第27話メンタル強男は告白する

空と別れた後、俺は海にチャットを送った。


『今日時間ある? 会いたいんだけど』


そう送るとものの数秒で返信が来た。


『あるよ! 私も会いたい!』

『じゃあ1時間後に駅前で待ち合わせね』

『わかった! 準備する!』


しばらく駅前で時間を潰していると海も着いたようだ。


「あっ、ちぃにいいた! 今日はどうしたの突然?」

「海とデートしたいなって思って」

「デート……」


俺の言葉に海は驚いたようだが、段々とニコニコしてくる。


「デートなんだ! じゃあいっぱいおしゃれしてきてよかった!」

「今日は髪下ろしてるんだね。いつもの海も可愛かったけど、今日は大人っぽくて綺麗だよ」


その言葉を聞いた海は、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。


「えへ! ありがとっ! でもほら見て? 後ろは少し縛ってるんだ! ちぃにいにもらったシュシュはつけたくて!」


くるりと回る海。後ろを少し束ねて、そこに俺が昔プレゼントしたシュシュがついていた。


「うん似合ってる。今年も誕生日プレゼントに新しいの送るよ」

「やった! で、今日のデート、どこに行くの?」

「あぁ、海に行かない?」

「海? 水着持ってきてないよ?」

「入るんじゃなくて少し見に行きたいんだ。今日は曇ってるからそこまで暑くないし、人も少なそうだし。いや?」

「ううん! ちぃにいとならどこにでも行っちゃうよ!」


よかった。海に告白するのに海に行く。ギャグみたいになっちゃったけど、昔行った時に景色のいいところを見つけていたのでそこで告白したかったんだ。


「じゃあ早速行こうか」

「うん! でも、せっかく海に行くならやっぱり水着持っていきたかったな! ちぃにいを悩殺出来たかも知れないのに!」


海の水着はすごい見たいけど、それを他の人には絶対に見せたくない。

この前のスカートもそうだったけど、自分がこんなに独占欲の強い男だなんて思ってなかった。独り占めしたい。


「夏はまだ少しあるから、次の機会にね。でも、海の水着を他の人に見られるのはやだなぁ」

「……えへ! じゃあ今度、ちぃにいの部屋で見せてあげる!」


……自分の部屋に水着の海がいるのを想像すると、危ない思考になってくる。これから告白するんだ、落ち着け俺。


そうして電車に乗り、1時間程揺られていると目的地に着いた。

少し晴れ間が見えてきていた。暑くなる前に移動しよう。


「じゃあ着いてきてもらっていい? 行きたいところがあるんだ」

「わかった!」


海沿いの道を歩いていると爽やかな風が吹く。その風でたなびく海の髪がとても綺麗だ。恋を自覚してからは本当に海が綺麗で、可愛くて、愛おしい。

そんなことを考えながら歩いていると目的の場所にたどり着いた。


「ほらここ、すごく景色がよくて。なのに人も全然いないんだ」

「わぁーホントだ! 海がすごく綺麗に見えるよ!」


笑顔でそう言ってくれる海にホッとする。裏表のない海だからこそ、本当に喜んでくれてるのがわかる。

しばらく景色を眺めていたが、俺は意を決して海に話し掛けた。


「海、話があるんだ」


その言葉に振り返った海だが、俺の表情を見て察してくれたようだ。

すごく不安そうな表情になってしまった。俺は海の笑顔が好きなんだ。そんな顔をしてほしいわけじゃない。


「甲子園で戦ってる時、辛い時がいっぱいあったんだ。でもそんな時に、海の顔が浮かんだんだ。いろんな時の海が浮かんだけど、全部笑顔だった。海はどんな時も、俺に笑顔を向けてくれてたんだ。それがすごく嬉しくて、力になった」


海は黙って聞いてくれていた。


「それで、気付いたんだ。俺はもうとっくに、海を好きになっているって。だから、今度は自信を持って言うよ」



「海が一番好きだ。だから、俺と恋人になってほしい」


そう言葉を紡いだ。


「……本当に、私でいいの……?」

「海がいいんだ。海じゃなきゃ嫌だ」

「……お姉ちゃんじゃなくていいの……?」

「空にはもう伝えたよ。俺は海を選んだって」


その言葉を聞いた海は抱きついてきた。


「……本当は怖かった!! ちぃにいに、ずるいタイミングで告白して! それで恋人になれたけど、お姉ちゃんの話を聞いて! このまま付き合ってても、お姉ちゃんにちぃにいを奪われちゃうんじゃないかって! だから勝負をするって決めて!」


