第28話メンタル強男は人気者になる

長い休みが終わり、今日が休み明け最初の登校だ。


部活が無くなったのでゆっくり出来るようになったが、朝の自主トレはかかしていない。大会が終わったとはいえこれで終わるわけではない。


自主トレが終わったあと、海が朝少しだけ早くでて一緒にいたいと言うので、余裕を持った時間に家を出た。

玄関を出るとすでに海は待っていた。満面の笑みだ。


「おはようちぃにい!」

「おはよう海」


夏休み中もずっと一緒にいたのに、会っただけでも幸せオーラがすごい。これが恋人になったという証だろう。

挨拶をすませるとスススっと海が近づいてくる。


「ねぇ……おはようのチューしていい?」


人前では恥ずかしいがここならまだ人目もないだろう。俺はそっと海に口付けをした。


「……えへっ! ホント幸せっ!」

「俺もだよ。でも人前では自重してね」

「うんっ!」


そんなタイミングで隣の家の扉が開いた。視線を向けると空が出てきたところだった。


「おはよう、空も一緒に行くのか?」

「おはようちぃ。流石に恋人になったばっかの二人を邪魔しないわよ。今日は始業式だけだから、お弁当はいらないかの確認がしたかったの」

「そうなんだ。たぶん用事もないから大丈夫だと思う。最悪どっかで買って食べるよ」

「……部活が終わったとはいえ、ちぃの野球選手としての生活は続くんだから、あまり身体に悪いものを食べちゃダメよ?」

「わかってるよ、ありがとね」


なんだか母親のようになってしまったな。でも幼馴染には戻れたようで安心する。気まずい関係にならなくてよかった。


「あと、しばらくは私も手伝うけど、これからは海がちぃのお弁当を作るようになると思うから」

「そうなの? 空も海も、無理はしなくていいからね? ご飯くらいどうにかするから」

「いいの! 私がやりたくてやるんだから! お姉ちゃんに色々教えてもらって美味しいご飯作れるようになるからね!」

「……ありがとう、大好きだよ海」

「ちぃにい……♡」


二人の世界に入りかけたところで横から咳払いが聞こえた。いかん、幸せすぎておかしくなっている。


「……まぁちぃのお嫁さんになるなら、美味しいご飯くらいは作れないとね」

「お嫁さん……」


海の顔がポッと赤くなる。うーん可愛すぎる。


「はぁ……とりあえず、今日はお弁当はいいみたいだから後はお二人でね。私はもう少し遅らせてでるから」

「うん、ありがとう空」


空はどこか晴れやかな表情で自分の家に戻っていった。もう俺のことは吹っ切れたのかもしれないな。


「じゃあ俺達もそろそろ行こうか」


海に手を伸ばすと、また満面の笑みが返ってきた。


「うんっ!」



少し早い時間に出たので、ゆっくりと海と登校出来た。

人通りも多くなってきたが手は離さない。これくらいはみんなやってるだろう。

いつものおじさんにも見られたが、今度はちゃんと恋人になっているんだ。むしろ見せつけてやろうと、海の肩を抱いた。

おじさんはびっくりしていたようだが、ニカッと笑ってサムズアップしてくれた。


海と別れ、一人で登校していると周りが少しざわついていた。なんだろうと辺りを見渡しても特に変わったところはない。

心なしか、ざわついている人たちの視線の先は自分な気がする。

流石に自意識過剰だろうと思い、気にするのをやめてそのまま学校に向かった。


下駄箱で靴を履き替えようとすると1枚の手紙が入っていた。なんだこれ?

よくわからないがとりあえずカバンにしまって教室に行こう。


教室の扉を開けるとクラスメイトの視線が一斉にこちらを向いた。あれ? こんなこと前にもあったな。

また何か悪い噂でも流れてるのかと警戒したが、今回の視線は好意的なものに感じる。

そして一人のクラスメイトに声をかけられた。


「藍川君! 甲子園優勝おめでとう!」


一人が口火を切ると、クラスメイトから怒涛のおめでとうラッシュが来た。


「藍川すごかったよ! 応援してるだけなのに感動した!」

「私もいっぱい泣いちゃったよ! おめでとう!」

「テレビにもいっぱい映ってたぞ! もう有名人だな!」


もしかして、朝からの視線もそれが原因だったのか?


