第4話メンタル強男は友達もできた

HRが終わり、そのまま1時間目の授業が始まったので、クラスの皆は一旦日常に戻った。

でも俺の席から見える勇は、頭を抱えずっと下を向いている。後ろの方の席にいる空のことは確認できないが、きっと同じようなことになっていると思う。


なぜ二人は、こんな無謀な作戦に舵をきってしまったのだろう。

昨日自分が送った写真があるのに、あんなことをすれば俺が証拠をだし、自分達が糾弾されることなんて少し考えればわかるはずだ。

おそらく弱気な俺が、クラスメイトに問い詰められれば沈黙し、誤魔化しきれるという算段だったのだろうか。


たしかに、今日の俺は少し変だ。

普段なら、さっきみたいにクラスメイトからきつい視線を受け、あのように怒気をはらんで質問されたら声もあげられず、下を向いて黙り込んでしまっていただろう。

その態度を見て、浮気は真実なんだと勘違いされ、クラスでの人望は地に落ちていたのかも知れない。


でも、今日はそう行かなかった。

こころちゃんが放った言葉に怒り、反論するどころか、空を問い詰めるところまでやっていた。


本当に、どうしてしまったんだろう。今までの自分ではない感じがする。

そういえば少し前にメンタル改善方法をネットで調べている時に脳破壊というネットスラングを見かけた。

『彼女が寝取られてた!脳が壊れる!』

と言った書き込みなどもあった。


俺もまさに、彼女が寝取られていた。まさか…本当に脳が壊れている?たしかに昨日浮気を目撃した時は頭痛がひどかった。

あれが脳破壊というやつだったのだろうか。でもバカになったり、うつ症状がでているなどの感じはない。

どちらかといえば、いい変化をしている気がする。今日のような出来事にも対処できた。朝、鏡で見た自分の顔はどこか清々しかった。


もしかしたら良い方向から悪い方向になるだけじゃなく、悪い方向から良い方向になるパターンもあったのか?

だとしたらメンタルが激弱な自分が”脳破壊”されれば、メンタル最強の男になれているんじゃ?なんてオカルトチックな発想になったいた。


うーん、我ながら馬鹿馬鹿しい!そんなことがあるはずない!

空に浮気されていたショックで変なことを考えてしまっているだけだろう。でも思考は確実にポジティブになっている気がする。

今までの自分では考えられない思考なだけに、空には多少感謝しておこう。今日の出来事も、いつか許せる気がする。



そんなことを考えていたら授業が終わってしまった。やばい、全然聞いてなかった。クラスに気軽に話せる人がいなくなってしまったこのタイミングでこれはきつすぎる。




休み時間に入ると勇がいつもの運動部グループの男子3人のところに行き、話しかけていた。


「な…なぁ!今日の放課後どっか遊び行こうぜ、お前らもたまには部活でもサボって発散しよう!」


しかし誰一人として反応はしなかった。


「お…おい、聞こえなかったか…?どっか遊びに…」

「あのさぁ」


勇の言葉を遮るように、一人が反応した。


「お前、友達の彼女寝取ったんだろ?そんなやつの友達なんて続けると思うか?」

「は…?」

「だって俺、彼女いるもん。めっちゃ可愛い彼女。写真見せたことあったよな?たしかお前も可愛いとか言ってたよな。」

「あぁ…知ってるけど…」

「お前と友達なんて続けたらいつか寝取られちまうかも知れないんだろ?そんな危険、わざわざ冒したくないんだわ。」

「そんなこと!絶対にしねぇよ!」

「はっどうだか。寝取ったあげくに俺が浮気してたなんて嘘流されてみろ、たまったもんじゃねーわ。」

「それは…」


勇は黙り込んでしまった。

他の男子達も続いていく。


「マジ最悪だよな、こんなことしておいて俺等のグループにまだ入ってられると思ってんのかよ!」

「ほんとそれ。俺等まで寝取るようなやつだと思われそうでいやだわ!」

「なっ。俺マジで気になってる子、このクラスにいるのに。その子に勘違いとかされたら生きていけねぇよ!」


背が一番高い男が、気になってる子がクラスにいるって言った瞬間、何人かの女子がモジモジしだしたぞ…モテ男かよ。


「ってなわけでさ、ねとり。あ、違った名鳥。そういうことだからさ。お前は新しい友達でも探せよな!」

「まぁこのクラスじゃもう無理かも知んないけど!他のクラスならまだこの情報も伝わってないだろうから急いだほうがいいぞ!」

「そんなことよりさっき気になる女子がいるとか言ってたよな?誰だよ教えろよー!」


もう話題も変えられて、勇は一人寂しく自分の席に戻っていった。哀れ。


すると自分の席の前に女の子がきた。こころちゃんだ。


「藍川君…さっきはごめんなさい。藍川君の話も聞かずに声を荒げちゃって…」


申し訳なさそうに頭を下げられている。


「いや、別に気にしてないよ。結果的に俺の無罪も信じてもらえたみたいだし。なんならこころちゃんが声をかけてこなかったら未だに俺はクラス内で針のむしろ状態だったかも知れないし。」

