第22話メンタル強男は勝つ
今度こそ祈りが通じたのか、あれからは問題なく平穏に過ごせた。
日々を空と海と過ごし、部活も好調をキープ出来ていた。
そうしてついに迎えた高校生活最後の大会。
前半は苦戦もなく、軽快な滑り出しだった。うちの学校も強豪だ、そこらへんの学校に負けるわけにはいかない。
後輩投手二人の力もあって、だいぶ温存しながら勝ち上がることが出来た。
キャッチャーの坂下は、どんな相手だろうと油断せずにしっかりデータを確認している。同級生達もこれが最後の大会なので気合がすごい。
田町さんもあれ以来ちゃんとマネージャーをやっていて、今回の大会もみんなをしっかりサポートしている。
本当に、いいチームだと思う。途中、自分が不甲斐なかったり、名鳥が抜けたりで色々あったが、今が一番最高の状態だ。
迎えた準決勝も勝った。ここに来て、名鳥の代わりに1年にしてスタメンの座を勝ち取った木村が大活躍だった。自分を抜きにしても、あいつがいた頃より強くなっていた。
9回に後藤が一打逆転のピンチを作ってしまったが、俺がしっかりと火消しをした。後藤からの尊敬の眼差しも悪くなかった。
みんなの力で勝ち上がってきたので、自分の球数制限も問題ない。決勝でフルで投げても大丈夫だ。
空と海も、夏休みにはいってからは応援に来てくれた。空の食事のアドバイスも、海の無邪気な笑顔の応援も、全部が力になった。二人には本当に感謝しかない。
父さん母さん、おじさんおばさんも応援に駆けつけてくれ、いつも声が届くところで応援してくれた。
最高の状態で迎えた決勝、やはり相手は去年と一緒だった。
練習試合ではノーヒットに抑えたが、あれから時間が経ったのできっともう研究されているはずだ。相手の表情を見ても自信が溢れている。
前半は膠着した。相手のエースも好調らしくヒットが出なかった。でもそこは俺も一緒だ。3回が終わってお互いノーヒットの試合になった。
しかし4回表、ついに口火が切られた。坂下がヒットを打った。それを皮切りに木村がタイムリーを打ちついに均衡が破れた。
ベンチに戻ってくる坂下に労いの言葉をかけた。
「ナイス坂下! 配球読んでたか?」
「データはバッチリ頭に入ってますんで! それより先輩も結構飛ばしてますけど大丈夫っすか? まだ始まったばっかっすよ!」
「大丈夫、今日の俺は絶好調だ!」
「はは、球受けててもわかりますよ! 絶対勝ちましょうね!」
「ああ!」
しかし1点をもらった4回裏、ついにヒットを打たれてしまった。流石にいつまでもノーヒットで抑えられる相手ではなかったか。
そしてここぞとばかりに攻勢を仕掛けてきた。連打を許し、2アウトながら満塁にまでなった。
ちょっと前の自分なら、こんな場面じゃ投げることすら出来なかったかも知れない。でも今の自分は違う。
応援にプレッシャーを感じてしまっていた自分はもういない。今日もみんなが応援に来てくれている。それを考えると力が湧き出てくる。
ピンチなんてまったく関係ない、なんなら普段より楽しめる程のメンタルになっていた。
ピンチを三振で切り抜け、応援席を見ると空と海を見つけた。大きな声で応援してくれている二人を見ると涙が出そうになる。この二人を好きになれて、本当によかった。
それ以降もランナーは出すものの、要所はしっかり抑えて失点はゼロだった。
攻撃陣は着々と追加点をとっていき、気がつけば4点差まできていた。
そして迎えた最終回、監督からは
「球数も調子も問題なさそうだし、最後まで行ってくれ藍川!」
と鼓舞されそのままマウンドに向かった。
これが最後になるかも知れないと思うとプレッシャーはかかるものの、坂下も、他のチームメイトも声をかけてくれる。
「あとアウト3つっす!頑張っていきましょー!」
「俺今日見せ場なかったから、俺のところに打たせてくれよ!」
チームの雰囲気も最高で負ける気がしない。相手のバッターももう後がないので緊張していそうだ。これなら……。
9回もしっかり抑えて完封勝利。……優勝だ。
そう思っているとみんながマウンドに駆け寄ってきていた。
みんなに色々声をかけられたがこの時の事は頭が真っ白になっていて覚えていない。でも嬉しかったのは確かだ。
応援席に挨拶をしに行くと、クラスメイトや中学の時のチームメイトなど、色んな人を見かけた。
その中に、
そこから閉会式が始まり、監督はインタビューも受けていた。
俺達は帰り支度をすませ、バスの中で待っていた。そこでチームメイトからたくさん声をかけられた。
「結局今日も完封で、今大会ほとんど失点してないじゃん! いやー藍川様々だな!」
「俺も今日は打てなかったけど甲子園があるんだ! 絶対活躍してみせるぞ! 藍川と一緒なら優勝も夢じゃないしな!」
「マジですよ! 藍川先輩も、エラーしても全然動揺しなくなったんで、気軽に守備できるようになりました! おかげでプレッシャーが減ってエラーも少なくなりました!」
みんなすごい嬉しそうだ。それはそうだ。去年も決勝までは行ったが惜しくも負けてしまい、今年の優勝は2、3年生にとっては悲願だった。嬉しさも一入だろう。
厳しい競争を勝ち抜いて1年でスタメンを勝ち取った木村もみんなに褒められている。
「木村も! 4回のタイムリーよかったぞ! あれがなかったらどうなってたか」
「いやぁたまたまですよ! でもせっかくレギュラーになれたんで、役に立ててよかったです!」
木村も屈託のない笑顔で返している。こいつは結構誰からでも好かれるタイプだから、1年でレギュラーになってもチームに不和をもたらさなかったのはでかい。あいつがあのままスタメンだったらこうは行かなかっただろう。
