのか……悪い!」

「別に気にしてないからいいよ。それに今日は、彼女も手伝ってくれたらしいから、半分はあってるよ!」

「そうなのか、なぁ一口くれよ!」

「ダメです、海のお弁当は全部俺のものです!」

「かーっ! 彼女さん愛されてるねぇ」

「うん大好き!」


俺の惚気にうんざりしている3人。でも今まで惚気を聞いてくれる友達もいなかったので、しばらくは聞いてもらおう!


ちなみにお弁当は美味しかった。海の愛情がたくさん詰まってる気がして幸せだった。



放課後は予定通り、野球部に顔を出した。

監督にも一応了承はもらっておこうと思い挨拶に向かった。


「監督こんちにわ、今日少し投げさせてもらっていいですか? なまってしまいそうなので!」

「おぉ藍川か、そうだなお前もまだ終わってないからな! きっとプロにも指名されるぞ!」


自分のことのように喜んでくれる監督。普段は厳しいが優しいところもあるいい監督だ。優勝出来て本当によかった。


ウォームアップを終えるとピッチャー陣の練習に混ぜてもらった。


「おつかれ! みんな頑張ってるな!」

「藍川さん! お久しぶりです!」


久保が元気いっぱいに答える。


「藍川先輩、もっといっぱい練習に来てくださいよ! 聞きたいことも沢山あるし、寂しいですよぉ……」


後藤も投げる手を止めて寄ってきた。……少し距離が近いのが気になるが。

投手二人がこっちにきてしまったので坂下もこちらに向かってきた。


「藍川先輩ちっす! 今日は投げに来たんすか?」

「あぁ、ちょっと自主トレだけだとなまってきそうでな! 付き合ってもらっていいか?」

「オッケーっす! 二人も、ちゃんと見とけよ! こんな良いピッチャー間近で見れる機会も多くないからな!」

「わかってるって」

「うん、僕も先輩の勇姿、網膜に焼き付けときます!」


ちょっと怖い発言もあるが気にしないでおこう。

しばらく投げ込みをしたが、流石に少し落ちている気がする。もう少し顔を出す頻度を増やそう。


投げ込み後に坂下に率直な意見を聞く。


「どうだった? やっぱ落ちてる?」

「まぁあの頃よりは少し落ちてますけど、ちょっと練習すれば戻る程度じゃないっすか?」


海と恋人になれて幸せいっぱいで、やはり少し練習量が足りなかったみたいだ。これからは増やしていこう。これで将来海を幸せに出来ると思えばいくらでも頑張れる。


「先輩はこのままプロ確定だろうし、練習は続けたほうがいいっすね!」

「……ドラフト指名されるかな?」

「はぁっ!? 確定でしょ! なんなら1位指名かどうかくらいですよ! スカウトとか、声かかってないんすか?」

「一応いくつかは声かけられてるけど……」

「じゃあ大丈夫っす! 俺が保証するっす!」


坂下は本当にいいキャッチャーだと思う。来年のドラフトはこいつが目玉かもなんて思ってもいる。その坂下に保証されたんだ。自信を持とう。


「ボロボロだった時期も長かったからあんま自信なかったんだけど……坂下がそういうなら信じるわ!」

「最後の大会大活躍だったので大丈夫っすよ! ネットとかでもどこの球団が穫るのかとか、もう話題になってましたよ!」


少しの観客で震え上がっていた俺が、プロになったらもっと大勢のファンの前で投げるようになるのか。そう思うとメンタル改善されててよかった。


「あー藍川先輩来てるじゃないですか! おつかれさまですぅ♡」


坂下と話していると、田町さんに見つかってしまった。


「先輩聞いてくださいよ! クラスの女子とかに先輩の連絡先めっちゃ聞かれるんですよ! もうすごい大変なんですから!」

「あーそれに関してはごめん、断っといてくれる?」

「断っても引き下がらない人だらけなんですよ! 本当にめんどうで……」

「彼女も出来たから女の子の連絡先はいらないって伝えておいて」

「……彼女出来ちゃったんですね……。はぁ……2番目は空いてます?」

「そんな席は存在しません」

「ちっ!」


まだ諦めてないのか……。俺は海一筋だから、無駄な労力になると思うが。


「まぁ私はマネージャーなので! 先輩の連絡先も知ってますし! プロになったら有望な男紹介してくださいね!」

「そうだね、その時にまだ連絡が着いたらね」

「ブロックする気満々じゃないですか! 連絡つかなくなったら直接会いに行きますからね!」

「ストーカーで通報しとくね」

「やめてぇ!!」


田町さんで遊んでいるとずっと待っていた後藤と久保がしびれを切らしたのか声をあげた。


「先輩! そろそろこっちに戻ってきてくださいよ! まだまだ聞きたいこといっぱいあるんですから!」

「わかった、すぐ行くよ!」


そうして俺はまた練習に戻っていった。



みんなより早めに練習を終えて帰ろうとすると校門で空が待っていた。


「あれ空、待っててくれたの? 約束の門限大丈夫?」

「門限はまだ急いで帰れば大丈夫よ。なんだか海が元気なかったから話を聞いたら、ちぃが告白されたって気にしてて」

「……そうか」


この前はあんまり気にしてない風を装っていたけど、やっぱり気にしてるのか……。どうにかしたいけど何も案が思いつかない。


「だからしばらくは私が着いていようかなって」

「……でもそれだと、空にも迷惑がかかると思う。海もたぶん、空に迷惑がかかることは望んでないと思うんだ」

「たしかに、そっか……。……なら、久しぶりに前髪下ろしてみる?」

「前髪?」

「うん、前髪下ろせば少しは注目度も下がるんじゃない? にわかちぃファンなら気付かなくなるかも!」

「なるほど……」


たしかに、今の俺の注目は一時的なものだと思う。意外といい案かも知れない。


「それに前髪でちぃのイケメンを隠せば、少しは告白も減るんじゃないかしら?」

「……イケメンか?」

「イケメンよ! 少なくとも、海と私にとってはね!」


そう素直に言われると照れてしまう。


「ありがとう。嬉しいよ」

「ふふっ、照れてるちぃも可愛いわね!」


……この姉妹は二人して俺をからかってくるな。


「じゃあ明日から、前髪上げるのやめてみるよ。海の事も気にしてくれてありがとね!」

「お姉ちゃんですから!」


誇らしげにしてる空を見ていると、空も幸せになってもらいたいと願ってしまう。


壊れずにすんだ空との関係を嬉しく思いながら、俺達は並んで帰宅した。


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メンタル強男設定が日常だと活かしにくくて難しい…。

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