「耐えろ! マサ!」

蛙鮫

「耐えろ! マサ!」

「よしっ、決めた! ケンゴ。今日から俺、いじらないぞ!」

 教室の中、友人の本江マサが急に大声で宣言し始めた。その手には十八歳未満の学生がみては行けない画像が載っていた。


 男子学生で『いじらない』と言えば、一つしかない。


 しかし、それが劣情を持て余している思春期の男子学生からすれば、全裸で煮えたぎるマグマに飛び込むような苦行である。


「マサ。本気か?」

 

「ああ、辞めるとモテるらしい」


「それ都市伝説じゃねえのか?」


「俺が自分の欲望のために吐き捨ててきたものは俺の子供達なんだ。俺の親からすりゃ孫だよ。俺はもう人殺しなんてできねえ!」

 察しがついたであろう女学生からは凍りつくようなほど、冷たい眼差しを向けられた。


「そうは言ってもさあ、自分との約束なんて結構もろいもんだぜ」


「そういわれると思って俺は対策を考えた」

 マサが提案した方法は至ってシンプルだった。SNSの投稿に日にちをカウントするというシステムだった。


「こうすればお前も他の人間にも俺の努力がみられるだろ?」


「なるほどな。いいじゃねえか。じゃあ俺はその都度確認出来るように通知つけとく」


「ああ、頼んだ! よし! 男磨きだ!」

 馬鹿二人が教室で高らかに叫んだ。



 『一日目』

 マサがつぶやいていた。とうとう始まった。一人の友人として応援しよう。


 『二日目』

 まあ、あれくらいの大口叩いたんだからな、折れたら困るな。



 『三日目』

 悪くないな。この調子だ。





















『一日目』


「おい待て。なんで初日に戻ってんだよ」


「ごめん、ネットの広告でムラっときた」


「意思よわ」


「お前は我慢すんのがどれだけ辛いことか分かってんのか?」


「逆ギレかよ」


「今度こそ! 今度こそ! 成功させてみせる!」

 マサが前よりも声をあげて宣言した。まあ一度の過ちは目をつぶろう。信じてやる。 

 それが友というものだ。


『一日目』

 まあ、序盤だ。これで蹟かれたら話にならん。


『二日目』

 いいぞ! 気を引き締めろ!


『三日目』

 やったな。ここから超えて行け。


『四日目』

 おお! 新記録達成だ!


『一日目』


「まあ、お疲れさん。原因はなんだったんだ」


「我慢できた。はずだった。だけど朝起きたら」

 マサが俯いた。なんとなく状況は察した。それは辛かろう。


「それでもなんとか出来た。次こそは出来る!」


「そうか。信じてるぞ!」


「おう!」

 僕はマサの背中を強く押した。相変わらず女子生徒達からは冷たい目線を向けられていた。


 それからマサは己の欲望を制限できるようになったのか、日に日に伸びていった。心なしかマサは女子生徒達から声がかけられるようになっていた。


 そんなある日、朝、学校に行くとマサは学校にいなかった。奴に連絡を送るとしばらくして返信が来た。


 僕はその内容に衝撃を受けていると担任の先生が入って来た。


「えー。本江マサ君が出家しました」



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「耐えろ! マサ!」 蛙鮫 @Imori1998

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