第18話メンタル強男は膝枕をする

海を連れて自分の部屋に戻ってきた。ちなみに1階では父さんが説教されている。


「わぁ、ちぃにいの部屋なんて、小学生ぶりくらいだけどあんまり変わってないね!」

「まぁそうそう変わるものでもないしね」


特に面白いものがあるわけでもないのに、海は楽しそうに部屋を見渡していた。

そのまま本棚の方に行って何かを探し始めた。


「なんか気になる本でもあった?」

「……ちぃにいの本棚は野球のものばっかだね。エッチなやつとかないの?」

「いやないよ!? そんなの探してたの!?」

「ちぃにいの趣味を理解したほうが、これからの作戦が立てやすいなーって思って! で、エッチなのはどこに隠してるの?」


この子は何を言ってるんだ。本棚なんてわかりやすいところに置くわけがない! もちろんちゃんと見つからないところに隠している。


「持ってないから! 探さないで!」

「ほんとかなぁ……。しょうがないからちぃにいの性癖はこれから調べていきますか!」


やめて。年下の女の子に性癖を探られるのは気まずい。

やっと諦めてくれたのか、ベッドに座っている俺の横にきた。しかし距離が異様に近い。


「海さん……ちょっと距離が近くないですか?」

「そう? これくらいは友達とかでも普通じゃない?」

「……足や腕が密着する程の距離で友達とは座らないかなぁ……」


自分と友達がこんな密着して座ってたら……。を想像すると鳥肌がたってしまう。男同士では絶対にないな! 女の子同士ならあるものなのか?


「……ねぇちぃにい、お願いがあるの」

「なに?」

「膝枕してもらっていい?」


うーん、膝枕かぁ……。付き合ってない女の子にするには流石にちょっとラインを越えている気がするが……。


「お願い! せっかくちぃにいと付き合えたのに、恋人っぽいことあんまり出来ずに別れることにしちゃったから。お姉ちゃんには悪いと思うけど、今日だけだから! ねっ?」


たしかに、恋人になったがすぐ別れてしまったのでそういうことはしてなかった。海も、俺と空を思って一旦別れるという決意をしてくれたんだ。キスをしたいとか言われてるわけでもないしこれくらいは受け入れよう。


そうして俺は膝をぽんぽん叩いた。


「わかったよ、おいで?」

「……うん!」


海が勢いよく太ももに頭をのせてきた。


「えへ、これすっごい恋人っぽい! 幸せだなぁ」


すごく嬉しそうに微笑む海を見ると、心がポカポカしてくる。


「頭も撫ででくれる?」

「それくらいなら」


膝枕しながら頭を撫でると、海はくすぐったそうに目を細める。たしかに、これは幸せかも知れない。

正直、海に告白されて付き合ったが、あれは流されてしまったんじゃないかという思いもあった。海の真剣な告白を聞いて断れなかっただけなんじゃないか。

でも今この瞬間、それは違ったと理解した。ちゃんと好きになっていた、海を。空に残っている気持ちもあるが、海に芽生えたこの気持ちも嘘じゃない。だからこそ、ちゃんと決めないといけないな。


「……ちなみに、このまま顔をちぃにいのほうに向けるのはいいでしょうか……?」

「駄目です」


この子の匂いフェチとは一生付き合っていかなきゃ行けない問題のようだ。


「ケチ! あ、そうだ。あとでちぃにいにも膝枕してあげようか?」

「いやそれは……」


そう言ってチラリと海の足を見るが、今日はそこそこ短いスカートだ。生足で膝枕はいくら今日だけと言っても危ない。俺の理性が。

というか無邪気に膝枕されているがスカートがまくれて結構危ない感じになっている。意識すると大変なことになりそうだから意識の外に追いやらねば。


「……JCの生足膝枕なんて貴重だよ?」

「誘惑しない」


撫でている手でちょっと小突いておく。


「もうっ! ちぃにいは真面目だね。でもそこも好きぃ!」


そう言うと顔をお腹に埋めてきた。


「あ、こら! 離れなさい!」

「スンスンスンスン……」

「というか流石にそこはやばい! 早く離れて!」


そういうと位置が危ないことに気付いたのか、ピタリと止まったあと離れていった。


海さん、顔が真っ赤ですよ。かなり積極的に来るようになったがこういうところはまだ中学生だ。

気まずくなりそうなので、コホンと咳をして話題をそらした。


「にしても空以上に海は匂いフェチだなぁ……。これからが大変だよ」

「……でもお姉ちゃんもよくちぃにいにバレないように匂い嗅いでたよ? あとたまに、ちぃママにちぃにいの服とか借りてるし」

「えっ!?」


衝撃の事実が知らされた。まさか母さんと共謀していたとは。仲の良いお隣さんの娘に頼まれて断れなかっただけだよな! なぁ母さん!