「あ……ありがとう。クラスチャットでも言ったけど、みんなの応援のおかげだよ」

「地方大会だけでもすごいのに、甲子園まで優勝しちゃうなんてな!」

「本当に! ねぇ藍川君、連絡先交換しよっ!」

「あ、俺も!」


もうクラスメイト全員登録したんじゃないかっていうくらい連絡先が増えた。ちょっと前まで昔の友達と空くらいしかなかったのに。


みんなに褒められるのは嬉しいのだが、普段こんなチヤホヤされて来なかったので、精神的に疲れてしまった。

ようやく自分の席に着くといつもの3人組が声をかけてきた。


「おー藍川! チャットでは送ったけど、改めておめでとうな!」

「うん、ありがとう」

「いやーマジですごかったわ! 最後のところなんて、鳥肌たっちまったよ!」

「マジマジ! クラスの女子なんて泣いてる奴もいたからな! こりゃ、これから告白ラッシュになるかもな!」


恋人が出来たので、告白されるのは困る。そういえばみんなにも相談してたし、報告しておこう。


「あーそれは困るなぁ。もう恋人出来たんだ」

「お、ついに決めたのか?」

「うん、前にも言ってたけど、空の妹の海と付き合うことに決めたんだ」

「例の中学生な! いいじゃん、こっちもおめでとう!」

「甲子園優勝して彼女も出来て……おいおい幸せいっぱいじゃん!」

「そうなんだよね、ホント幸せ!」


たぶん喜びが顔から出てしまっているのだろう、3人とも少し呆れた顔をしているが祝福してくれた。


「……でも、マジでこれから大変だぞ。ほら見てみ教室の入り口。他のクラスの女子とかもこっち見てるだろ? あれたぶんお前狙いだぞ?」

「えぇ……本当に困ったな……」


そう言うと松木君が提案してきた。


「……じゃあ、多少は自分の名誉を犠牲に出来るか?」

「名誉? まぁ正直、あんまり注目されたりするのも得意じゃないから、この事態が収束してくれるなら全然いいけど」

「わかった。なら任せな!」


そういうとすくっと立ち上がり、みんなに聞こえる声で喋りだした。


「おー藍川! 彼女出来たんだな! しかも中学生とか!」


急になんてことを言い出すのか、と思ったが松木君は目配せしてくる。なるほど、そういう事か。


「そうなんだ! 中学生なんだけどすごい可愛いんだ!」


他の二人も作戦に気づいたのか、一緒に声をあげてくれた。


「いやーまさか藍川がロリコンだったなんてな! 高校生を年増扱いって!」

「甲子園優勝しても、ロリコンじゃなぁ?」


俺達の言葉を聞いて教室の入り口で見ていた女子達は顔をしかめて去っていった。

俺の名誉は犠牲になったがこれで海を安心させられるなら安いものだろう。たとえ他の人に嫌われたとしても海や空、仲の良いクラスメイトにさえわかってもらえればそれでいい。