そうこうしてるうちに監督も来たので、学校に帰っていった。
そして学校に着くとしっかりミーティングがあった。
「とりあえず、優勝おめでとう! だが、これから甲子園があるからな! 県の代表で行くんだ、不甲斐ない試合は見せられないぞ! いつまでも浮かれてないでしっかり気を引き締めていけ!」
監督は厳しい言葉をかけるが表情から嬉しさが溢れていた。
「そんなこと言っても、監督もニヤけてますよ!」
「そりゃ嬉しいだろう! みんな、ホントによくやってくれた! 最高のチームだ!」
いつも厳しい監督のその言葉を聞いて、チームメイトはみんな泣いていた。俺も涙を抑えきれなかった。
ミーティングも終わり、解散になったのでスマホを確認するとクラスメイトから沢山のお祝いメッセージが来ていた。ちょっと前まで友達もいなかった自分がこうなるなんて、人生はわからないものだ。流石に多すぎたのでクラスチャットのほうで感謝を述べておいた。
その中に空からのメッセージもあり、どうやら外で
待ち合わせの場所に行くと、みんな勢ぞろいだった。
「千尋、よくやったな! 流石俺の息子だ!」
「私の息子でもあるわよ! でもホント、よく頑張ったね! 撫でちゃう!」
父さんと母さんに頭を撫でられた。この歳だと少し恥ずかしい気持ちもあるけど嬉しかった。
「ちぃすごかったぞ! やはりとらーズの次期エースはお前しかいない!」
「また無茶言って……。かっこよかったわよちぃ君!」
おじさんとおばさんも褒めてくれた。家族みたいに過ごしてきた二人にも褒められると、嬉しさが倍増だ。
「ちぃぃぃ……本当によかったぁああ」
「ちぃにいいぃぃ……すごかったよぉおおお」
空と海は泣き止んでいたが、俺を見てまた泣き出してしまった。二人が抱きついてきたので胸で受け止めた。そのまま二人の頭を抱きしめ、撫でた。
「ありがとう。二人の応援の声も聞こえたよ。すごい力をもらえたんだ。本当にありがとね」
そういうと更に泣き出してしまった。しばらく胸を貸しながら頭を撫でていよう。
「……なぁ母さん、これはもう二人とも娶ってもらうのも仕方ないんじゃ……」
「……これを見ちゃうと、片方を選べとは言いにくいわね……。でも流石にどっちかにしてもらわないと……」
「まぁちぃなら、選ばなかった方も別の形で幸せにしてくれるだろう!」
「そうね! こんないい男の子が隣の家にいるなんて、ホント空と海はラッキーだったわね! 絶対に逃さないように私達もサポートするわよ!」
「合点!!」
おじさんとおばさんが何か話しているが二人のすすり泣く音でよく聞こえない。でもきっと悪い話ではないだろう。
それから30分程経ってもまだ二人は俺から離れていなかった。
すでに親同士は雑談モードに入っている。俺もちょっと腕が疲れてきたからそろそろ泣き止んで欲しいんだが……。でもまだすんすん言っている音はしている。
うん? スンスンいっている? まさか……。
「……二人とも、もう泣き止んでるよね?」
そう声をかけると二人ともびくんと反応した。やっぱり……。
「また匂い嗅いでたね? はー……こんな日でも二人は変わらないね……」
二人が名残惜しそうに離れていった。目は真っ赤だから、途中まで泣いていたのは嘘じゃないようだ。
「こんなに頑張った日のちぃの匂いは、今までで一番だったわ! 最高よ!」
「本当に、頭が蕩けちゃったよー! もう少し嗅がせて? ねぇお願い♡」
「こんな汗かいた日が最高って言われても嫌だよ! ♡つけてお願いしてもだめっ! 父さん達ももう暇になって雑談してるんだから、いつまでも待たせてられないよ」
そう言い父さん達を見ると、やっと終わったかみたいな表情をしていた。
「さて、じゃあこれから千尋のお祝いも兼ねて、みんなで寿司でも食べに行くか!」
みんな賛成のようで、各々の車に乗り込んでいった。
うちの車に乗り込んで出発すると改めて父さんと母さんに褒められた。
「それにしても……千尋はすごいな! 甲子園か! プロも本当になれるかもな!」
「ちぃならいけるわよ! 甲子園でも活躍しちゃいなさい!」
「うんありがとう。頑張ってはみるよ」
反応は出来たがここにきてすごく眠くなってきていた。
「あらちぃ眠そうね。着いたら起こしてあげるからちょっと寝てなさい」
「うん……そうする……」
そのまままぶたを閉じたらすぐに意識を失った。
「しかし……空ちゃんも海ちゃんもいい子だから……選ぶのは大変そうだな」
「そうねぇ……でもどっちもってわけにもいかないしねぇ……」
「……やっぱり姉妹丼が正解なんじゃね?」
「子供達の前では言わないでよ。でもあの子達ホントにいい子だから……二人とも幸せになって欲しいわねぇ」
「まぁどっちを選ぶかは千尋次第だ。俺達は見守ってやることしか出来ないな」
「どんな選択をしたとしても、ちぃのこと応援してあげようね」
遠くの方から声が聞こえる気がするが頭には入ってこない。
今日は本当に疲れた。だから少しだけ、何も考えずに休もう。俺はまた深い眠りに戻った。
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野球の描写はこれくらいが限界でしたごめーーーん!!
高校野球の知識0なので変なとこあったら教えてください!可能なら修正します!
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