第12話そしてメンタル弱男へ(名鳥視点
俺はショックで日中の記憶がなかった。
まさか、俺の自信の源が急になくなるなんて……。
だけどそんなこと言ってる場合じゃない。もう大会まで3ヶ月しかないんだ。とにかく、まずはポジションだ。キャッチャーが出来なかったら試合にも出れない。
癪だが、あいつに頼むしかないだろう。あいつはエースだ。あいつがキャッチャーは俺が良いって言ってくれれば、まだチャンスはある。涼木の件も謝ろう。
そう思い、ウォーミングアップ中のあいつに話しかけた。
「なぁ、千尋。お願いがあるんだけどさ……」
「……は?」
なんだ、昨日以上に機嫌が悪くなっている。
「お前さぁ、よく俺に話しかけられるな」
「え…?」
「自分が何やったのか、わかんない?」
「それは……すまん、悪かった!悪気はなかったんだ!ただ涼木さんが魅力的で……我慢出来なかったんだ!」
とりあえず、なんとか誤魔化すしかないだろう。まだきっと、どうにかなるはずだ。
「もう空には全部聞いてるんだよ。悪気はなかった?悪気しかないだろ!」
「それは……」
「なぁ、もう学校辞めてくれよ?俺等の前からさ、消えてくれ。お前がいるってだけで、空が悲しむ」
「な……なんでそこまで!」
こんなところで退学なんて出来るか!俺はプロになるんだ。プロになって、栄光の道を突き進むんだ!
怒り狂ってるあいつに腕を掴まれ、人気のないところに連れて行かれた。
「全部脅しだったんだろ?そんなクズが、のうのうと居ていい場所じゃないんだわ。クラスも、ここも」
「……」
「あと、脅しの時に動画を撮ってたとか言ってたらしいな。おい、すぐ消せ」
「……あれは嘘だ、言う事を聞かせるために適当言っただけだ」
「お前の言葉を、俺が信じられると思うか?今からお前の家にいってお前の両親に話してもいいんだぞ?」
「本当だ!信じてくれ!俺だってプロ志望だ、今のプロ選手が少しの不祥事だけでもクビになることは知ってる!だから、悪事の証拠を残すようなことはしていない!」
信じてもらうために必死に訴えた。親はまずい、こんなことがバレたら勘当される。
「まぁもし、空の動画なんかが流出したら、俺は絶対お前を許さない。お前がどこに逃げようが絶対殺す。警察に捕まっても、出てくるまでまって殺す。いいな?」
「あ、あぁ……」
こいつは本気だ。目がマジすぎる……俺は虎の尾を踏んでしまったのかも知れない。
「動画がないなら、あとはお前がいなくなってくれれば安心だよ。だからさ?」
「……頼む、もう涼木さんにもお前にも迷惑かけないから!もう誰にも迷惑をかけないように過ごすから!」
俺は必死に頭を下げ、懇願する。
「お前がいるってだけで俺たちは迷惑なんだよ」
「許してくれ!あと少しで、プロまで後少しなんだ!頼むっ!」
少し思案顔を浮かべたあと、あいつは笑って答えた。
「わかった。じゃあ、俺が練習に付き合ってやるよ?プロになりたいんだろ、俺の球打つのなんていい練習だろ?」
「あ……あぁ!ありがとう!」
よかった、とりあえずは許されたみたいだ。キャッチャーの件は、もう少し信頼を取り戻してからお願いしてみよう。
「じゃあとりあえず練習に行くか。あとで実践形式の練習の時に、俺の全力の球投げてやるよ」
「あぁわかった!」
そうして俺等は、練習に戻った。この後、俺の考えなんて甘いと思わされるとは知らずに。
練習も中盤まできて、実践練習の時が来た。
ピッチャーはもちろんあいつだ。うちの二番手だと、どうしても格が落ちる。割ときつい、うちの学校の弱点だ。
「よーし藍川、投げてくれ。野手も、対戦相手のエースはこんなもんだぞ!しっかり打っていけ!」
監督の声かけではじまった。そして俺は、絶望した。
あいつの球は、今までと次元が違った。今まで俺に投げていた球はなんだったのか。本当に手を抜かれていたのか。
そしてそれを平然と受けている坂下にも、驚きを隠せなかった。まずい、このままじゃ本当にキャッチャーのポジションが取られる。
だったらせめて、打撃でいいところを見せようと考えたが甘かった。当てるだけで精一杯だった。俺は一応このチームでは4番をやっているが、その俺がいい当たりどころかまともに前にも飛ばせなかった。
俺は自信を喪失し、意気消沈しながら他の部員を見ていた。そして監督が言った。
