第3話メンタル強男は反撃する
「お…おはよ…」
小さい声で挨拶をするが誰も反応がない。
普段から挨拶とかするクラスメイトなんて全然いないから不思議なことではないのだが、いつもよりみんなの視線に敵意を感じる。
(なんだ…いつもは教室に入ってきても気づかれないような存在感のないキャラなのに…今日は全員がこっちを見てるぞ?)
居心地が悪いが、いつまでも入り口で立っているのも邪魔なのでそそくさと自分の席に着く。
席に着くとすぐに、空の友達の…あれ、なんて名前だっけ?空はこころちゃんって呼んでたな。こころちゃんが話しかけてきた。
「藍川君、あんたさぁ…」
なんだろうなんかわからないけどすごい怒ってる。少ししか話したことない人に怒られるのって結構きついな。
「空に隠れて浮気してたんだってね?」
「は?」
びっくりしすぎて5秒間くらい止まっちゃったよ。
え?浮気してた?うん、空がね。でも今のこころちゃんの言い方的に、俺が浮気してたってこと?
何を言ってるんだこころちゃん。
「は?じゃなくて。あんたが浮気してて空が傷ついてるって話よ!」
「いや…なんの話なのかさっぱりわからないんだけど…空がそう言ってるの?」
話しながら、ジロリと空の方を睨むとこっちを見ていた空が慌てて下を向いて視線をそらした。
「空に聞いても何も答えてくれないのよ!ていうか空のこと睨むんじゃないわよ!」
「あぁ、つい。じゃあその話はどっから出てきたの?このクラスの雰囲気的にみんながそう思ってるってこと?」
他のクラスメイトも口は挟んではこないが、こちらの会話にみな聞き耳を立てている感じだ。
「昨日クラスのグループチャットに書き込みがあったのよ!あんたが浮気してて空が傷ついてるからみんなで慰めてあげてくれって!」
「そんなことあるわけないだろ!ていうか誰だよその書き込みしたのは!」
濡れ衣を着させられて俺のほうもヒートアップしてきてしまった。
「名鳥君よ!昨日の部活の後、帰ってる時にあんたが他の学校の女の子と腕を組んで歩いてるのを見たって。それを空に伝えたら傷ついちゃったって!」
はーあいつ、そう来るか。朝まであった、空とのことを応援してやろうとか言ってた気持ちが粉々に砕け散ったわ。
空も気まずそうにこっちを見ていたことを考えると、きっと昨日俺のチャットを二人で見て、慌てて考えた作戦とかなんだろう。
俺のことを孤立でもさせて、自分達の浮気をバラされないようにしようとかそんな感じか?
幼馴染と親友だからって甘いこと考えてたのがバカみたいだなほんと。
「はぁ…なんだよそれ、そんな話を信じてこんなことになってるの?」
「そうよ!空に聞いても何も答えてくれないし、だったら友達の私が確かめるしかないじゃない!で、どうなのよ!」
ちらりと空を確認するがまだ下を向いたままだ。でも会話は聞こえてるはずなのに否定をしに来る気配もない。
なるほどね、それがお前の答えってことか。今日話がしたいとか言ってたのもまさかこれ絡みか?だったら話なんてする意味もないな。
俺はスッと立ち上がり、こころちゃんと向き合った。
「あのさぁこころちゃん。」
「こ…こころちゃんって…なんで名前で…」
しっかり目線を合わせて喋るのって大事なのかも知れない。言葉以外からも相手の感情が読み取れる。
「まず考えて欲しいんだけど…俺みたいなメンタル弱男の陰キャがさぁ…浮気なんて出来ると思う?」
その瞬間クラスメイトが全員ぴくっと反応した。
「クラスメイトに話しかけるのでも精一杯の俺が他校の女子と浮気?それも腕を組んでたって…空と腕組んで外歩くことすら恥ずかしくてやったことないのに?」
腕を組んだことはないけど空からいつも手を握ってきてたからそれはしてたけど。
「だいたい昨日も部活中の練習試合でボコボコにされてるのに、その後に浮気デートなんてするわけないだろ。そんなメンタルあるなら俺は今頃最強のピッチャーやれてるわ!みんなも最近の俺の不甲斐なさとか耳に入ってるだろ!」
クラスメイトもみんな、それはそう。みたいな反応をしている。
クラスでも目立たない俺の情報だけど、友達の多い勇がよく話題に出すせいもあってある程度は認知されているはずだ。
「だからさぁこころちゃん、そんな勇一人の証言を信じて俺を糾弾するなんてことしてないで、まずは事実確認をしようよ。」
「こ…こころちゃんって…呼ぶな…」
目を見てしっかり伝えてみたんだが、なんだかこころちゃんが赤くなってきてる。なんだ?まだ怒ってるのか?