「だからちぃにいがお姉ちゃんを選んでも、私を選んでも。どっちにしろ匂いフェチ問題からは逃げられないよ! 諦めてね!」

「はぁ……まぁ減るものでもないからいいか……」

「むしろ匂いを嗅がれて喜ぶ匂い嗅がれフェチくらいにまでなっちゃおう!」


どんなフェチだ。ただの変な人だぞそれじゃ。


「WIN-WINの関係だよ、ステキ!」


こんな素敵はいやだ。


そんな感じの雑談をしているといつの間にか日も暮れ始めた。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。


「うーん膝枕も最高だった! ありがとねちぃにい! でも、こういうことは今日だけにするから!」

「うん、俺も楽しかったよ。ごめんね、俺が曖昧なせいで。今はお互い部活も忙しいけど、部活を引退する頃までには絶対に決めるから。だから、そこまでは待ってほしい」

「わかった! それまでに私ももっともっとちぃにいにアタックをかけるから! お姉ちゃんへの未練もなくして、私を選ばせてみせるよ!」


海は本当に強いな。俺もこの強さを見習って恋愛も部活も頑張ろう。


「じゃあそろそろ帰るね! お姉ちゃんのお説教ももう終わってるだろうし!」

「うん、すぐそこだけど家まで送るよ」

「ありがとっ!」


1階に降りると父さんの説教はもう終わっていたが元気がなさそうにソファーでしょぼくれていた。自業自得だが、多少不憫になる。



隣の家まで海を送って行き、帰ろうとしたところに説教が終わったのか、心なしかやつれた空が出てきた。


「ちぃ、ごめんね」

「もう謝罪はさっき聞いたよ。こってり絞られたみたいだな」

「お母さんが本気で怒るとあんなに怖いなんて知らなかった……。もう絶対に経験したくない……」

「さっきのおばさんでも、すごい怖かったのにあれ以上か……。想像もしたくないな」


説教を思い出したのか、顔が青ざめていく空を見ると可哀想になるが仕方ない。逆に、これだけ怒ってくれるってことは見捨てられず、愛されてるって証だ。


「それで……これからの取り決めで門限が出来たから一緒に帰るのは無理そう。あとスマホも毎日チェックするって」

「たしかに、遅い時間にならなければ悪いことも出来ないしね。スマホもチェックするなら危ないことにもならなそうだね」

「門限通りに帰ってきたら勉強。大学を合格するまではこれで行くって。でもそれで許してもらえて本当によかった。ちぃもありがとうね、許してくれて」


おじさんもおばさんも許してくれて本当によかった。これは俺も同じ思いだ。お互いの家の関係もこじれなかった。

あとは自分の問題だけだ。空を選ぶにしても、海を選ぶにしても、両家には報告もしないといけないのでいつまでもズルズル行くわけにはいかない。


「海にも話したけど、部活を引退する頃までにはちゃんと答えを出すから。空ももう少し待っててほしい」

「……うん、私はチャンスをもらった側だから。ずっと待つよ」

「そこまで時間はかけられないよ。海にも悪いしね」



そうして空とも別れ、家に戻ると復活した父さんが話しかけてきた。


「千尋。話があるからちょっと来なさい」


そう言われ近くに行くといきなりげんこつが飛んできた。


「まったく。こんなことがあったならちゃんと相談しろ? きっとお前のことだから、俺達の家の関係を気にしてたんだろうけど。両家の関係なんかより、まずは自分の子供のほうが大事だからな。空ちゃんも千尋も、もっと親を頼れよ!」

「……うん、ごめん。たしかに俺も相談出来てなかった」


父さんと話していると母さんも寄ってきた。


「まぁ空ちゃんが急に朝来なくなったり、ちぃの様子がおかしかったりしてたから、気づかなかった私も悪いんだけどね。でもそんなことになってるなら、話してほしかったかな」

「うん、母さんもごめん。これからはちゃんと二人に頼るよ」

「そうしなさい。……で、空ちゃんと別れたのはわかったけど、海ちゃんにまで迫られてるなんてどういうことよ?」


ニマニマしながら母さんが聞いてきた。


「空と別れた話を海にしたら告白されて……。それで一度付き合うことにしたんだけど、俺が空を吹っ切れてないから、一旦別れてちゃんと選んでほしいって」

「ふーん海ちゃん、なかなか度胸があるわね。……まぁどっちを選ぶにしろ、お隣さんで幼馴染なのは変わらないから。それで関係が終わりってわけでもないから、ちゃんと選ぶのよ?」

「わかってる」


そう言うと母さんは嬉しそうな顔になった。


「でも、自分の息子がこんなにモテモテだなんて、鼻が高いわね! それも空ちゃん海ちゃんなんて可愛いどころに好かれてるなんて!」

「千尋は父さん似だからな! 俺も若い頃はモテたぞー! 色んな女の子に告白されたもんだ!」

「……あなた、その話詳しく聞かせてもらえるかしら?」

「ワッ……ワァ……」



またもや父さんが墓穴をほっていた。また説教が始まるかも知れない、巻き込まれないうちに逃げよう。俺はそそくさと自分の部屋に戻った。





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空のIFは需要なさそうなので書きはするつもりですが完結後とかにしようと思います!ラブコメになると急に話作るのが難しくなりました…更新頻度が落ちるかもですがエタらないように頑張ります!

あとすごい今更なんですが、評価やコメントありがとうございます!コミュ障なんでコメントに返信とかは難しいですがありがたく読ませてもらってます!

ギフトというのも1件もらってるんですが今のところ返せるものが何もないですすみません。とはいえ応援は感謝です!ありがとうございます!










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