第17話メンタル強男は見守る
そして週末、バーベキュー会の時が来た。
始まってからは和気あいあいと進んでいたが、空はどこか緊張した面持ちだった。
この後のことを考えるとそれはそうかと。自分も当事者ではあるので緊張しているが当の本人である空のプレッシャーはすごいのだろう。
時間は進み、そろそろ終わりにかかった頃に空が声をあげた。
「あの……ちぃママ、ちぃパパ、あとお父さんとお母さんに話があります」
真剣な表情で空が話しかけたことで、場の空気は一気に重くなったが、空は話を続けた。
全部話した。俺のことをお願いする代わりにセフレになったこと。それが俺にバレて脅されたとはいえ冤罪をかけてはめようとしたこと。
俺があの日聞いた話をすべて正直に話した。話を聞いている内におばさんは顔が険しくなっていき、おじさんも悲しそうな表情になっていた。
そして空がすべて話終えると、おばさんが口を開いた。
「空。まずは歯を食いしばりなさい」
そう言って空に近づいていった。空も目を離さず、グッと力を入れていた。
パァーーン!!
空の話を聞いて静かになっていた場に、乾いた音が鳴り響いた。
おばさんが空を叩くところなんて見たことがなかったら俺もびっくりしてしまった。
「まず空。もう自分が最低なことをしたってことは自覚してるみたいだけど。本当に、本当に最低よ。そもそも身体を要求されて本当に差し出すバカがいますか! ちぃ君のためにって言っても、それでちぃ君が本当に喜ぶと思ったの!? 喜ぶわけないじゃない、自分の好きな恋人が浮気をしていて!」
いつもは優しいおばさんだけど今日ばかりはすごく怒っている。
「だいたい、そんなことになったならなんで相談しなかったの? 私達はそんなに頼りなかった? 私達じゃそんな状況を打破できないと思った?」
「ち……ちがっ……」
「違わない!! 相談しなかったってことは、そう思ったってこと! ……自分の子供が馬鹿な事をしでかしたなら、それの責任を負うのが親なの。なのにその話さえ、終わった後にされるなんて…… ちぃ君にやったことも最低だけど、相談もしてもらえなかったことが一番悲しいわ」
俺もそこだった。そんなことになる前に俺でも、おばさんおじさんでも良いから相談出来ていれば結果は違ったと思う。でも、空はそれをしなかった。
「それで浮気がバレて、ちぃ君に罪をなすりつけるなんて……。たとえ脅されてたとしても絶対にやってはいけないことだったわ、そこは理解してるわね?」
「はい……」
「だったら……! いや、もう終わったことね。空は昔からいい子で手もかからなくて。海もいたからいいお姉さんで。お隣のちぃ君の世話もいつもしてて。私達も空に背負わせすぎてたのかも知れないわ、本当にごめんなさい」
「そんなことない! お母さんもお父さんも、ちぃママちぃパパもちゃんと私を気遣ってくれてた! 私が隠したから、相談もせずに勝手に全部一人でやろうとしたから!」
「そうさせてしまったのも、気付けなかったのも親の責任よ」
そう言っておばさんは見たことがない程悲しそうな顔をしていた。
叩かれても表情を変えなかった空も、これには困惑していた。
「お父さんお母さん、本当にごめんなさい」
「謝る相手が違うでしょ? 私達よりもっと傷ついてる人がいるでしょ?」
「……ちぃも本当にごめんなさい。ちぃママもちぃパパも。ちぃに沢山迷惑をかけました。すみませんでした」
こちらを向いて頭を下げる空を見て、うちの両親も悲しそうな顔になっていた。
「……私達も空ちゃんに頼りすぎていたわ。ちぃは頼りないけど、空ちゃんがいてくれるからって。それがもしかしたら空ちゃんの重荷になってしまっていたのかも知れない。だから、謝罪は受けたしもう気にしないわ」
「あぁ……俺も仕事が忙しくて千尋をあまり構ってやれなくて……その分を空ちゃんが見てくれていたんだ。俺に言えることは何もないよ。謝罪も受ける」
うちの両親も、今までの空を知っているからこそ、悲しんではいるけど怒っているようなことはない。
「俺ももう許してます。話を聞いて、俺のために始めたことだって聞いた時から、もう怒ってないです」
「……ちぃ君は優しいね。でもちゃんと怒ってあげるのも優しさだよ?」
「空に話を聞いた時にちゃんと自分の想いは伝えたので。俺もおばさんと一緒で相談されなかった、そこが一番悔しかっただけです」
おばさんは俺の言葉を聞いて呆れたような、でも少しだけ嬉しそうな感じだった。
「こんな馬鹿な子だけど見捨てないでくれてありがとうね。今日からはちゃんと私が見張っておくから」
「俺も空に頼りすぎていたので……でもこれからは空を守れるような男になります!」
「……本当に、ちぃ君はかっこよくなったわね。私が惚れちゃいそうよ」
冗談を真に受けたおじさんが戸惑っている。いつまでも想いあっているいい夫婦、こうなりたいな。
「じゃあ空、最後に一言だけ言っておくわ」
