第16話メンタル強男はたじろぐ

次の日の朝、海に会うといつも以上に積極的だった。


「おはよう、ちぃにいかっこいいよ、大好き!」


いきなりの大好き発言に、たじろいでしまった。その隙に海は抱きついてきた。


「大好きなちぃにいの朝の匂いー!……あんまりしない……」


昨日勝負をすると言っていたから、どんな感じになるのかと思っていたが、いつも以上にグイグイきてた。

結構気恥ずかしいが受け入れると言ったんだ。俺もちゃんと向き合おう。


「おはよう海、積極的になったね」

「うん! お姉ちゃんに負けられないもん!」


そういってとびきりの笑顔を向けてくる。早くも陥落しそうな俺は、意志が弱いのか。海が強すぎるのか。


その時隣の家の扉が開いて、中からそろりと空が顔を出した。


「おはよう、ちぃ」

「あぁ、空もおはよう」


なんだかモジモジしてるが何か用があるのだろうか。

と思っていたが手に持っているものを見て、理解した。


「今日からまた、ちぃにお弁当作りたくて……受け取ってくれる?」

「うんありがとう。食費はまた、母さんから受け取っておいてね」


この感じもだいぶ久しぶりな気がする。完全に元通りとはいかないが、これくらいの距離感でも心地いい。


「空も一緒に学校行くか?」

「ううん、そこは海に遠慮しておく。まだ、贖罪もすんでないし……」


俺はもう許しているが、きっと空自身がまだ許せないのだろう。だったら、まだ待つべきだ。


「わかった。じゃあ、学校でね」

「うん、またね」


そうしてお弁当を受け取り、海に向き合うとにっこりと笑っていた。


「お姉ちゃんはまだ意気地なしっぽいね。じゃあその間に、私はどんどんいくよ!」

「……お手柔らかに、お願いします」


とりあえず外では自重してもらおう。やつが見ている。


それから海と別れ、学校につき部活をはじめたが、今日はあいつがきていた。でも俺に関わってくる気配はなかったので特に気にならなかった。


そうして昼休み、おなじみになってきた3人組とご飯を食べ始めた。


「お、藍川今日は購買じゃないんだ、弁当作ってもらった?」

「あぁ、今日は空がまた作ってくれたんだ」


そういうと一人が顔をしかめていた。寝取られに詳しそうな男、たしか名前は正木。


「おぉ、すげえな。なんかよくある寝取られものとかだと、寝取られた相手の作る飯とかもう食えなくなるとかだぞ!」

「うーん、別に普通かな? 美味しいし」

「こいつ……マジで別人じゃねーか! メンタル強いっていうかもはや鈍感だぞ!」


俺は鈍感なのか?たしかに、海の気持ちにはまったく気付いてなかったことを考えるとあっている気がする。


「こんな鈍感なら、付き合ってた彼女の妹と付き合うことになっても気にしないか!普通結構気にするところだぜ?」

「あーそれなんだが……昨日別れた」


そういうと皆、気まずそうな顔になってしまった。


「……すまん、昨日俺等がからかいすぎたせいか?」

「いや違う、俺の責任だ。俺にまだ空への想いも残ってることを気にして。だから一回別れて、もう一度恋人になれるように空と勝負するって」

「はー、妹ちゃん、かっこいいな! 俺だったら別れたくないから、ずるずる付き合い続けちまうところだぜ」

「うん、海も空も、かっこいいんだ。そこが好きになったところなんだ」


そういうと3人はニヤリと笑った。


「だったらお前も、ちゃんと受け止めて、真剣に考えないとな! どっちと付き合うにしろな!」

「うん。ちゃんと考えるよ。ちゃんと向き合って、ちゃんと答えを出す」

「あぁ! それに、昨日はからかっちまったけど、中学生なんてもう大人だよ! こんな真剣に恋愛しようとしてるんだもんな! ロリコン発言は撤回させてもらうわ!」

「そこはありがたい。ロリなんてあだ名になったら、クラスで生きていけないとこだったよ」


そんなことを話しながら、空の作ったお弁当を完食した。空、いつもありがとう。



放課後の部活でもあいつは絡んでこなかったが、対決するタイミングでは念入りに心をおるため、全力で戦った。この前以上に手応えがなく、目もなんだか生気が抜けたような目をしているが、気は抜かない。こいつだけは絶対に許せないから。



