第01話 日常

 すまなかった ———。

 最後にもう一度だけ、そう思っておったが ———。

 その所為でおぬしには辛い思いをさせた ―――。

 せめて次は、穏やかな人生を ———。





 —…・・ピピッ、ピピピピッ、ピピピッ —――


 スマホの目覚ましを止め、休み明けで閉じようとするまぶたを擦りながら制服に着替えたら部屋を出る。そして階段を降りたら顔を洗い、キッチンでお袋に声を掛ける。

 中学の頃から変わらない、いつものルーティン。


「おはよ」

「おはよう、ご飯はいつも通りで良い?」

「気持ち多目で…ありがと」


 テレビを見ながら「今日の占い一位だって、良かったわね」と言うお袋の声と、俺が味噌汁を啜る音、そしてそこに響く階段を降りてくる足音…


「お、にーちゃんおはおめー。今年の誕生日プレゼントは可愛い妹の笑顔だよ、お返しは三倍返しでよろしく♡」

「はいはいありがとさん。馬鹿言ってないでさっさと飯食え、遅刻するぞ」

「大丈夫だって、遅刻したら『向かい風が強くて...』って言うから」


 そんな妹のドヤ顔に溜息をこぼすのもいつもの光景だ。


「ところで夕飯、何が食べたい?ゆう君の誕生日だし、リクエストがあれば今のうちに言っといてね」

「なんでも…あー、やっぱ肉で」

「ふふ、じゃあ今夜は焼肉にしましょうか。たっくさん買ってこないとね」

「はーい、わたし鶏肉が良いーっ!!」

「はいはい。お父さんも今日は早く帰って来るって」


—— 賑やかな平穏な日常。


「御馳走様、そんじゃ行ってくる」

「そうだ、お隣のなっちゃんに会ったらお礼言っておいて」

「お土産のクッキー美味しかったよーって」

「俺はまだ食ってねーよ」


—— いつか、どこかの誰かが祈った穏やかな日常。


「そういえばまだちゃんと言ってなかったわね、誕生日おめでとう。忘れ物はない?」

「大丈夫。それじゃ、行ってきます」

「えぇ、気を付けてね。いってらっしゃい」


—— それは、玄関の扉を開いた瞬間、光に呑まれた。

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