俺は海の言葉を黙って聞いていた。


「でも全然自信がなかった! お姉ちゃんとちぃにいが並ぶと、お似合いすぎて! 私の入り込む余地なんてないんじゃないかって! でも諦めきれなくて! なんとか振り向いて欲しくて必死で!」


海の心の声を聞いて胸が痛む。


「だからきっと、私は振られるって……。でもその時はきっぱり諦めて、二人を応援しようって……思ってたんだ……」


胸に顔を埋めている海に、俺は語りかける。


「でも俺は、海を好きになったよ」

「……本当に?」

「うん、海が好きなんだ。世界で一番好きだ。もう一生離したくない」

「……私も」


そう言うと離れていった。その顔は、少し涙目だが、俺の大好きな笑顔だった。


「私も大好き! もう絶対に、離れないからね!!」




改めて、恋人になった海と景色を見ていた。先程までとは違い、手を繋ぎ、寄り添いながら。

ちらりと海の顔を見ると、それはもう嬉しさを隠しきれない笑顔をしていて、俺も嬉しくなる。


「さっきと一緒なのに、すごくキラキラして見えるね!」

「そうだね、空がだいぶ晴れてきたせいかな?」

「むー違うもん! 恋人と一緒に見てるからだもん!」

「……なるほど」


こういう機微には疎かった。不満気な顔をしているが、嬉しさを隠しきれていない。


「まぁちぃにいはそういう人だもんね! でもそこも好き! 全部大好き!」


そこまで言われると照れてしまう。


「あ、ちぃにい顔赤くなった! 可愛い!」


ニマニマと笑いながらからかってくる。でも俺だってやられるだけじゃないところを見せておかないとな。

海の頬に手を当てる。突然のことにキョトンとした顔をしているが、俺はそのままキスをした。前の時とは違い、長いキスだ。


「……あんまからかってばかりだと、口を塞ぐからね」

「……ちぃにいは、ホントに可愛いね」


……どうやらまだまだご所望のようだ。俺達はしばらくキスを続けた。




夕方になり、俺達は帰路に着いていた。だけど行きとは違い、恋人になっている。手を繋ぎながら見る周りの景色は、たしかに先程より輝いて見えた。


「はぁ……もうデートも終わりかぁ……。幸せな時間って本当にすぐ過ぎちゃうんだね!」

「そうだね。でもこのままおじさんとおばさんにも、報告したいんだ。だから家まで一緒に行くね」


そう伝えると海は嬉しそうだった。ちゃんと報告することが、俺なりのけじめだ。



家に着くと、そのまま一緒に上がらせてもらった。


「海おかえり。あらちぃ君も、いらっしゃい。うちに来るなんて珍しいわね」

「おばさん、お邪魔します。おじさんもいますか? 二人に伝えたいことがありまして……」


俺の言葉に疑問を抱いたようだが、繋がれた手を見て察したようだ。難しい表情になった。

当たり前だ。俺が海を選んだということは、空は選ばれなかったということだ。二人の親としては複雑な気持ちだろう。


「……いいわ、リビングに来て」


リビングに行くとくつろいでいるおじさんもいた。


「おぉちぃ、どうしたんだこんな時間……に……」


おじさんも喋ってる途中で俺と海の手が繋がっていることに気づき、察してくれたようだ。

俺達はそのままテーブルの前に座った。


「おじさん、おばさん。報告があります。今日から、海と交際させていただくことになりました」

「……そうか」


おじさんもおばさんも複雑な表情だ。


「……海、おめでとう。大好きな人と恋人になれてよかったわね」

「うん……ありがとうお母さん」


本来の二人なら、自分のことのように祝福してくれるはずだが、そういう訳にはいかない。


「空にもちゃんと伝えました。空の事は傷つける形になってしまいましたが、それでも海と付き合っていきたいと思ってます。どうか、許してほしいです」

「……交際を反対するつもりはないぞ。これからもよろしくな! 海を幸せにしてやってくれ!」

「私も、そこは素直に祝福してるから大丈夫よ。これから二人で仲良く頑張ってね!」


二人に認められて俺も海もホッとするが、やはり表情は優れない。

しばらく沈黙が続くが、意を決したようにおじさんが口を開いた。


「……なぁちぃ、お前程の器量の持ち主なら……空のことも……」

「あなたっ!!!」

「……すまん」


途中でおばさんに遮られてしまったが、おじさんの言いたいことは伝わる。

でもそういう訳にも行かないだろう。だからこそ、これが俺の出した決断だ。


「空の事はすみません……」

「いいのよ、お父さんが馬鹿な事言ってごめんね。大丈夫、空には私達がついてるんだから! ちゃんと空も幸せになれるように私達が支えるから! ちぃ君は気にしなくていいのよ!」