「……はい」
真剣な面持ちに戻ったおばさんの言葉に、空はより一層引き締まった顔で向かい合った。
そしておばさんは空を抱きしめていた。
「本当に……取り返しの付かない事にはならなくてよかったわ。ちぃ君が自殺してしまったり……あなたが妊娠させられてたり……みんなが不幸になるようなことだけは避けられた。それだけが唯一の救いよ」
ここまで叩かれても怒られても表情を変えなかった空だったが、母親の優しさを見せられて泣いてしまった。
「ごめん……なさぁい……」
「これからはちゃんと反省して過ごして行くのよ。何かあったなら大人を頼りなさい」
おばさんの胸に顔を埋めて泣きながらうんうん頷いている空をおじさんも後ろから抱きしめた。
「俺も空をちゃんと見てるからな。お母さんだけじゃなく、お父さんにも頼れよ」
その光景を見守っていたみんなも目が潤んでいた。本当に、おじさんとおばさんはいい人だ。
そうしてしばらくすると3人は離れて改めて頭を下げた。
「藍川さんの家には迷惑をかけました。すみませんでした」
「いえ……うちも空ちゃんに頼り切っていたし……それに、ちぃが許しています。それなら私達からこれ以上言う事はありません」
これなら両親達も気まずくなることはなさそうでホッとしていた。俺と空のことで関係にヒビが入る、それが一番嫌だった。
そこからは重い空気は終わって、少しぎこちないながらもいつもの両家の雰囲気に戻っていった。
みんなでバーベキューの片付けをしているとおばさんが声をかけてきた。
「でもちぃ君、ほんとに許しちゃっていいの?こんなことされたら普通は嫌いになるわよ?」
「いいんです、幼馴染ですし。あーでも……すみません、恋人としては別れることにしました」
それを聞いてうちの両親もおじさんも片付けの手が止まった。
「そうか……それはそうか。じゃあちぃが俺の
寂しそうにしているおじさんを見ると俺も心が痛む。
でもそこに海が近づいていって爆弾を落とした。
「お父さん大丈夫! 今私がちぃにいにアタック中だから! 私とちぃにいが結婚すれば義息子になるよ!」
空気が完全に止まった。両親ズはこっちを向いて説明を求めてるようだった。
「……はい。海から猛烈なアタックを受けています。でも空のことも忘れられない自分がいるので今は待ってもらってます。近い内に必ず答えを出すので見守っていただけますでしょうか……?」
おじさんはとても驚いていたが、おばさんはどこか納得したような顔だった。
「あぁ、やっぱり海もちぃ君のこと好きだったのね。そんな気はしてたんだけど……」
「え、お母さん気付いてたの!?」
「なんとなくだけどね。でも空と付き合ってるから遠慮してたってわけね。で、別れたから猛アタックと……。うちの娘二人共惚れさせるなんて、ちぃ君は罪作りな男の子ね」
おばさんがちらっとこちらを見た気がするが気まずくて目をあわせられない。視線を避けようとうちの両親のほうをみた。
「ワッ……ワァ……」
「それって……姉妹丼……ってコト!?」
うちの親もテンパってかわいい感じになっていた。というか父さん流石にその発言は……
「あなた、子供達の前で下ネタは辞めなさい」
「わァ……あ……」
泣いちゃった。
そんなこんなで海の爆弾発言以降はいつもの明るい関係に戻れた感じがした。ちらっと海を確認するとこっちをみて舌を出していた。
もしかしたらこれを狙っての発言だったのか? だとしたら海はすごいな。また一つ、海の好きなところを発見できた。
そして片付けも終わり今日は解散、というところでおばさんが締めた。
「今日はすごい話もあったけど、お互い何もなくて本当によかったわ。藍川さんのとこともこれからもよろしくできそうで安心したわ」
「本当にすみませんでした!」
空も改めて謝罪したところでお開きとなった。
「あぁ、空はこれから家のほうでまだまだ説教よ。お父さんもいるし、今のうちにこれからの取り決めを作るわよ。人前だからこんなものだったけど、家の中ならもっと厳しくいくからね」
「は……はい……」
そう言って空は連れて行かれた。これ以上はフォローできない。あとは頑張れ、空。
そう思いながら見送っているとトコトコと海が近づいてきた。
「ねぇちぃにい、前に言ってたちぃにいの部屋に遊びに行くの、これからでもいい?」
どうやら海はまだまだ攻勢を緩めないようだ。
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これでたぶん空へのざまぁらしいざまぁは終わりです。ここからはただのラブコメのスタートです。
タイトル詐欺になってしまってすみませんの思いを込めて、空がひたすら不幸になるIFの寝取られざまぁらしいストーリーも書いてみようと思います。
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