第23話メンタル強男は見た
地方大会が終わってすぐに、今度は海のテニスの大会が始まった。
ちょうど練習も休みだったので、約束通り見に行くことにした。
空とおじさんおばさんも見に行くというので一緒に会場まで向かった。あの日の空の興奮はまだ収まり切って無いようで、その間もずっと語ってくれた。
「もう本当に! ちぃが1球投げるたびにドキドキして! ランナー出す度に生きた心地がしなかったんだから!」
「さっきも聞いたよ。クラスメイトとかはどうだった?」
「みんなすごい興奮してたよ! こころちゃんもいっぱい声出して応援してた! ……でも何人かは、ちぃに惚れた目をしてたね。夏休み終わったら忙しくなるかも?」
それは大変だ……。たしかに、松木君達から『女子からお前の連絡先聞きたいって言われてるけどどうする?』みたいな連絡も来ていた。空と海との約束もまだなのに他の子のことは考えられないので断ってもらった。
「……他の女の子を選んじゃやだよ?」
「空と海以外は考えられないよ」
「……フヒッ……」
やっぱり姉妹だな。
会場に着いたが、空とおじさんおばさんとは一旦別れた。みんなは応援の準備があるようだった。
自分だけで会場に向かうとちょうど一人でいる海を見つけた。声を掛けようと思ったがその前に気付いたのか、こっちに駆け寄ってきた。
「ちぃにい! ホントに来てくれたんだ! 部活忙しいのにごめんね!」
「今日はまだ休みだったから大丈夫だよ」
海のテニスのユニフォーム姿は初めて見るがすごい可愛い。でもスカートが短くて周りに見えてしまいそうでモヤモヤする。男子の会場も隣でまだチラホラ男の姿も見える。
「あ! えへ、どう? うちの学校のユニフォーム可愛いんだ!」
くるりと回って見せてくれる。動くとさらにスカートが危ない。
「うん、すごく可愛いよ、海に似合ってる」
「えへへ! やった、ありがとう!」
海が無邪気にぴょんぴょんはねて、ポニーテールも荒ぶっている。
「でもスカートが短いから気をつけてね。その……他の人には見られたくないかな」
「……へー、ちぃにいもそんな嫉妬するんだ! なんだかすごく嬉しくなっちゃう!」
俺のダサい独占欲丸出しの発言だが、海は嬉しそうだ。……年下の女の子にこんなこと言ってしまうなんてどうかしてる。
「いやごめん忘れて。ユニフォームなのにそんな目で見ることが間違いだった」
「いいよ別に! それに大丈夫だよ! ちゃんと下にスパッツも履いてるから!」
……そうなのか?結構短いスカートだがそれらしいものは見えないが。ショートパンツくらい短いものなのだろうか。
「むー、疑ってる? ……じゃあちぃにいを安心させてあげましょう!」
そう言うと周りをキョロキョロと見渡した。そして誰もいないのを確認するとスッとスカートをたくし上げた。
「ほら! しっかり履いてるでしょ? ちぃにい以外にそういうの見られたくないから! ちゃんとしてるから安心してね?」
急にスカートをたくし上げられぎょっとしつつも男の性、しっかり見てしまう。
……どうみてもぱんつです。水玉柄の可愛いぱんつです。
「あー……。海、言いにくいんだけど……スパッツ履くの忘れてない?」
きょとんとした顔をしながら海は自分でも確認していた。……そして気付いたのか、顔がどんどん赤くなっていく。
「だ……大丈夫すぐ目を逸らしたから! 全然見てないよ!」
フォローになってるのかよくわからない声をかける。
「……違うからね!! 普段はもっと大人っぽい下着つけてるからね!! 今日はたまたまだから!!」
そう言って走り去ってしまった。自分のしょうもない嫉妬心から、大会前の海を動揺させるようなことになってしまった。反省だ。
そんなことを思っていると空が来て声をかけてきた。
「あれ? 今の海じゃなかった?」
「……あぁ、まだ用事があったっぽい。またすぐに戻ってくると思う」
「そうなの? ……なんかちぃ、顔赤くない?」
俺もしっかり動揺していたようだ。無心になれ。……思い出すな馬鹿!