「……そうだな! ちぃ悪かったな! 空の事は俺達に任せろ! その代わり、海の事は任せたからな!」

「……はい! 絶対幸せにしてみせます!」


空を断って海を選んだんだ。空の分まで、海を幸せにしなきゃいけない。そこは絶対に守ってみせる。


報告を終えた俺は帰り支度をしていた。そこに、見送りに来ていた海が話し掛けてきた。


「……私もちゃんと、お姉ちゃんに報告するよ」

「……大丈夫か? 俺も一緒にいこうか?」

「ううん、平気。ちぃにいもちゃんとみんなに伝えたんだもん。私もしっかりしなきゃ!」

「そうか……頑張ってね」

「うん! ありがとう!」


海ならきっと大丈夫だろう。恋人なんだ、信じることも大事だ。

俺はそのまま自分の家に帰った。うちの両親にも改めて報告しようと意気込みながら。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


私はお姉ちゃんの部屋の前にいた。大丈夫なんて言ってたけど、いざお姉ちゃんの部屋を前にすると足がすくむ。

でも私は幸せになったんだ、お姉ちゃんの犠牲の上で。だったらこんなところで怖気づいてる場合じゃない。


覚悟を決めた私は、お姉ちゃんの部屋をノックした。


「……はい」

「お姉ちゃん、私。今大丈夫?」

「海? いいわよ入ってきて」


お姉ちゃんの言葉を待って部屋に入った。お姉ちゃんは机の前にいた。どうやら勉強していたようだ。


「ごめんね、勉強中だった?」

「大丈夫よ、ちょうどそろそろ終わりにしようと思ってたから」


いざお姉ちゃんに伝えようと思っても、怖くてお姉ちゃんの顔も見れない。

でもこんなことじゃダメだ。意を決して上を向くと、お姉ちゃんの目は真っ赤だった。


私が幸せだった時に、お姉ちゃんはずっと泣いていたのかも知れない。

私がちぃにいに告白されて、キスされて、浮かれてる間、お姉ちゃんはずっと泣いていたのかも知れない。


そう思うと涙が溢れてきた。


「……お姉ちゃん……ごめんなさい……」


突然泣き出した私に、お姉ちゃんは困惑しているようだ。

でも、何も言わずに近づいてきて、そっと抱きしめてくれた。


「いいのよ、海が気に病まなくて。むしろチャンスをくれたんだから、感謝しかないわ。それに、楽しかったから。二人でちぃを取り合っている時間が」


優しく抱きしめながら、あやすように話し掛けてくる。


「私のは、完全に自業自得だからしょうがないわ。それに、いっぱい泣いたから。いっぱい泣いた後に、もう前を向くって決めたから」


お姉ちゃんは、もうしっかりと前に歩き出しているみたいだ。だったら私も、ちぃにいと幸せになることだけを考えていこう。


「……うん、ありがとう! ちぃにいのことは、絶対に支えてみせるよ!」

「お願いね。でも、まだ吹っ切れてないから……。少しだけ一緒にいるのも許してね」

「いいよ! でもまた恋人の座を狙うのは無しだからね!」

「それはないわ。でも何か別の形でちぃの側にいられる方法を探しているの。だから、それを見つけるのが今の私の課題ね!」


前に別れた時より、お姉ちゃんはいい顔をしていた。これでよかったんだと思う。お姉ちゃんと勝負をして本当によかった。


「でも、栄養士はちぃのお嫁さんの役目な気がするから、私は辞退しておくわ。今までの勉強、海に教えてあげようか?」

「ホント!? ありがとうお姉ちゃん! 頑張って勉強するよ!」

「うん、それなら私の勉強も無駄にならなくてよかったわ」


好きな人が一緒で、取り合って。決着が着いた後でも、こうやって仲良く出来て。私は本当に幸せ者だ。

大好きなお姉ちゃんにまた抱きつく。いつまでも甘えん坊な私にお姉ちゃんは呆れているようだが、それでも優しく頭を撫で続けてくれた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

どうでもいいんですけど見直してたら、ぱんつ回のあとに好きになった感じが出てて千尋君終わってんな!ってなりました。

いやまぁぱんつ見せられたら好きになるけど、俺は!!

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