第2話「エレベーターがくる」

 ぐるっと大回りをして、おれは隼人さんの住むタワマンにたどり着いた。


 敷地面積だけでもショッピングモールぐらいの広さがある。


 手入れの行き届いた花壇の脇に愛車を停め、オートロック式の玄関で4201号室を呼び出す。


 大回りをしたせいで、到着予定より20分以上遅れてしまった。


 きっと怒っているんだろうなぁ。


「……はい」


「大変お待たせしました、ウーバーイーツです」おれはつばをつまんでキャップの向きを正した。


「遅かったね。いま開ける。高層階用のエレベーターを使ってね」複層ガラスが採用された豪華な自動ドアが開いた。


 エレベーターは3台あって、2台が1階から39階までのもの。


 残りの1台が40階以上のものだった。


 よく見ると外装部分の装飾がちょっと違う。


 やっぱりタワマンにはヒエラルキーがあるのかな、などと思っていると、高層階用のエレベーターがすぐに来た。


 エレベーターのなかで、配達バッグをおろしてなかを確認する。


 チャックを開けた瞬間にカレーの匂いがただよって来たので、これはだいぶぶちまけてしまったと思ったのだが、大丈夫、ラップはしっかり丼に密着していて、汁はもれていなかった。


 42階に止まり、おれはバッグを担ぎ直して4201号室に向かおうとした。


 が、エレベーターから出て驚いてしまった。


 目の前に広がるのは、シックな茶色で統一された間接照明の内廊下。


 普通は片側の壁に沿ってずらりとドアが並んでいるはずが、このフロアにはそれがひとつきりしかない。


 1フロア全1室!


 何度かデリバリーに来ているタワマンだったが、こういう造りになっているラグジュアリーな階ははじめて見た。

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麒麟がくると、シンハーもくる 鳳梨たぴる @fengli_tapir

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