第2話そしてメンタル強男へ
次の日の朝、俺は目が覚めた
「ふぁー…もう朝かぁ…」
なんだかいつになく頭がスッキリしている。
習慣というのは結構身につくもので、時計を確認するとちょうどいつも起きる時間の10分前。
いつもなら多少慌てて着替え、準備をするのだが今日は少し余裕を持って準備を始める。
制服に着替え終えたタイミングでちょうど携帯のアラームが鳴った。
アラームを止める時に気付いたが空からチャットが来ていた。
『今日学校で話がしたいです。お願いします時間をください。』
うーん…昨日自分が寝てる間に来ていたみたいだが…あの状況から何をどう話すんだろう…
言い訳なのか、改めて別れの言葉を告げるのか…
勇とこれから付き合っていきます、浮気はすみませんでした。とか言われたらまぁ多少悔しい気持ちもあるけど、子供の頃からの幼馴染と中学からの親友だ。
素直に応援してやろうって気持ちもないでもない。多少悔しいけど!!
でも二人とも同じクラスだから俺の前でイチャつかれたりしたらキレちゃうかも知れないからそこはやめてくれってちゃんと伝えよう。
とかなんとか考えてる間にもういつもの準備を終える時間になっていたので慌ててリビングに向かった。
「おはよー、母さんご飯ある?」
「おはようちぃ。ご飯はできてるから先に顔洗ってきなさい。」
「ういー…」
顔を洗って改めて自分の顔を鏡で確認すると、ここ最近は我ながら元気のない顔をしてたのに今日はなんだか覇気のある顔をしている。
「最近部活で根を詰めてたから疲れ切ってたのに…ほんとに元気そうな顔になってるな…朝もすっきりしてたし、少し早く寝たのがよかったのか?」
独り言を言いながら長くなってきた前髪が少し煩わしくなり、整髪料で少し前髪を上げた。
うんOK、朝練から昼まで結構時間あるからちゃんと朝ご飯を食べておこうとリビングに戻った。
「あらちぃ、今日はちゃんと顔が見えるじゃない。髪型もいつもボサボサなのに今日はちゃんとして。」
「あーうん、なんか今日前髪邪魔でさぁ…整髪料つけるついでに寝癖も直しといた。」
「ちゃんとしてれば可愛い顔なんだから普段からしっかりしなさい。空ちゃんにも捨てられちゃうかもよ?」
母さんはからかうような顔をしながら言ってきてるが、昨日まさに捨てられたんだよなぁ。でも母さんに別れた話をするのはちょっとためらわれる。
親同士も仲のいい幼馴染だったので別れたなんて話をしたらきっと悲しむ。おじさんおばさんとギクシャクするのも嫌だ。
やっぱり高校を卒業したタイミングくらいで別れた話をするべきだろう。卒業したらたぶんこの家からも離れると思うから。
そのほうが後腐れなくいけそうだ。よしそうしよう。空にも今日そんな感じで話をしよう。
「あら真剣に受け取っちゃった?大丈夫よ、空ちゃんちぃのこと大好きだから!子供の頃からちぃのために色々してくれて、今でもお弁当まで作ってくれて…栄養バランスまで考えて作ってくれてるんでしょ?本当にいい子よ、絶対逃しちゃ駄目よ?」
「うん、わかってる。空には本当に感謝してるよ。空がいなかったらもっと早い段階で怪我とかしてたかも知れないし。」
「…あんまり無理しちゃ駄目よ。野球だけが人生じゃないんだから…」
「うん、それもわかってる。無理せず勝ってみせるよ!」
「ほんとにわかってるんだか…でも今日はなんだかいつもより元気ね。目線もしっかりしてるし。」
「昨日少し早く寝たからかな?目線は髪を少し上げたからよく見えるだけじゃない?」
なんて会話をしながらご飯を食べていたらまぁまぁやばい時間になっていた。
「うぉ、もうそろそろやばいじゃん!歯磨きして準備しなきゃ!」
「あらもうこんな時間、そろそろ空ちゃんも来ちゃうんじゃない?」
「あーたぶん、今日は空は来ないかな?昨日そんな連絡が来てた。」
「珍しいわねぇ空ちゃんが来ないなんて…ここ数年毎日来てたのに。」
「空にも用事があるんだよ。これからは結構一人で行くことも増えると思うけど気にしないで!」
母さんは怪訝そうな顔を浮かべているが、とりあえずはこんなもんだろう。
たぶんもう二度と来ることもないと思うけど、違和感を持たれないといいなぁ…
「じゃあ俺、そろそろ出るよ、いってきまーす!」
「はーいいってらっしゃい。気をつけてね。」
空の来ない玄関、一人で向かう学校、色々なことを考えながらも元気よく出発するのだった。
(なんかあの子、今日は明るいわね…いつものオドオドした感じがないわ。)
外にでた瞬間、隣の家の玄関も開いた。
まさか空か?タイミングずらしくれよ気まずいなぁ…とか考えていたが出てきたのは空の妹、海ちゃんだった。
「お、海ちゃんおはよう!朝会うなんて珍しいね、今日は朝練?」
背中のほうまであるポニーテールをなびかせ、海ちゃんが反応する。
「あれちぃにいおはよう!私は朝練だよ!ちぃにいこそ、今日朝練あったの?お姉ちゃんまだ寝てるよ?起こしてこようか?」
「あぁいや大丈夫、今日は一人で行くから。ちゃんと空にも言ってあるよ。」
「そうなんだ…お姉ちゃんとちぃにいが一緒に行かないなんていつぶりなんだろ?いつも一緒にいたのに。」
