第11話メンタル強男は決意する

俺は、空の話を聞いて言葉が出なかった。



俺がスランプに陥ってる時に空がそんな状況になっていたなんて……。自分のことで頭がいっぱいで、空のことを気にかけてあげられなかった。

一番悔しいのはここだ。空は昔から隠し事が上手だった。小学校の頃も遠足を休みたくなくて、体調不良を隠して参加して、遠足先でダウンしてしまった。

その時も、俺が一人ぼっちになってしまうのが心配だった、ただそれだけのために無茶をした。

今回もそうだ。たしかに、俺にはひどいことをしたという結果になったが、元をたどれば全部俺のため。

いつも自主練にも付き合ってくれて、怪我や体調不良などもないようにしっかり管理もしてくれていた。空はこんなに、俺のために尽くしてくれてたのに、俺はその空の変化一つにも気付けなかった。

これで恋人だっていうんだ。中学で付き合うまではいつも、俺のことを弟のように世話してくれていた。それが空の告白から恋人になって。

でもまったく変わってなかったんだ。俺はずっと、ただ甘えていただけなんだ。

そういう恋人の形もあると思う。でも俺は、空に告白された時に、これで対等になるんだと思っていた。でも結局こんなことになった。あの頃からずっと、俺は守られてるだけだった。

空があいつと浮気していたというのもそれは悔しい。でも、そんなことが頭から抜けてしまうくらいには、ただただ自分が情けなくなった。


「空の話はわかった……。まずは謝らせてくれ。申し訳なかった、不甲斐ない彼氏で」

「違うっ!ちぃは悪くない、私が勝手にやっただけ!」

「いや、そこは譲らない。俺があんなんじゃなければ、絶対に起こらない出来事だった。空はたしかに昔から、たまに抜けてるところはあったけど、あんなことを自分からする様な女の子じゃないことは知っている」


空が悲痛な顔をする。


「でも空がやったことは世間的には褒められたものじゃない、自分を犠牲にする行動だ。これからは絶対にやめてほしい」

「うん……ごめん……」

「その上で一番悪かったこと、それは。……俺に相談してくれなかったことだ」

「……」


俺はそのまま言葉を続ける。


「俺はたしかに頼りなかった。弱気で、メンタルも弱くて。でも俺は!空の彼氏だ!だったら……相談してほしかった。あいつが俺の球を受けない?そんなこと、別にどうとでもなる。なんなら今は後輩が俺の球を捕ってくれてるし。あいつに体を要求された?たしかに俺は弱気だけど、流石に彼女のピンチなんて事態だったら、ちゃんと反論できる、戦える」

「……」

「でも空は、俺に相談することもなく自分で全部決めてしまった。浮気されてたとか、冤罪をかけられたとか、そんなことよりそれが一番悲しいんだ……」

「ちぃ……ごめん……」

「謝らないでくれ。それは、たとえ相談なんてされなくても、恋人だったなら自分で気づかなくちゃいけないことでもあったんだと思う。それに気付けなかった時点で、俺も同罪だ」

「私もここは譲れない。絶対に、今回のことに、ちぃの落ち度はない。ここだけは!」


そういう空は強い目をしている。あぁ……いつもの空だ。たしかに、最近の空は違った。今ならわかる、でももう遅かった……。


「空のその強い目が好きなんだ……。そしてその目をする時はきっと……俺を守ってくれてた時だったんだって……今ならわかる。俺が好きな空は、いつも俺のことを守ってくれてたんだって……。でも、それは本当に恋人と言えるのかな?」

「え……?」

「一方的に守られて、一方的に甘えて。そんな対等じゃないの、俺は恋人とは言えないと思う」

「……」


空は唇を噛みしめ堪えている。


「たぶん……最初から間違ってたんだと思う。中2で空に告白されて、嬉しくて、恋人になって。でも、結局子供だった。そしてその子供の恋愛のまま、進んでしまった。だからこんな、歪んだ関係になってしまったんだと思う。だから俺は……改めて、文字なんかじゃない。面と向かって、目を見ながら言葉にするよ」


空は下を向いたまま、こっちを見てくれない。空もわかっているんだろう。終わりが近いことを。


1分程、俯いたままだったが、覚悟を決めてくれたのか、空が顔をあげた。その目は、とても強い目をしている。



「空……別れよう」

「……はい」


空も頷いてくれた。これで、これで終わったのか。5年ほど、だけど5年だ。俺たち子供には十分長い。

その俺たちの5年も今日終わる。そして、新しい時が始まるんだ。


「俺たち、また幼馴染に戻ろう」

「え……?」

「幼馴染って言っても、今までとは違う。今度は、俺も空を守るよ。空のピンチには絶対に駆けつける。今度は、絶対に気づく。そして俺のピンチは、きっといつもの、俺の大好きな、強い目をした空が助けてくれるんだ。そういう、対等な関係になろう」


別れの言葉を聞いても涙を流さなかった空がここで泣いてしまった。


「でも……私は……ちぃに……ひどいこと……」

「もういいんだ。浮気を見つけた時だって、悔しかったけど空がそれで幸せになれるなら、別によかったんだ。冤罪をかけたれた時だって、怒っていたのは間違ったことをしているというところにだ。空本人には、別に怒ってないよ」