そうしてしばらくすると海が戻ってきた。今度はスカートの下にスパッツが見える。これなら安心だ。
海の出番までまだあるようで、みんなで雑談をしていたが、不意に海に裾を引っ張られ、こっそり話し掛けられた。
「……ホントだからね? 今日のは私の持ってる中でも一番子供っぽいやつだからね?」
見られたことじゃなく、履いていたやつを気にしている。
「……見られたことを気にしてるんじゃないの?」
「ちぃにいが見たいならいつでもいいよ? あ、でも今日はダメ! もっとちぃにいをドキドキさせられるのがあるから!」
今日のでも十分ドキドキさせられたのに、もっとすごいのがあるのか……。いかん、今はそんな時じゃない! 無心になれ……無心になれ……。
「あ、そろそろ試合始まるみたい!」
「うん、頑張ってね!」
「海、ファイト! 緊張しないようにね!」
「ありがとっ! じゃあ行ってきまーす!」
結果は残念なことに準決勝で敗退だった。海も空と同じで運動は苦手だったはずだが、すごく様になっていて格好良かった。
でも相手が強豪だったらしく、善戦はしていたがあと一歩及ばなかった。
チームでの反省会も終わったようで海はこちらに向かってきた。
「いやぁ……相手が強すぎたよ! 悔しいけどしょうがない!」
海は悔しいだろうに、それでも笑顔で話し掛けてきた。
「うんお疲れ様。前に海が言ってたけど、ホントにかっこよかったよ。もう運動が苦手のイメージも無くなったよ」
「もう私なんかよりすごい運動出来るようになっちゃったね! 3年間お疲れ様!」
「うむ! 海も頑張ったな! 偉いぞ!」
「お疲れ様海。今日は帰ったら海の好きなものいっぱい作ってあげるからね!」
おじさんとおばさんに撫でられて笑顔が崩れ始めた。3年頑張ったんだもんな。
「……あー、この役はちぃに任せるか! 父さんと母さんは帰りの準備とかしに行くから!」
「そうね。ちょっと先に車で待ってるわ」
そう言って二人は離れていった。
「……私も、今日は海に譲るね。一緒に行くわ」
空も着いて行ってしまった。海と二人残されてしまったが俺に任されたんだ。しっかり海を慰めよう。
「……泣いても大丈夫だよ。一生懸命やってきたんだから、悔しくて泣くのは普通だよ?」
そう声をかけると海が抱きついてきた。
「……わぁぁあああああん!!」
我慢してた分が一気に出てしまったのか、大泣きしてしまった。俺には胸を貸して慰めることしか出来ない。
しばらくすると泣き止んだ海が顔をあげて笑みを向けてくれた。
「……ありがとちぃにい! 泣いたらスッキリした!」
「うん、改めてお疲れ様、海」
今度は悔しさを隠した笑顔じゃない。俺の大好きな無邪気な笑顔だ。
「今年は自信あったんだけどなぁ。相手が強すぎたよ!」
「どこもみんな頑張ってるからね。負けたみんなの想いも背負って、勝ったチームはもっと頑張るんだ。応援してあげよう」
「うん! ちぃにいもみんなの想いを背負って甲子園行くんだもんね! 頑張ってね!」
「海の分も、俺が勝ってくるよ!」
「はぁーちぃにいかっこいい! 好き好き!」
そう言うとまた抱きついてきたので頭を撫でておいた。その時一人の女の子が気まずそうに近づいてきた。たしか、海とペアを組んでた子だ。
でも海は全然気がつく気配がない。仕方ないので俺が対応しよう。
「えっと……海とペアだった子だよね?」
「はっはい! そうです! お邪魔してすみません!」
会話をしているので海も気付いているはずだが、俺から離れようとしない。
「あーごめん、今海があまえんぼモードで……」
「い……いえ! 大丈夫です! 今日は好きな人が応援に来てくれるから頑張るって言ってたんで!」
ペアの子も海と付き合いが長いのか、慣れた感じだ。
「……あ、あの! 白砂高校の藍川選手ですよね!?」
「えっと……会ったことある?」
「いえ! でも、うちの両親が高校野球ファンなので、毎年テレビで見てるんです! 今年の活躍、本当にすごかったです!」
「そうなんだ、ありがとう」
急に俺の話になって驚いたが、応援してくれるのは嬉しい。そのままどんどん近づいてくる。
「準決勝の時の! 後輩のピッチャーがピンチになっちゃった時のマウンド! 後輩の人に頭ポンポンして、そのまましっかり後続を抑えたところ! 最高にかっこよかったです!」
……だんだん恥ずかしくなってきたが。しっかり見ていたようだ。
「あれで私、ファンになっちゃいました! それが海の好きな人だったなんて、世間は狭かったです!」
「あ……ありがとう」
「それで……握手してもらっていいですか!?」
その発言を聞いて海がぴくりと反応したがどうやら止めはしないようだ。だったらいいか。
「それくらいならいいよ、はい」
「わぁー! ありがとうございます! 帰ったらお母さんに自慢します!」
……なかなか手を離してくれない。海もだんだん抱きつく腕に力が入ってきている。
「……あと、あの後輩投手にやってた頭ポンポン、私もやってもらっていいですか……?」
「それはダメーーー!」
ようやく俺の胸に顔を埋めていた海が離れた。
「そんなぁ海ちゃん……お願いだよお……」
「ありさちゃんのお願いでもそれはダメ! ちぃにいのナデナデは許さないよ!」
俺を守るように両手を伸ばして間に入って威嚇していた。さっきは俺が独占欲を出してしまったが、たしかにこれはなんか嬉しい。
「海ちゃんの好きな人が私の憧れの選手だったなんて、運命なんだよ!」
「そんな運命いらないから! 絶対ちぃにいは渡さないよ!」
海の独占欲に嬉しくなってる場合じゃないか。俺からもフォローしておこう。
「ごめんね、俺も好きな人以外にそういうことは出来ないから」
「う……藍川選手がそういうなら仕方ないですね……諦めます……」
すごく悲しそうな表情に罪悪感がわくが、海の嫌がることはしたくない。
「でも応援はしてます! 甲子園がんばってください!」
「うんありがとう。で、海に用事だったんじゃないの?」
「あ、そうでした! 海、みんなで写真撮るっていうから早く行こっ!」
「そうだったんだありがと! じゃあちぃにいもまた後でね!」
そう言って二人で駆けていった。海が元気になってくれてよかった。ありさちゃん?にも感謝だな。
しかし何かを思い出したのか、海はありさちゃんに声をかけて戻ってきた。
「……さっきの、好きな人って言ってもらえたの、すっごい嬉しかったよ! あと、誰にも渡さないのはお姉ちゃんもだから! 絶対負けないから!」
いつもの笑顔でそう伝えてくるとまた走り出していった。
海の戦いは、部活が終わった後でも続くようだ。俺もまだまだ戦いは続く。気を緩めないで行こう。
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今日のこだわりポイント
ぱんつはひらがな
あとタイトル詐欺感が強いので変えました!タグも少しいじりました!
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