「いやー…しばらくお互いのことに集中しよう的な感じで…一緒に行かないことも増えていくと思うけど気にしないでね。」
「ふーん…お姉ちゃんとちぃにいがねぇ…」
こちらも母さんと同じく訝しむような顔をしている。今まで一緒にいすぎたからなぁ…そりゃ怪しいか。
「まぁまぁ、とりあえず海ちゃんも学校だよね?途中まで同じ道だし一緒に行く?」
「ほんと?やった!ちぃにいと登校なんて久しぶりだね!」
海ちゃんが嬉しそうな顔で声をあげる。
「あー海ちゃんは3個下だからなぁ…俺等が中学の時は小学生だったし、やっと中学に入っても俺等高校生だったからね。」
「本当に!ちぃにいとお姉ちゃんと登校とかいっぱいしたかったのに…3年差ってやっぱり大きいんだね…」
今度は途端に悲しげな顔になる。表情が豊かで可愛いな。俺にとっても妹同然だから、とても可愛い。
「こればっかりはしょうがないよ。家も隣同士だしいつでも会えるじゃん!遠慮しないで遊びにきてもいいんだよ?」
「えへ…じゃあ今度ちぃにいの部屋に遊びに行っていい?お姉ちゃんに遠慮して行けなかったから。」
「もちろんだよ!って言っても、男の部屋なんて女の子が来ても面白いものもないけどね。それでもよかったらいつでもおいで。」
「うん!ちぃにいの部屋なんて小学生ぶりだぁ!楽しみ!」
うん可愛いこの妹。
「っと結構やばい時間だったんだ。そろそろ行こっか!」
「あ、ごめんね話し込んじゃって。あとは歩きながら話そっ!」
そうして、これからは一人ぼっちで寂しい登校になると思われていた道に一つ、彩りが加わったのであった。
(…あれ?ちぃにいって自分のこと’俺’なんて言い方だったっけ…?)
「っかぁー!朝からきっつ!!」
朝練を終え、部室で着替えをしながら思わず声がでた。
「藍川先輩お疲れ様です!今日はなんか元気ですね、調子上がってきました?」
なんて声をかけてきたのはこの間の試合でエラーをして元気のなかった後輩、
「うーん、昨日ちょっと早く寝たからなんかすっきりしてるっぽい?よくわかんないけど好調かも知れんわ。」
「先輩ちゃんと睡眠はとってくださいよ…体を壊したら元も子もないですよ…」
「おう気をつけるわ!そんなことより今日も球受けてくれてサンキューな、最近勇のやつ朝練なんてほぼこないからよ…」
そう、俺の相方の勇は、最近練習をサボりがちだ。
正捕手に部活をサボられると俺もやれることが減ってしまうから最悪だったんだが、最近は坂下が俺の投げ込みに付き合ってくれてる。
「いえいえ、自分も先輩の球を受けられていい練習になってますよ!来年はサードじゃなくてちゃんとキャッチャーで試合に出たいですし!」
坂下は中学まではキャッチャーをやっていたらしいが、うちには勇がいた。だから今はサードに回って試合にでている。
1個下だがセンスがよく、バッティングも守備も卒なくこなす。2年生ながらしっかりスタメンをとっている。
「なんならあのサボり魔からキャッチャーのレギュラーも奪っちゃえよ!お前となら俺も気持ちよく組めるしな!」
「いやーそう言ってくれるのはありがたいんですけど…名鳥先輩はバッティングもいいですからね…キャッチャー以外はやる気ないっぽいし、だったら自分が他に回ったほうが効率がいいですよ!」
「まぁそれはそうか、あいつのメンタルはマジですげーからなぁ…俺なんかよりあいつのほうがピッチャー向いてんだけどな…」
「いやいや、先輩の投げる球はマジで一級品ですよ!中学の時組んでたピッチャーとは比べ物にならなくて、日々勉強ですよ!」
「でもさぁ…俺はメンタルが…」
「ピッチャーが崩れるのなんて当たり前ですよ!そこをどうにかするのがキャッチャーの腕の見せ所です!そういう点では名鳥先輩は微妙っすね…たまに声掛けとかはしてるけど、全然駄目っす!投手ってめんどくさい生き物っすから!投げたい球を感じとってサインだして、とって欲しそうなタイミングを見計らってタイムだして!でもそこが面白いんすよキャッチャー!」
坂下が熱く語りだし、口調も砕けてきた。
「わかったわかったお前の捕手愛は!キャッチャーのこと語りだすと止まらないんだよなぁ…口調も軽くなってるぞ。」
「おっとすみませんつい…」
「まぁ口調はそんなもんでいいけどな!普段からちょっと堅すぎるところあるぞ、先輩後輩とはいえ軽い敬語くらいでいいと思うぞ。」
「ほんとっすか?いやー結構疲れるんですよね敬語!じゃあこれからはこんな感じでいっすか?」
「あぁいいぞ…でもタメ口はやめろよ、周りに伝染するとめんどい!」
「わかりました!適度に抜くっす!」
「そんなもんだな!っと、もう朝のHRまで時間なくなってきたな…そろそろ行くか!」
「っす!」
そうして部室を出て、教室まで行くと、入った瞬間にクラスメイトが一斉にこちらを見た。
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読み専だった時はざまぁもののこういう回、いらねぇよな!って思ってたけどいざ自分で書いてみると…うん、必要だわ!
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