この想いは届かない

タカハシU太

この想いは届かない

「何がバレンタインだ! クソ! あんなの……あんなの……あんなのでもほしい……」

 目の前にいる慎一がうめいていた。どうやら今年は誰にももらえなかったらしい。ボクは慰めるように言った。

「あれはお菓子業界の……」

「いいんだよ! 見栄でもいいからほしいんだよ! 偽りの愛でも!」

 偽り、でもか。

 だったらと、ボクは彼の前に袋詰めのチョコをどんと置いた。

「ボクがもらった分、あげるよ」

「そうやって、マウント取ってくる! イケメンだからって調子に乗るなよ!」

 そう言いながらも、慎一はチョコが気になるようだ。

「ボク、甘いの嫌いだから、どうせ捨てちゃうけど」

「お前はひどい男だな! 人の好意を台無しにするなんて!」

「じゃあ、無駄にしないでくれる?」

 慎一は葛藤していた。受け取るべきか、拒むべきか。

 ボクが袋詰めのチョコを引き下げようとすると、勢いよく奪い返された。

「これ、手作りだろ? せっかくだからもらっといてやる。オレの胃の中に捨てたと思えば」

 キミの胃はゴミ箱か。だけど、慎一は嬉しそうだ。

「これで女の子にチョコをもらったって自慢できる。じゃあな!」


 一人残されたボクはため息をついた。

 がんばってチョコを作ってみたけど、どうだろう? まあ、男からチョコをもらうなんて、嫌に違いない。

 もう一度ため息をつくと、そっと心の奥に封印した。


               (了)

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