襲われた興信所

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 中津警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。

 中津健二・・・中津警部の弟。興信所を経営している。大阪の南部興信所と提携している。

 西園寺公子・・・中津健二の恋人。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

 根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。

 本庄弁護士・・・本庄病院院長の娘で、中津興信所や南部興信所に調査を依頼することが多い。

 中田顕子・・・移民党の元衆議院議員。大泉元総理の時の官房長官。

 市橋早苗・・・移民党総裁。内閣総理大臣。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==


 1月17日。午前10時。中津興信所。所長室兼事務室。

「了解しました。」電話を切ると、中津は皆に言った。

「本庄先生からだ。中田顕子先生を連れて、お見えになるそうだ。」

「所長。元旦の中田邸全焼事件ですか。先日、調査資料を郵送しましたが。」と高崎が言うと。「お礼だよ。『放火』ではない、物証が揃ったのは、ウチのお陰だと喜んでおられる。あまり、時間が経つと、目撃証言や証拠が消えてしまうからな。元日から営業している事務所は少ない。それに、総理経由の本庄先生の仕事だ。頑張って良かったな。」と応えた。

「宗派によって、やり方が違うことを知って、いい勉強になりましたよ、所長。」

 泊は、誇り高く言った。

 表にタクシーの音がした。

 根津が、入り口の応接室の引き戸を開けた。タクシーでは無かった。そして、降りて来たのは、本庄弁護士と中田元代議士だけでは無かった。

 男二人が、拳銃で脅しながら、一緒に入って来た。

 残念ながら、この事務所の前は、駐車違反にはならない。道幅も広い方だ。

 だが、中津は、すぐにホットラインを通じて、警察の110番と中津警部の部屋に通報していた。そして、EITOの緊急システムへの通報も。

「おい。扉を閉めろ。」と、男達の一人が言った。

 泊が、事務室へのドアを閉めた。「入り口の扉に決まってるだろ。」「入り口は、扉で無くて、引き戸ですが・・・。」「減らず口叩くな。引き戸を閉めろ。」はあ?「閉まってますが・・・。」「施錠しろ、と言っているんだ、馬鹿め。」「失礼ね、レディーに向かって。最初から『引き戸に施錠しろ』って言えば、一言で済むのに。あなた、何年目ですか?」「何年目?」「日本に来て何年目?アジアの人でしょ。差別はしませんよ。まだ、慣れてないのなら、学習して下さい。いいですか?『ドア』が『扉』、『スライディング ドア』が『引き戸』です。玄関にある引き戸は『玄関引き戸』、『玄関ドア』じゃありません。」

 その男は、「五月蠅い!」と言って、根津に向かって引き金を引こうとした。

 その瞬間、根津は応接室の応対用の回転椅子を蹴った。

 男はよろけて、もう一人の男が押されて体勢が崩れたところで、泊は『本物』の来客二人の間に割り込んで、倒れる男から拳銃を奪いながら、男を倒した。

 本庄や中田にとって、一瞬の出来事だった。

 そっと、間仕切りのドアを開けて、中津は滑り込み、「取り敢えず、中へ」と来客二人を中に入れた。

 中津達は、強盗2人組を縛り上げ、拳銃を確認した。トリガーはやはり、引かれていなかった。皆、元々は警察官だ。拳銃の扱い方は熟知している。

「ダークレインボーじゃない。どこかの、下請けのチンピラだな。」と、高崎は言った。

 午前11時。

 警官隊と共にやって来た、中津警部に中津健二は言った。「後で、状況教えてくれ。」「分かってる。」と、中津警部は応えた。

 正午。所長室兼事務室。

 2人組が連行された後、「まるで映画のようだったわ。」と、中田は言った。

「中田先生。この興信所の所員は所長を含めて警察出身ですから。」と、本庄は説明した。「重ね重ね、ありがとうございます。もう議員じゃないから、ってタクシー呼んだら、誘拐されてしまいました。」「誘拐?何が目的です?」

「色々考えました。総理とお話していて、気づきました。中津さん達が近所に聞き込みとやらされて、また、『線香で火事になるかどうか』をお坊さんや消防に確認して頂いたお陰で、私が不意の来客で仏間を長く無人にしていた為に、線香の火が、お坊さんの座布団に引火したのだろうという結論が出ました。少なくとも、今年中に総選挙が行われます。私は議員辞職しましたが、主人は違います。息子もです。スキャンダルのタネが欲しい、勢力があるのだろうと思います。詰まり、『恨まれる筋のある議員』に1票入れるのか?という揺さぶりをかける為に『放火』であって欲しかったのです。本日新聞は、まだ何も調査が進んでいないのに『放火』と書きました。」

「あの記事は、その勢力に抱き込まれている訳ですね。」と、中津は尋ねた。

「たまたま、本庄先生とお伺いする予定だったのですが、タクシーが来る前に、あの車がきたんです。それで、奴らは、丁度いいから、ここに行く、と言い出したんです。玄関を出たときに、先生と話していたのを聞いていたんでしょう。」

「資料は、ウチだけでなく、消防にも警察にもあるのになあ。」高崎が言うと、「バイト君みたいだから、分かってないのね。そもそも電子ファイルの時代なのになあ。」と根津は言った。

 間もなく、総理が手配した、SPの車が中田を迎えに来た。

 車が出た後、中津達が事務室に戻ると、公子が、包丁を持ってニヤニヤしていた。

「な、何だ?」中津が言うと、「鏡開き。お餅食べる人、はーい!!」

 仕方無く、4人は手を挙げた。「よし!!」と言って、公子がDKに戻るのを見届けてから、根津が言った。「所長。胃の薬、用意します?」「ああ、お前は気が利くな。」と、中津は褒めた。

 総理と副総監の記者会見のことを知ったのは、その後のことだった。

 ―完―



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