第15話私の戦いを始める(海視点

今日は少し早く帰れたので、ちぃにいを待たずに家に帰った。

あんまりしつこく待っててもめんどくさい女の子って思われちゃう。

ちぃにいに嫌われたもう生きていけない。ちぃにいの恋人になれてなかったら耐えられていたかも知れない。でも、もう知ってしまった。甘美な時間を。


早く帰ってきたらお母さんが、スマホを買いに行こうと言ってくれた。

スマホを購入し帰ってきた頃にはお姉ちゃんも帰ってきてて、ちぃにいもそろそろという時間だった。

私は朝もらった番号とアドレスを真っ先に登録した。これでちぃにいが一番!私の一番はちぃにいだよ……

でもたぶん、今のちぃにいの一番は私じゃない気がする。たぶん、まだお姉ちゃんだと思う。

昨日お姉ちゃんと別れた理由を聞いた。それを聞いた時、私は覚悟した。

すでにちぃにいは許していて、お姉ちゃんも反省している。きっとこの二人は、時間がたてば仲直りし、また元に戻る気がする。そこに私は邪魔な存在なんだと思う。


でも!私にだって初恋だ!


初恋を自覚した時にはもう遅く、ずっと隠し続けて二人を見守ってきた。二人の仲のいい姿を見るたびに傷ついてきた。それでも、二人の仲を裂くことも出来ず応援し続けた。

でも二人は別れた。私は、私の想いをちぃにいにぶつけて、恋人になれた。

卑怯だったと思う。弱った心のちぃにいに、断りにくい言葉で告白した。優しいちぃにいならきっと受け入れてくれる、そんな打算が心の底にあったのかも知れない。

そしてちぃにいは受け入れてくれた。こんなに幸せなことはない。今まで眺めているだけだった、ちぃにいの隣を手に入れたんだ。ずっと欲しくて、焦がれて、でも諦めていた場所を手に入れられたんだ。

だから私は、何が何でも手放したくない。守り抜く。ちぃにいに別れようと言われても泣いて縋る。泣くなんてこれまた卑怯かも知れないけど、私に出来ることをすべて使って別れを免れようとするだろう。

もうあの頃には戻れない。ただ見ているだけの頃には。ちぃにいの隣にいる幸せを知ってしまった私には。



ちぃにいの部屋の電気が付いたのを確認して、電話をかけた。知らない番号だろうけど、すぐにでてくれた。


「もしもし……」

「あ、ちぃにい! 私だよ、海だよ!」

「あぁ、海か。じゃあ、スマホもう買ってもらったんだね」

「うん、さっき買いにいったんだ! それで、最初はちぃにいに電話かけたくて」

「そうなのか、じゃあ少し話でもしよっか」

「うん! あ、今日学校でね……」


そういってしばらく今日の出来事などを聞いてもらった。


「ねぇちぃにい、ちょっとだけ顔みたいかも。窓から顔出せる?」

「うん大丈夫だよ、ちょっとまってね」


そういって少しすると窓が開いてちぃにいが顔を見せてくれた。

声が届くくらいには近いが、もう夜だ。あんまり大きい声は出せない。そのまま電話で喋った。


「こんばんわ、海。顔がみたいなんて、寂しくなっちゃった?」

「こんばんわ、ちぃにい! 寂しくなくても、私はいつでもちぃにいを見ていたいの!」


そういうといつもの優しい笑顔になった。あぁ……本当に好き。大好き。


「じゃあ海が飽きるまで、顔を合わせながら電話してよっか」

「それじゃあ一生このままだよ! ちゃんと時間制限つけてー!」

「うーん、それならあと30分くらいかな?海のスマホの料金が高いと、すぐ没収されちゃうかもだしね」

「没収はやだぁ!次はアプリの通話にしようね!それなら、ちぃにいとずっと喋っていられるもん!」


ちょっとあざとくお願いする。私があざとくするもの、ちぃにいにだけなんだよ……

ちぃにいに好かれるなら、どんな女の子にもなってみせる。ちぃにいはどんな女の子が好みなのかな? やっぱりお姉ちゃんみたいな感じかな?

顔は姉妹だから似てると思う、イケる。おっぱいは……お姉ちゃんは結構大きいけど、私はそこまでじゃない。でもまだ中学生だしこれから! お母さんもおっきいし、私もクラスでは大きい方だ。きっと大丈夫。

髪もお姉ちゃんみたいな感じが好きなのかな?私も部活を引退したら下ろしてみよう。ちぃにいにもらったシュシュは付けたいから、後ろを少しだけ束ねて結ぼう。

ちぃにいのためならなんでも出来る。たぶんこれが恋のパワーなんだと思う。今まで溜めに溜めたこのパワーで、全力で落としてみせる! 絶対に、お姉ちゃんより好かれてみせる!

電話をしながら色々考えていた。


「それじゃ、そろそろ終わりにしようか」


あぁ、この幸せな時間ももう終わってしまう。切なくて、ちぃにいに会いたくてしょうがない時間が始まる。

いつまでも続いて欲しいこの時間も、いつか終わりを迎えてしまうかも知れない。何もしなかったら、きっと私は負ける気がする。だったら……。

……私は、覚悟を決めてちぃにいに切り出した。


「最後に聞きたいんだけど……ちぃにいってまだお姉ちゃんのこと好きだよね?」

「それは……」


顔が見えててよかった。すごくわかりやすい。


「うん。海には不誠実だと思うけど、やっぱり空のこともまだ好きだと思う。最初は浮気されたと思って傷ついて、嫌いになりそうで。でもなれなくて。そして本心を聞いた今は、また好きの気持ちが大きくなってる」

「そっか……」

「でも、海を好きな気持ちも本当だ。あの告白の言葉を聞いて、本当に好きになった。これは嘘じゃない」

「うん、ありがとう」


だったらやっぱり、覚悟を決めよう。


「ちぃにい、一回私達、別れよう」

「海……」


本当は別れたくなんてない。でもこのままずるずる付き合っていても、何も変わらない。だったらここで一回壊す!