「ヒック……」

「間違ったことをやってる幼馴染を正すのも、これからは俺もやる。空が道を踏み外したら、俺は絶対にそれを止める。だから、空も変わらず、俺を守って欲しい」


言いたいことはいえた気がする。今までは言葉に出来てなかった。だから、これからはやるんだ。二人で。


「私は……まだちぃの……そばにいていいの……?」

「うん、むしろ離れるなんて行ったら追いかけるよ」

「高校を卒業したら……離れるって……」

「あぁごめん、あれは言い過ぎだったね。でも、浮気されてたと思ってたんだから、少しくらいの意趣返しはね」

「ちぃのこと……また応援していいの……?」

「むしろ空の応援がないと、俺がやっていけないよ。お昼ごはん一つとっても、今四苦八苦してるのに」


そういうと、空はまた泣き出してしまった。


「ちぃと……いていいんだ……そのことが……一番嬉しい……」

「うん、ずっと一緒にいよう。幼馴染として」

「うん……うん……っ」


空き教室の片隅で、俺は空が泣き止むのを待った。その間は、外の喧騒と空の鼻をすする音だけが響いていたが、存外心地よかった。

そして再度、空が泣き止むと赤らめた目をあげて、答えた。


「ちぃ……ありがとう。許してくれて」

「もういいって」


空は少しスッキリしたような顔で、でもどこか寂しそうではあった。

絶縁は免れたが、恋人としては終わった。それを理解しているのだろう。


だから、海と付き合うことになったこともちゃんと報告しておこう。別れたばかりで気まずいが、幼馴染にはちゃんと知っていてほしいから。


「あと、俺さ……昨日から、海と付き合うことになったんだ」


空はそれを悲しそうな顔で……あれそんなことないや。なんとも言えない表情をしてる。


「…うん、ごめん。それは知ってるんだ」

「えっ!?」


なぜ?昨日の今日の出来事だぞ?海が話したのか?


「本当にごめんなさい。昨日、放課後ちぃのこと付けてた」

「なぜ!?」

「もう遠くから見ることしか出来ないと思って……だからせめて見守ろうって……」


それのほうが怖いわ!空はストーカーの気質があるのか……?もし、また間違えそうになったら、今度はちゃんと俺が正さないとな。


「で、その時に海の告白を見ちゃって……。ごめんなさい、見るつもりはなかったの。で、その告白を聞いて、あぁ、海になら、ちぃを任せられるなって……。これならもう私がいなくてもちぃは心配いらないなって」

「今の俺には海がいるけど、空だって大事な幼馴染だよ。そしてそれは海にだってそうだ。大事なお姉ちゃんなんだから。一緒に支えてあげよう」

「うん、ありがとう。今回の話、ちゃんと海にもするね。あとお母さん達にも」

「あぁ、それはお願いするわ。流石に、空と別れていきなり海と付き合います!っていうのも気がひけてて……」

「乗り換えっぽく見えちゃうもんね。大丈夫、ちゃんと私が悪くて、ちぃと別れたって伝える」

「わざわざ言わなくても……」

「ううん、ちゃんと言う。言って、けじめをつける。けじめを付けないと、堂々とちぃの幼馴染に戻れない。私は、ちぃの幼馴染に戻るために、ちゃんと色々なことにけじめを付けるんだ」

「……そっか」


子供の頃からお姉ちゃんぶってて、恋人になってもいつも引っ張ってくれて。時々本当にバカなことをしてしまうけど、かっこいい、大好きな空だ。


「クラスの皆にもちゃんと謝るよ、あんなバカなことに巻き込んでしまってすみませんでしたって。それで許されるとは思ってないけど、これもけじめ。まだ私なんかと親友でいてくれるっていう、こころちゃんのことも守らないと!」

「そうだね」


うん、本当にかっこいいな、空は。

なんて思っていたら、空が思い出したように口にした。


「あ、そうだ。そういえばちぃ、前髪少しあげるようにしたんだね?」

「あぁこないだ、なんか邪魔だなって思って」


するとジトーっとした目でこちらを見ながら


「ちぃ、それかっこいいから気をつけなね。あのこころちゃんと言い合ってた時、目があったらこころちゃんちょっと見とれてたよ!」

「えっ!?」

「やっぱ気付いてなかったんだ。ちぃ、ちょっと変わって、目を見ながら喋るようになったからね。それもいきなりこころちゃん呼びだったし、あれじゃ勘違いさせちゃうよ!」

「なるほど、気をつけるよ」

「うん、海を悲しませたら承知しないんだからね!」


うん、海に心配をかけるわけにはいかないからな…色々気をつけよう。


「……いつも目を見て喋られるの、私の特権だったんだけどなぁ……」


空は小さな声で、悲しそうに言っていた。俺は、聞こえてないふりをしといた。


「じゃあそろそろ昼休みも終わるし戻ろうか」


そう声をかけると元気に頷いた。


「とりあえず、クラスで謝罪するまでは、私に関わらないでね。ちゃんと全部にけじめをつけて、それから幼馴染に戻るから!」

「あぁわかった。でも家のほうで関わる用事ができたらそれは普通によろしくな」

「うん!じゃあまたね!」


そう言って先に教室に戻っていった。昼ごはんを食べる時間はなくなちゃったけど、良い時間を過ごせた。



教室に戻ると、涙目だが嬉しそうなこころちゃんが空に寄り添っていた。






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明るい後悔もいいよね

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