そして部活が終わると、また空が待っていた。


「やぁ空。一緒に帰る?」

「うん、私も……勝負するから!」


クラスでは一緒にいるようなことはなくなってしまったし、行きは海に譲っているから、帰りはせめて。というところだろうか。


「じゃあ帰ろっか」

「うん!」


恋人の距離ではないけど、今日は隣同士で歩いた。


「そういえば、お弁当ありがとね。美味しかったよ」

「ううん、気にしないで! 私がやりたくてやってることだから!」


空は本当にいい子だ。俺のために勉強をしてご飯まで作ってくれている。


「クラスでは問題ない? もし、いじめとかになったらちゃんと教えてね。俺も空を守りたいから」

「大丈夫だよ、今のところ過激なことはされてないから。まぁ無視とかはされちゃうけど……それも自分の責任だから。ちゃんと受け入れる」


……それだけのことをやってしまったから、仕方ないとはいえ無視される空を考えると切なくなる。なんとか皆に許してもらえるといいんだが……


「だからちぃは気にしないでね。それに今は、海のことも考えないとね! 私も頑張るから!」


それはそうだ。海にも、空にも向き合うって決めたんだ。どっちかばかりじゃ不公平になってしまう。


「そうだけど、空も大事な幼馴染なんだから。二人とも、俺がちゃんと守るよ」


そう言うと空は顔を赤らめていた。



「あ、あと親に説明するの、今週末のいつものバーベキュー会の時に言うよ!ここならみんなに一緒に説明できるし」

「そういえばそろそろそんな時期か、わかった。俺も心しておくよ」


うちと空の家は、年に数回一緒に食事会をやっている。お互いの庭がくっついているので、バーベキューもよくやる。そういえば今週だった。


「海にも伝えておくけど、気まずくなっちゃいそうだから最後に話そうかな。私はそのままお説教されると思うけど……」

「まぁそこは仕方ないな、俺もフォローはするようにするよ」

「うんありがとう。でもちゃんと怒られるのが私のけじめだから。そこはいいからね」

「わかった」


そんな話をしながら、家の前まで来た。家の前では、海が待っていた。


「あ、ちぃにいお姉ちゃん!おかえりー!」

「うんただいま」「海、ただいま」


そういうとぷくーっと顔を膨らませながら、海は言ってきた。


「もう遅いよー! お姉ちゃんと帰宅デートで遅くなったんでしょ! イチャイチャしてたんじゃないの?」

「ち……違うわよ! 普通よ普通! 普通に帰ってきただけ!」


空が慌てて否定している。


「まぁ勝負するって決めたからいいけど!で、ちぃにいの写真ちょうだい?」

「写真?」

「うん、今日友達にスマホ買ってもらったって言ったら、待受とかには好きな人の写真とか使うんだよって教えてもらって!」


なるほど。まぁそこに関しては人それぞれだと思うが、海が俺の写真を使いたいというならいいだろう。


「あぁうんいいよ。じゃあ今撮る?あとで俺が自撮りして送ってもいいけど」

「ふふーん! そこは考えがあります! 二人で一緒に撮ろっ!」


なるほどツーショットか。ますます照れくさいがこれくらいは受け入れるぞ。


「じゃあ暗いから……うちの玄関でいい?」

「うん!じゃあ行こー!」


そう言って俺の家に付いてきた。なぜか空も。


「じゃあ内カメにしてー……ほらちぃにい、もっと寄って!」

「あ、あぁ……」


こんなこと空ともしたことなかったけど、結構恥ずかしいものだな。


「じゃあ撮るよー!連写にして、よく撮れたやつを壁紙にしちゃえ!」


そうして撮った写真を確認するが、納得いってなさそうだった。


「うーんちぃにいの表情が硬いなぁ。もっかい撮るよ!」


海のこだわりは深そうだ。長丁場になるかも知れない。


「はいチーズ!……えいっ!」


そういうと海はほっぺたをくっつけてきた。これは流石に恥ずかしすぎる。


「えへっ! ちぃにいちょっとびっくりした顔になってる!でもいいかも、可愛い感じ! これにしよー!」


海巨匠は満足してくれたようだ。やっと終わる……と思っていたら空も身を乗り出してきた。


「……私もいいかな?」


空、お前まで……もう好きにしてくれ。


「えーお姉ちゃん、これ私の作戦だよー! ずるい!」

「私だって、今のかっこよくなったちぃの写真ないもん! それにツーショット撮ったことなんてないから、私も欲しい!」

「ふーん。じゃあお兄ちゃんの初めて、私がもらっちゃったんだね! 嬉しいな!」

「言い方! とにかく、写真は撮るわよ!」


そう言って空とも写真を撮った。流石に海ほどの積極性はなかったので、ある程度の距離感での写真になった。


「ふふっ、ちぃの写真……ふふっ……」

「お姉ちゃん不気味ー! じゃあちぃにい、ありがとうね! あとでこの写真送っておくから、待受にしてもいいよ!」

「わ……私のも送っておくから! ちゃんと保存しておいてね!」


そう言って涼木姉妹は帰っていった。うん、最後にドッと疲れた。ご飯を食べて寝よう。挨拶もまだ出来てなかったのでリビングにいくと母さんがニヤニヤしてた。


「おかえりちぃ、帰ってきて早々いちゃついてるなんて、いい身分ね」

「ただいま母さん、別にいちゃついては……」

「でも空ちゃんだけじゃなくて、海ちゃんまで一緒なんて珍しいわね?」


母さんの疑問に答えるのは、週末の時でいいだろう。もう今日は疲れた。

でも、こんな心地の良い疲れなら、毎日でもいいな、とか思っていた。





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ほんとにすみません…ちょっと別の作業やろっ!ってなって1週間くらいで出来ると思ったんですけどこんな空いちゃいました…でも終わったのでまたちょこちょこ更新していきます!

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