閑話幸せしかなかった頃(空視点

私には恋人がいる。

生まれた時から一緒にいる幼馴染の男の子、藍川 千尋だ。


家が隣同士ということもあり、幼稚園、小学校、中学校と全部一緒だった。

そんないつも隣にいるのが当たり前になっていたちぃだったけど、小学校に入るくらいの時に突然内気な少年になっていた。

小学校に上がってクラスメイトとかに話かけるのが恥ずかしくなって内気になっちゃったのかなーくらいに思っていたんだけど、その性格は歳を取るごとに悪化していった。

小学校高学年の頃にはもう内気を通り越してコミュ障だった。私は心配したけど今は自分がいるから守れるし大丈夫か!くらいの気持ちだった。


そして中学校に上がってからは部活が強制になり、ちぃはお互いの親が大好きな野球をやることにしたようだ。

内気だけど運動神経はすごくいいから心配はしてなかったんだけど、2ヶ月もする頃には1年生ながら試合でも投げるようなすごい選手になっていた。

そういえば野球経験者であるちぃパパとよく外でキャッチボールとかしてたけど、まさかそんな才能があったなんて知らなかった。

小学生の時から野球始めてたらもっとすごかったんじゃない?と聞いてみたところ、『空ちゃんと一緒にいるほうが楽しい。』と返ってきて嬉しかった。

そんな私達が2年生になった時に事件が起きた。


クラスの女子がちぃの話をしていたのだ。それも、


「この間藍川君の顔がちらっと見えたんだけど結構イケメンだったよ!」とか。

「藍川君2年生なのにもう野球部でエースになるかも知れないって話だよ!」とか。


もしかしなくてもちぃがモテてきてる?

たしかにちぃは小学校高学年くらいから髪が伸びて前髪が少し長い。

さらに内気の性格のせいか、いつも少し下を向き気味でそのせいもあって目元はよく見えない。

でも私と二人きりで喋る時は普通に上を向いて喋るから自分としては見慣れた顔だ。


そんなちぃがイケメン…しかも野球部のエース…

これはちぃに恋人が出来るのも時間の問題かなーとか思っていたら早速ちぃが告白されている場面を見かけてしまった。



「藍川君!好きです!付き合ってください!」

「…ごめんなさい。僕はまだ恋愛とかそういうの、わからないんだ。」



ちぃが本当に告白されてるところをみてびっくりしてしまった。

そして内気なちぃもちゃんとどもったりせずしっかり受け答えをしていて感動していた。

もうあの頃のコミュ障も影を潜めており、中1から同じクラスで同じ野球部の名鳥君とも親友と呼べる間柄にまでなっていた。


可愛い弟が育っててくれてお姉ちゃん嬉しい…なんて思ってもいたがちぃの断り文句を思い出して。

ちぃはまだ好きな人とかいないんだ…でもそのうち恋に芽生えて、恋人ができたりしたら私に紹介とかされるのかな?とか考えていたら胸の奥がモヤモヤしだした。

最初は弟に恋人ができたお姉ちゃんの気持ちなのかな?とか思っていたんだけど、考えれば考えるほどモヤモヤした。

逆にちぃに恋人が出来てその相手が自分だったり…なんてことを考えたら胸がキュンキュンしだした。

もしかして私はちぃのことが異性として好き?という発想になったが、今まで男の子を好きになったことがなく、いくら考えてみてもわからなかったので、恥ずかしいけどお母さんに相談してみた。


「ちぃくんが好きかも?え?今更?バカ?」


これがお母さんの反応だった。


「だって二人幼稚園の頃に結婚するーって言ってたじゃない。その時のちぃくんの眼は子供なのに本気な眼だったわよ。たぶんちぃくんは今でもあなたのことが好きよ!大丈夫自信持ちなさい!」


私はお母さんの言葉を受けて夜、真剣に考えてみた。ちぃのことは好きだけど家族の好きだと思っていた。でもちぃに他の恋人ができると思うとモヤモヤする。

逆に自分が彼女になると考えると体がポカポカしてくる。


あぁ、これが恋なんだ。私は恋人になりたい的な意味でちぃが好きなんだ。


そこからの私の行動は早かった。

次の日にすぐちぃを校舎裏に呼び出した。


「手紙の差出人って空ちゃんだったの?どうしたのわざわざ呼び出したりして。クラスは違うけど家が隣なんだから呼んでくれたらすぐ行くのに。」

「ごめんね回りくどくって…でもちぃにどうしても伝えたいことがあって…家とかだと踏ん切りがつかなそうで…」

「別に大丈夫だけど…で、伝えたいことって?」

「うん…そのね…私ね…ちぃが…好きなの…」

「え?うん!僕も好きだよ!空ちゃんのことは子供の頃から大好きだよ!」


くぅ…キュンキュンする…。


「うん…ありがとう…でもちょっと違う好きかも。私の好きはね…恋人になりたい好きなの!」

「僕と?空ちゃんが?恋人に?」

「そう…ちぃはもしかしたら私のことなんて家族くらいにしか思ってないのかも知れないけど、私はちぃと恋人になりたい!」


ちょっとの間、ポカンとしていたちぃだけど少しずつ顔が赤くなってきて前髪に隠れている眼がキラキラしだした。


「うん!僕も空ちゃんと恋人になりたい!空ちゃんと恋人になれるなんてすごく嬉しいよ!」


やった…やった!告白を受け入れてもらえた!