「で…でも!実際空は元気もないし!話を聞いても何も答えてくれないんだもん!だったらあんたに話を聞くしかないじゃない!」
「まぁ話を聞くのはいいんだけどこんなみんなの前で、そんな大きな声で聞かれたら、俺みたいなメンタル弱男は萎縮しちゃうだろ?それじゃまともに話も聞けないって。」
「じゃあどうすればいいのよ!」
「そんなの簡単じゃん。」
そう言って俺は、空のほうを向く。
空は顔をあげていてこちらを様子を伺っていたようだが、目が合うとギクリとした表情になる。
「俺が空に聞いてみればいいじゃん。」
空は俺が近づいて行くと、どんどん青ざめてきた。
「で、空?これはどういうことなの?なんで俺が浮気したことになってるの?」
ちょっと怒気を含ませた声色で話しかける。
「え…えっと…」
「えっとじゃわからないよ、ちゃんと答えてよ。俺が浮気してたんだっけ?」
「その…そう…聞いて…」
「何か俺が浮気してたって信じられる証拠でもあったの?だったら見せてよ、俺もこのままじゃ納得いかないからさ。」
証拠なんてあるわけないけど。普通だったらこういうところで証拠でも出して凶弾する流れだろう。
「えと…証拠は…ない…」
「そうだよね。で、それでも俺が浮気をしていたって言うなら…」
俺は言葉を溜めて言い放つ。
「空と勇のチャット、見せてよ。」
「え…?」
空の表情が絶望に染まっている。
「いやなんか、二人が共謀して俺をはめようとしてるじゃないかって心配でさぁ。恋人と親友に裏切られるなんて、もしかしてそっちが浮気でもしてたんじゃないかって疑っちゃってさ。」
「そんなこと…してない…」
「うん、だからチャット見せて信じさせてよ!俺もクラスメイトもこのままじゃ終われないからさ!」
周りで静かに見守っていたクラスメイトも、空の様子のおかしさに気づき、察しのいい人達はもう理解し始めているようだ。
「空…どうなの…?名鳥君と浮気なんてしてないよね?だったらチャットでも何でも見せて反論してよ!」
「してない…浮気なんてしてない!あれは浮気なんかじゃない!」
あれとか言っちゃってるよ。
「ならチャット見せて潔白を証明しよう!それで証明されれば誰も浮気なんてしてなかった、勘違いだったんだよかったね。で終われるかも知れないし!」
「チャットは…見せたくない…」
その言葉にまだ理解できてなかったクラスメイト達も皆察したようだ。
「空…嘘だよね…浮気してたかどうかはわからないけど…あんなに仲の良かった藍川君に冤罪をかけようとするだなんて…」
「違うっ!こんなこと!私だってしたかったわけじゃない!でもあいつが…こうすればうまくいくって…!」
その時、教室の扉が開いてのんきな声が聞こえてきた。
「おはよー…寝坊して遅刻ギリギリになっちゃったわー…」
「…………」
「………え?何この空気?」
クラスメイトに無言で見つめられて、勇のやつも少したじろいている。
だが、俺と空が話しているのを見つけると、急に下卑た笑いを浮かべながら声をあげた。
「あぁ…この感じ、千尋の浮気の話をしているところか?そうなんだよ!俺昨日見かけちゃってさぁ!こんな可愛くて、尽くしてくれる彼女がいるっていうのに浮気してたなんてホント最低だよな!なぁ、みんな!そう思うだろ?」
声を上げながら勇は周りを見渡すが、誰も反応することはなかった。
「なんだよ…どうしたんだよみんな…」
「あのさ。」
その時、勇と仲のいい運動部の陽キャグループの一人が話しかけた。
「今その話になっててさ、みんなで藍川に話を聞こうってなってたんだけど、藍川は浮気なんてしてない、むしろそんな疑いをかけてくる二人が怪しいって…」
「………は?」
「それで二人のチャットのやり取りでも見せてくれって言っても、涼木さんが見せたくないって言っててさ、なんか怪しいからお前がみんなに見せてやれよ!」
勇の顔色はどんどん悪くなる。目が泳ぎだし、手が震えだしている。
「いや…チャットなんかはプライバシーだし…」
「クラスのグループチャットに藍川が浮気してたなんて書いてるやつがプライバシーって…」
ぐうの音もでないのか、勇が黙り込んだ。
その時、朝のHRの時間を少し遅れて担任の先生が教室に入ってきた。
「いやーすまんすまん、少し職員会議が長引いてなぁ…どうしたみんな、なんか空気が重いぞ?とりあえず席につけー、出席とるぞー。」
担任の声により、この断罪劇は一旦終了するのだった。
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よくあるこういうシチュエーション、メンタル強男だったら論破できるんじゃね?ってのがこの話の書きたかったところ。
本日2話目、前回の話だけだと面白くなさそうだったからダッシュで書いたので設定破綻してるところとかあるかもなので気付いたら教えてください!直します!
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