閑話 諦めた(名鳥視点

14話くらいからの名鳥視点です

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俺は次の日、勃たなくなった原因がわかるかもと病院に行って検査することにした。しかし結果は何もなかった。

だったら心因性のものなのかと、時間が経てばまた元に戻るかもと軽く考えていたが、1週間程たってもなにも変わらなかった。


勃たないからと言って今部活まで休んだら本当に居場所がなくなってしまうので、部活だけは真面目にでた。

クラスには居場所はなく、今までいたところには千尋が収まっている。あいつらと楽しそうに会話をしているのを見ると羨ましくなるが、きっと俺がプロになれればみんな許してくれる。帰ってきてくれるはずだ。

そんな思いでいつも以上に部活を頑張った。キャッチャーのポジションは失ってしまったが、俺の本来の持ち味は勝負強いバッティングだ。どのポジションだろうとそこは変わらない。だったらキャッチャーも出来る、打てるサードとしてこれからは売り出していけばいいだけだ!


しかし慣れない守備位置の練習はきつかった。バッティング練習に割ける時間もなく、守備一辺倒だった。でもそのおかげか、最初の頃よりは形になってきてこれなら実践でもいけると自信が出てきた。来週はちょうど、去年の因縁の相手との練習試合がある。ここで大活躍して監督やみんなの信頼を取り戻そう!


そして迎えた練習試合。俺は久しぶりに緊張していた。もう後がない。ここで失態をみせるわけには行かないと、自分にプレッシャーをかけてしまっていた。


結果は散々だった。1試合で3個もエラーをするなんて人生で始めてだった。初回からすぐにエラーをしてしまったことで、バッティングの方にも影響してしまい、結果全打席三振だった。


俺は監督に途中で交代を言い渡された。こんなはずじゃなかったのに……。

そのままベンチ裏で監督の説教が始まった。


「名鳥! なんだこの結果は! そんなんじゃ次からスタメンじゃ使えないからな!」

「はい……すみません……」

「ずっと部活をサボっててこれじゃ他の奴に示しがつかないからな。次はベンチスタートだ、いいな?」

「はい……」

「これに懲りたらもっとちゃんと真面目に練習をするんだぞ! この後もちゃんと声を出してチームメイトを応援していろ!」


そう言われて開放されたがショックすぎて応援なんて出来なかった。ベンチスタートだった他の部員からは「こいつ早々に降ろされていじけて応援もしねえよ」などの陰口を小さい声で言われていたが、自分の頭は真っ白で言い返すことも出来ず、ベンチの隅で顔をあげられなかった。


7回で降板した千尋は完璧な投球でノーヒットだった。

自分がキャッチャーじゃなくなった途端にこんな投球をされるなんて、もしかしたら自分が悪かったのでは?と自己嫌悪にも陥った。

もうやることなすこと、全てが裏目に出る。俺のメンタルがボロボロになっている時にあいつは絶好調、なんて皮肉なもんだ。


試合は結局快勝だったが俺は少しも喜べなかった。チームメイトも監督も、皆機嫌が良さそうだったが俺は一人だけ落ち込んでいた。

そんな落ち込んでるところにさらに追撃が来た。セフレの一人、2年でマネージャーをやっている田町たまち 愛花あいかだ。


「せんぱぁーい、今日はめっちゃダサかったですね!」

「なんだと……?」


いきなり煽られムカついてしまった。


「だって、キャッチャーのポジションも後輩に奪われて、その空いたポジションで3エラーって! バッティングも最低で途中交代なんて、ダサい以外の感想でてこないですよ!」

「……お前なんかに言われなくてもわかっている」

「その上その後のベンチでもいじけて声も出せないなんて! 監督めっちゃ睨んでたのに気づかなかったんですか? これじゃ、次の試合はベンチも怪しいですねー」


しまった、自分のことで頭がいっぱいで周りに目も向けられてなかった。これじゃ益々評判が悪くなっちまう。


「……なんか先輩、ホントダサくなっちゃいましたね。だったらもうセフレも終わりですねー!」

「おいちょっと待て!」


勃たなくなってしまった今、セフレなんていてもいなくても変わらないが、こいつは部活のマネージャーだったので色々便利だったからここで離れられると困る。


「元々先輩がプロに絶対なれるとか言ってたので交流を持っとこうかなーくらいのノリだったので、こんなダサい人なら興味ないですねー! はぁー、先輩がプロに行ったら有望な選手でも紹介してもらおうと思ってたのに、こんなことになるなんて時間の無駄でしたねー!」


こいつはそんな考えで俺のセフレをやっていたのか。ちょっと身体が好みだったってだけで声をかけたが、それも失敗だったな。


「むしろ今日の試合を見てたら藍川先輩のほうが将来有望そうでしたね! これからは藍川先輩に媚びを売るようにするので、もう関わってこないでくださいねー!」


そう言い残し去っていこうとするので呼び止めた。


「ま……待て!」

「あ、というか先輩って藍川先輩の友達だったんですよね? だったら好みの女の子とかわかります?最後くらいは恩を返してくださいよ!」

「……知らん。そもそもあいつには彼女がいて……まぁもう別れたと思うが」

「へーどうしてですか?」

「……俺が手を出してそれがバレた。だからもう別れてると思う」

「ふーん……。先輩もたまには役に立つんですね、いい情報ありがとうございます!じゃあサヨナラ!」


今度は呼び止めても戻ってくることはなく去って行った。

俺はショックなことの連続でしばらく佇んでいた。しかしその時、監督と一緒にとらーズのスカウトの人が歩いてくるのが見えた。

俺は二人の後をつけて会話を盗み聞くことにした。


その内容は更にショッキングなものだった。


俺の指名を考え直す? なんでだ、この人はいつも俺のことを気にかけてくれていたのに。それさえも元々は千尋のおまけだったってことがわかり絶望が増していく。




俺は頭が真っ白になりながらも、いつの間にか家に着いていた。帰ってすぐ部屋に引きこもっていたが母親に呼び出された。そしてこれが止めだった。

リビングに行くと父さんと母さんが怖い顔をしていた。

 