「本当に?嬉しい…じゃあこれからは私達、恋人同士ってことでいいかな?」

「うん!恋人としてこれからよろしくね!」


そうしてにっこり笑うちぃの顔を見ると自分の顔が熱くなるのがわかる。

あぁ…これが恋なんだ…そして恋人にもなれたんだ…。




そこからの生活は晴れやかだった。

朝、部活の朝練があるので二人で登校。(ちなみに私は吹奏楽部)クラスは違うけど休み時間のたびに二人で廊下で喋ったり、お昼休みも給食を食べ終えたら二人で会ったり。オープンに付き合っていたので周りにもすぐバレたけどみんな応援してくれた。

そのタイミングでちぃからの呼び名を空ちゃんから空と呼び捨てにしてもらって。空ちゃんだと幼馴染感が強かったけど、呼び捨てだと恋人感が強くて気に入った。

中学生らしい、可愛らしい恋愛もいっぱい楽しめた。たまの部活の休みの日はお互いの部屋で勉強したりイチャついたりキスしたり。

そしてそのイチャつき中にちぃママが部屋に入ってきてバレて…私の両親にもすぐ報告がいって…。

お母さんには相談してたから一緒に喜んでくれて、お父さんもちぃになら空を任せられるって。

妹の海もお姉ちゃんとちぃ兄ならお似合いだよ!って祝福してくれて。

すごく、すごく幸せな生活だった。


そして中学の卒業。

ちぃは近くの高校から野球で誘われたらしく、白砂高校に行くことに。

白砂高校なら自分も大丈夫!ということで私も普通に受験して一緒の学校にいけることになった。

私は勉強はできるけどたまにバカ、という評価だったので最後まで不安だったけど無事合格していて家族みんなで喜んだ。


ちなみに私の初体験は中学の卒業式の日。中学を卒業する時にエッチなことも卒業したい!とちぃを誘って。

ちぃも頷いてくれて、卒業式が終わって友達との別れの挨拶を交わしたあとに、二人でそのまま私の部屋に行って…。

お互いの両親は卒業式に来ていたが私の様子で勘付いたのか、4人でご飯を食べに行くから3時間くらい帰らないからねぇと…。

すごく恥ずかしかったけどありがたかった。そしてそのまま初体験を済ませた。痛かったけどすごく幸せな気持ちになった。

余談だが初体験をすませ、ちぃが親たちが帰ってくる前に帰るというので見送った後、部屋に戻ろうとした時に妹の部屋から音がした。

まずい…そういえば妹は1週間前に小学校の卒業式だったから今は家にいるんだった…。

しかし妹は小学生、エッチなことなんてわからないか…?いや今どきの小学生なんてそれくらいのことわかっちゃうか…と焦っていたが妹が部屋から出てきたので遠回しに聞いてみた。


「海いたんだ…!さっきまで私も部屋にいたんだけど、何か聞こえてたりした?」

「別に…ていうかずっと寝てたよ…さっき起きたところ。」


セーフ!!!バレてない!!!

流石に初体験を妹に聞かれるのは恥ずかしかったのでホッとしていたが、なんだか海の元気がなくて心配になった。


「なんだか元気ないけど大丈夫?体調悪い?」

「特に悪くないよ…たぶん寝起きだからじゃない?」


そういうのならそうなんだろうと納得し、自分の部屋に戻った。





高校に入ってからも、ちぃとのお付き合いは続いた。

ちぃはスポーツ推薦で入ったので部活がすごく忙しく、会える時間は確実に減っていた。

でも高校生になったので買ってもらったスマホで毎日チャットもしていたし、通話もしょっちゅうしてたのであまり寂しさは感じなかった。

というか家が隣なので寂しかったら会いに行くだけなので。


たまの休みもデートに行って、帰りはちぃの部屋に行ってエッチなことをしたり…。

あの日妹に見つかりかけたこともあって、する時はだいたいちぃの部屋になった。

ちぃパパはお仕事で結構遅くなることも多いけどちぃママは専業主婦、ほぼほぼ家にいるが私がお邪魔すると空気を察して買い物とかにでかけてくれるので安心して出来る。

だいたい月1くらいではデートに行けていたし、そもそも学校も一緒なのでいつも会えているし、全然不満なんてなかった。



でも高校2年生の冬、私はあの悪魔を頼ってしまった…。



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この回をどこにいれていいか迷ってしまったのが失敗でした、すみません。

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