正々堂々、お姉ちゃんに勝って! 今度こそ、本当にちぃにいの気持ちを手に入れるんだ!


「それでね、私は勝負するよ! お姉ちゃんと勝負する! ちぃにいの心を、完全に私に振り向かせてみせる! 私に出来ることなら何でもやって、ちぃにいの心を独り占めするよ! もう遠慮なんてしない、絶対に勝ってみせるよ!」

「……」

「だから、これからの私を見てね! 私の全身全霊をかけて、ちぃにいを落としちゃうんだから! もう海がいないと生きていけないよーって言わせてみせる!」

「……わかった。俺も誠意を持って受け入れるよ。どっち付かずになったこの気持ちにちゃんと向き合うよ。この気持ちに整理を付けて、改めて告白するよ」

「うん! 絶対にお姉ちゃんに勝つから! ちぃにい、覚悟しておいてね!」

「あぁ、じゃあこれからもよろしくね」

「うん! 流石に遅くなっちゃったから終わりにしよっか! じゃあまたね、おやすみ!」

「おやすみ、海」

「……大好きっ!」


最後に気持ちを伝えて電話を切った。ちぃにいはびっくりした顔をしてたけど、優しい顔で笑ってくれてた。




そして、勝負をすると決めた以上、ちゃんと宣戦布告をしておこう。

私はお姉ちゃんの部屋に向かった。


「お姉ちゃんいるー?」

「いるよ、入っていいよ」


部屋に入るとお姉ちゃんは勉強をしていた。栄養士の勉強だと思う。これも元々、ちぃにいのためだ。やっぱりお姉ちゃんもちぃにいを諦めきれてないんだね。だったらやっぱり。


「スマホ買ってもらったから、ちぃにいのチャットアプリのID教えて欲しくて!」

「家族の私よりちぃが先なのね……いいけど」


ちぃにいを一番に登録してから、お姉ちゃんのも教えてもらった。


「スマホ買ったからって、遊んでばっかじゃ駄目よ?」

「みんな一緒のことー!ちゃんと真面目に使うよ!」

「ほんとかな?毎日ちぃに通話とかかけちゃうんじゃない?」


う……それはやりそうだけど……迷惑にならない程度にはしよう。

そんな雑談をしていたが、私は意を決して切り出した。


「お姉ちゃんさぁ……まだちぃにいのこと諦められないよね?」

「それは……ごめんなさい。海と恋人になったことはわかってるんだけど……まだ想いはある」

「お姉ちゃんはいつか、時間がたったら諦められると思う?」

「……」

「そうだよね、無理だよね。だったらね……勝負しよう!」

「勝負……?」


お姉ちゃんは私が何を言ってるのか理解できてなさそうだった。


「今さっき、ちぃにいと別れたんだ」

「それはっ! ……ごめんなさい、私のせいよね……」

「まぁお姉ちゃんのせいというか、ちぃにいのせいというか」


お姉ちゃんはよくわからないらしく、首を傾げていた。


「たぶん、まだちぃにいの中にもお姉ちゃんへの気持ちが残ってる。でも私が告白しちゃって、それを受け入れちゃったから迷ってると思うんだ。でも私は、ちぃにいの一番になりたいの! だから、勝負するの! お姉ちゃんに勝って、改めてちゃんと恋人になってみせる!」

「海……」

「だからお姉ちゃんも諦めないで勝負しよう! 勝っても負けても恨みっこなしだよ!」

「でも私は……ちぃに取り返しの付かないことを……」

「ちぃにいはもう許してくれたんでしょ? だったら後悔はもう終わり! これからは正々堂々戦おう! 私ももう負けないよ!」

「……ありがとう、海。こんな私にもチャンスをくれて……」

「私は自分のためにやってるだけ! ちぃにいの心を私でいっぱいにして、本当の恋人になるために!」


お姉ちゃんへの想いを、私の想いに変えさせてみせる。絶対に!


「でも、まだ流石に罪悪感があるから……いきなりはちょっと気まずいかな」

「そんなことしてたら私がもらっちゃうからね! ちぃにいが本気で私を好きになって、後悔しても遅いからね!」

「くっ……わかった。今の私に出来る範囲で頑張る!」

「うん! じゃあこれからはライバルだけど、よろしくね!」

「ええ、よろしく海。負けないわ」

「こっちこそ!」


そういって部屋からでた。


たぶんこれは余計なことをしたんだろう。自分の負け筋を広げる形だ。

でも、私はちぃにいに一番に愛されたい。だったら戦うしかなかった。ちゃんと勝って、独り占めするんだ。


もう戻れない。私は絶対に勝ってみせる!






次の日の朝、お姉ちゃんはちぃにいと付き合ってた頃と同じ時間に起きてお弁当を作っていた。

なんだかんだ言って、ちゃんと勝負は仕掛けてきている。なら私も、気を引き締めよう。


昨日承認されてたちぃにいのチャットアプリに連絡を入れ、今日の朝も一緒に行く。私の戦いをはじめよう。

少し早く家をでて、ちぃにいの家の前で待ってると時間ぴったりに、大好きな人が顔を見せた。




「おはようちぃにい!今日もかっこいいよ、大好き!!」



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