「あー……今の藍川だと、野手の自信が無くなっちゃうな。すまん藍川、そこまででいい!クールダウンしといてくれ!」
監督が声をかけて、あいつは降板した。二番手以降なら……と意気込んでいたが、あいつは俺のほうに寄ってきて囁いた。
「これからは、俺の全力でお前をねじ伏せてやるよ。プロになるからやめたくない?だったら、その自信を粉々にする。自分から辞めたいって思わせてやるよ」
俺は身震いした。こいつは、少しも俺のことを許してなんかなかった。俺はこれから、こいつと練習するたびにこんな惨めな思いをしなきゃいけないのかと、どんどん弱気になっていった。
くそっ、こんな情けないの、俺じゃねぇ!今まで溢れていた自信が段々と失われていく。
そして俺は、見下してた二番手ピッチャーの後輩からもまったく打てず、憂鬱な気持ちで部活を終えるのだった。
なんとか自信を取り戻そうと、やはり原因は昨日の件だと思い、同じセフレに連絡をした。だが、返ってきた言葉は断りだった。
「あーどうせ勃たないっしょ?だったら会う意味もないでしょ、パス」
なんてやつだ、俺のピンチだっていうのに!なんて自分のことを棚にあげたことを考えていた。自分も、便利なセフレとして扱ってきていたのに。
こうなったら別のやつで……と他のセフレに声をかけたが、その日は珍しく誰も捕まらなかった。だが最後の一人でやっといい反応をもらえた。
『じゃあ駅前のラブホにきて』
よし、これで俺は自信が回復できる!と意気勇んでいた。今日も駄目なら1回病院に言ってみよう。玉に球が当たった時に何か怪我をしているのかも。とか考えながらホテルに向かった。いざ部屋に入ったらセフレの女と、知らない男がいた。
「お……おい、誰だよその男は……」
俺も身長は180cmはあるのだが、それ以上にでかくガタイのいい男が、機嫌悪そうにこちらを見ていた。
「ごめーん彼氏に浮気バレちゃった!」
なんだそれ!というか彼氏がいたことなんて聞いてなかったぞ、こうなったら謝るしかないだろう。
「すみません、彼氏がいるなんて知らなくて……」
「知らなくてで、人の女に手出してんじゃねーよ!!」
そういうとその男は腹を殴ってきた。
痛い……あまりの痛みにうずくまる。
「あーそいつ、一応高校生だから。顔とかは勘弁してやってね」
ふざけんな!そもそもお前が……!と思いはするが、痛みで声が出せない。
その後も2発程殴られ、涙目で訴える。
「ほんとに……知らなくて……すみません許してください……」
「お前よぉ……セフレが何人もいるとか調子乗ってたらしいな?ガキのくせにそんなことやってっから、こんなことになるんだろうが!」
そう言って背中を蹴られ、ホテルの床に転がされた。痛みで起き上がれない。
「そもそも……その女が悪いんじゃ……」
「あーこいつはこれが初めてじゃねーからな、あとでたっぷりお仕置きしてやるよ」
そう言うと女は顔を赤らめてた。ちくしょう、こいつらのプレイに巻きこまれただけかよ!
「わかったら反省してさっさと帰りな。一応俺たちは婚約してるってことだからよ、もし誰かに喋ったら、そっちに慰謝料の請求が行くからな!」
よかった、なんとか逃げられそうだと姿を確認すると、もうイチャつき出していた。クソ、バカにしやがって!
痛みを堪えてホテルを出て駅前のベンチに座っていると、ひたすら情けなくなってきた。クラスでもハブられ、自信のあったアレは勃たず、部活でも散々、終いにはこれだ。
こうなったら警察に!とも思ったが、警察を頼って不味くなるのは自分も一緒だった。もう頼れるものもない。
すべてが空回りを始めた。たった一つのほころびから、すべてを失っていく。だがそれも自業自得、因果応報と言われたらそれまでだ。
そうして俺は、少し前まであった日常を懐かしく思いつつ、一人寂しく涙を流していた……。
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前回の12話は消してすみませんでした。自分でもなんか主人公が嫌な奴になっちゃって微妙だなぁと思ってたんですがコメントをみてやっぱり変えよう!となりました。よくなった気はします!暴力枠は別の人にやってもらうことで事なきを得ました!
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