「うん、そう言ってもらえると救われるわ。あと…その…。」

「ん?まだなにかある?」

「その…なんで急に…こころちゃんって…名前で呼ぶようになったのかなって…」


なんかモジモジしながら質問してきた。


「あぁごめんね、こころちゃんの名字思い出せなくてさ。空がこころちゃんって呼んでたなぁって思って。」


俺の答えを聞いて机をバンと叩いた。


「はぁ!?名字忘れただけ!?なによ!急に男子に名前で呼ばれてドキドキしてた私の気持ちを返してよ!」

「えぇ…その…ごめんなさい…」

「なんだか今日の藍川君は髪型も決まっててかっこよくて…話してる時も眼をしっかり見てくるから…なんかドキドキしてたのに!そんな理由だなんて!」

「えっと…ありがとう?」

「褒めたけど!そこじゃない!」


プリプリ怒っててなんか可愛い。


「はぁ…もういいわ。冬野ふゆのよ、冬野こころ!もう忘れないでよね!」

「うん、もう忘れないよ、ありがとうこころちゃん。」

「結局こころちゃん呼びじゃない!別にいいけど!」

「だってさみんな!こころちゃんは名前で呼んでほしいって!」


こっちを気にしていた野次馬根性丸出しのクラスメイトにも呼びかけておく。


おーわかったーこころちゃん

こころちゃんよろしくね


そんな声が聞こえてきた。うん、クラスの雰囲気は悪くなってはなさそうだ。

こころちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしていた。



「ははっ、藍川って結構面白いやつだったんだな!」


先程のモテ男が話しかけてきた。おのれモテ男。


「そう?自分じゃよくわからないな。」

「さっきまでの会話とか、結構聞いてて面白かったぜ!今まで喋ったことなかったけど、せっかくだからこれから仲良くしようぜ!」

「あぁ、それは俺からもお願いしたい。今日、たった一人の友達を失ったところだったし。」

「ははっ、じゃあよろしくな、俺は松木まつき けんだ。藍川も運動部だし、俺らのグループに入っときゃもうぼっちの心配はないだろ!」

「助かるよ。これでぼっち飯は回避できそうだ。」


言ってて気付いたがこれからは空の作ってくれる弁当がないのか。毎日購買だと財布がかなり寂しくなりそうだ。でも母さんに作ってもらえるようお願いなんてしたら空と別れたのがバレてしまう。

うーん…困った。でも今できることはなにもない。とりあえず後で考えよう。


「じゃあ今日の昼は一緒に食うか!昼になったらまた声かけるからよ!」


そう言って、自分の席に帰っていくかと思っていたが、急に耳に顔を寄せてこっそり声をかけてきた。


「あと、ありがとな。好きな女の子の名前、自然に呼べるようになったわ。」


なるほど、モテ男の好きなクラスメイトってのはこころちゃんだったのか。おめでとうこころちゃん、未来は明るいぞ。


そしてそろそろ休み時間も終わるので、解散の流れになるが、最後に少し、こころちゃんに声をかけた。


「あ、あとこころちゃんにお願いがあるんだけど。」

「はぁ…なに?言ってみて?」

「空のこと、頼んでいいかな?」

「…あんなことまでされたのにまだ気遣ってあげるの?」

「まぁ別れたとはいえ、それでも幼馴染だからね。悲しい顔は見たくはないかな。」

「…優しすぎるのも考えものね。わかった、気にかけておく。」

「ありがとう。」

「私にとっても親友だからね。」


そう言ってこころちゃんは自分の席に戻っていった。これで空が一人ぼっちになるような状況にはならないだろう。

居心地は最高に悪いだろうけど、自分の蒔いた種だ。多少の不便は我慢してもらおう。




そうして放課後まで、平穏に過ごしていくのだった。




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高校の休み時間って10分だよね?この人達すごい早口だね!

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