「……うん、そこそこ犠牲はあったけど助かったよ、3人ともありがとう」

「おう、いいってことよ!」

「まぁロリコンなのは嘘じゃないしな!」


否定したいけど、せっかく作ってくれた流れだ。諦めて受け入れよう。


「海を心配させるくらいなら、ロリコンでもいいよもう!」

「ははっ! ま、大人になったら3歳差なんて無いようなもんだから大丈夫だよ!」

「これで貸し1だな! 何してもらおっかなー!」

「……無理のない範囲にしていただけると……」


大きな貸しを作ってしまった気がする。


「藍川は将来有望だからな! もう少し先まで取っとくよ!」

「俺も! お前がプロになったら、可愛い女の子だらけの合コンでも開いてもらうかな!」

「お、いいじゃん俺もそれがいいわ!」

「……俺は合コンには行かないからね」


まだプロになったわけではないので、あまり期待されるのも困るが。でも、もういくつかの球団からは声をかけられている。

指名するとの名言はないが、指名しても大丈夫かの確認くらいだ。特に希望の球団はないと伝えてある。


「まぁ出来る範囲でお願いね」

「わかってるって!」


よくやく落ち着いてきたところで、さっきの手紙を思い出したのでカバンから取り出した。


「お、なんだその手紙?」

「わからないけど、下駄箱に入ってたんだ」

「あー遅かったか……。たぶんラブレターだろ?」

「……なるほど」


中身を確認しようとするとみんなも覗き込んできた。


「……流石に、人の手紙を読もうとするのはマナー違反じゃない?」

「いや好奇心がさ!」

「ダメダメ! ほら、そろそろHRも始まるから席に戻って!」

「ちぇーケチ!」


そうは言うがみんな無理に見ようとはしてこない。いい友人を持ったものだ。


一人になったので改めて中を確認した。


『突然の手紙すみません。甲子園で投げている藍川君を見て好きになりました! 学校が終わった後、校舎裏に来てほしいです!』


本当にラブレターだったようだ。でも俺にはもう海がいる。ちゃんとお断りしよう、流石に無視は相手にも悪い。



始業式でも俺は注目されていた。甲子園優勝効果はすごいみたいだ。式の途中に野球部も表彰されて、一躍時の人だ。


そして帰る時間になった。俺は手紙の送り主に会うために校舎裏まで来ていた。

そこには見たことない女の子が待っていた。


「あ……あの、藍川君! 来てくれてありがとうございます!」

「うん、君が手紙をくれた人だよね?」

「そうです! 手紙でも伝えたんですが、甲子園で投げてる姿が本当に格好よくて、大好きになりました! よかったら私と付き合って下さい!」


頭を下げているが、身体は少し震えている。この子も勇気を出して告白してくれたんだ。俺もちゃんと誠意を持って断ろう。


「……ごめん。もう付き合ってる人がいるんだ」

「あの……聞きました、中学生の恋人がいるって。でも、私も! 見た目は子供っぽいですよ! ほら、背も胸も小さいし!」


いや別にロリコンってわけじゃないんだけど……。でもそこを否定するとせっかくの作戦が台無しだ。


「うん、でも俺は今付き合ってる人が大好きなんだ。だから、本当にごめん」

「……そうですか……。わかりました、ちゃんと来てくれてありがとうございました!」


そう言うと走って去っていった。告白を断るのはやっぱり辛いな。


少し気落ちしながら下校していると、駅で海が待ってくれていた。


「あ、ちぃにいおかえり! 一緒に帰ろっ!」


無邪気な笑顔で声をかけてくる海を見てると心が暖かくなってくる。甲子園の時もだったけど、海にはたくさん元気をもらえる。


「うん、帰ろうか!」


手を繋いで二人で帰路についた。



「ちぃにいなんか元気なかったね?」

「あーちょっと気落ちする事があって……」

「……告白されちゃった?」


……なんですぐにわかるのか。


「……どうして?」

「だって、甲子園優勝しちゃったんだもん! きっとモテモテになっちゃったでしょ?」

「……」


心配させたくなかったので、何か言葉を出そうとするが俺は何も言う事が出来なかった。


「だけどこれはしょうがないよ! みんながちぃにいの魅力に気付いちゃったんだもん!」

「……でも海に悪いかなって」

「ちぃにいがモテるなら、彼女の私も鼻が高いよ! それに、信じてるから! ちぃにいは私が傷つくようなことはしないって!」

「海……」


中学生とは思えないくらい大人な考えだった。ますます海を好きになっていく。


「ありがとう、海と付き合えて本当によかった!」

「えへ! 私もちぃにいが恋人で嬉しいよ!」


握る手に力が入る。絶対に海を離さないようにしよう。


「……でも、ちょっとは嫉妬しちゃうから……この後ちぃにいの部屋に行っても良い?」

「うん、俺も海と一緒にいたいな」

「……えへへ♡」



俺達はそのまま日が暮れるまで、思う存分イチャついて過ごした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

パワ◯ロで最後の大会優勝すると人気者付くけど、自分で書いてみるとたしかにそうなりそう!って思えた!

ちなみにここからプロットが雑になってるので更新空いたらすごい困ってると思って下さい! 海とイチャつく日々 とかしか書いてないよこのプロット!

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