「……あんた、千尋君の彼女を脅してたって本当なの?」

「……は?」


なんでその事が親にバレているんだ。あいつら、喋ったのか?


「今日あんたの観戦に行ってたら涼木さんに声をかけられて、全部教えてもらったわ。証拠のチャットも見せられたから言い逃れは出来ないわよ」

「それは……」


なんとか言い訳を考えようと頭を回転させようとしていたが、それより先に母さんのビンタが飛んできた。


「馬鹿っ!!! あんたをそんな子に育てた覚えはないよ!!!」


痛みより母親にぶたれた事がショックだった。父親には悪いことをするといつも殴られていたが、そういう時は決まって母さんが慰めてくれてたのに、今日はその母さんに叩かれた。


「千尋君には中学の頃からお世話になっていたのに……その彼女を脅すなんて……。いつからあんたはそんな子になっちゃったの……」


母さんの泣きそうな顔を見て、改めて自分のやらかしたことの重大さを思い知った。


「その上その千尋君を冤罪にかけようとするなんて……。お母さんその話を聞かされて、もうあんたの事、何もわからなくなっちゃった……」

「……」


黙ってしまった母さんに変わって父さんが続けた。

 

「動画を撮って脅しをかけたらしいな。そんな動画があるならちゃんと消してほしいってお願いされてるから、今から調べるぞ」


そう言ってスマホもPCもチェックされたが何も見つからなかった。動画を撮っていないのは本当だ。


「……どこにもそれらしいものは見当たらないな……。隠していたりしたらただじゃおかないぞ!」

「本当です。動画で脅したことも口からでまかせでした」

「そうか、そこは信じよう。だがやったことの責任はとってもらう」


父さんの言葉に息を呑む。

 

「……涼木さんに言われたわ。うちの娘も馬鹿で悪かったって。だから警察沙汰にはしないでくれるって。でも自分達の前に二度と姿を見せないで欲しいって。もしまた見かけるようなことがあったら警察に相談するって」


俺はもう頭がまったく回ってなかった。母さんの言葉も耳には入るが理解するのが難しかった。


「……ちょうど、お父さんの転勤の話があったの。でもあなたがプロ野球選手になりたがってたのは知ってたから、転校はしないでいいように単身赴任で行ってもらう予定だったの。でもこんなことがあったんじゃ、それも出来ないわ」


転校という単語だけが頭に残った。今転校なんてことになったら最後の大会は出られない。絶対に避けたいが、それが叶わない願いなのはもう察していた。


「だから近くに引っ越しをするわ。あなたも転校しなさい。拒否することは許さない」


俺はなんとか転校だけは阻止したいと頭を回転させるが、今日のスカウトの言葉、キャッチャーを奪われてからの最近の不甲斐なさ、クラスでの立ち位置など色々考えて。そして諦めた。


「はい……わかりました」

「そして高校を卒業したら家から出ていけ。卒業までは面倒を見てやるがそれ以降は知らん。下の子供達にも悪影響だ」


高校でプロがダメでも大学で野球を続けてまたプロを目指そうなんて甘いことを考えていたがそれすらも許されないようだ。

弟と妹の前では良い兄でいようと心がけていたが、卒業以降は会うことも許されなさそうだ。


「就職して一人で誠実に生きて反省しろ。これ以上同じ様な被害者を出さないようにな。それが被害者の方に出来る償いだ」


プロになるために選んだ選択肢の結果、プロどころか今までの地位を失い、友人を失い、女を失い、そして終には家族さえも失う。

流石に堪えきれず涙をこぼすが両親の決意は揺るがない。もう、全てが遅かった。


これから引っ越し、知らない土地で生きていく。卒業後、地元に戻ってくることも出来ない。それだけでも大変だと思うのに家族のサポートも受けられない。完全に一人ぼっちだ。


「転校の手続きなんかは私達がやっておくから、あなたは引っ越しの準備をしてなさい。もう外に出ることも許さないわ」

「スマホも解約だ。欲しかったら自分で働いて自分で契約しなさい。これからは何もサポートはせんからな」


親の言葉が耳には入るが頭には入ってこなかった。


どうしてこうなってしまったんだろう。千尋の彼女に手を出したところが悪かったんだろうか。そもそもセフレなんてものを沢山作って調子に乗ってしまったところだろうか。考えても考えても答えは出ない。たとえ答えが出たとしても今更だ。



ベッドに寝転がり、天井を見つめながら今までのこと、そしてこれからのことを考え続けていくのだった。





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ざまぁ書くの下手すぎランキング第2位くらいかも知れない…。

たぶんあと1回くらい名鳥視点入ると思いますが最後の方だと思います!

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