6.『死の抗議』
======== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
中津警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。
中津健二・・・中津警部の弟。興信所を経営している。大阪の南部興信所と提携している。
西園寺公子・・・中津健二の恋人。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。
本庄弁護士・・・本庄病院院長の娘で、中津興信所や南部興信所に調査を依頼することが多い。
中田顕子・・・移民党の元衆議院議員。大泉元総理の時の官房長官。
市橋早苗・・・移民党総裁。内閣総理大臣。
戸倉新・・・文化庁長官。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
午前10時。中津興信所。所長室兼事務室。
本庄弁護士がやってくる。
「はい、先生。コオロギ倒産の件の資料です。」中津健二は、資料の入ったケースを本庄に渡した。
「じゃ、これね。健二君、ざっと、目を通して。」言われて5分ほど目を通した中津は、顔を上げた。
「コレって、先日山中で、遺体で見つかった、芹沢稲子さんの事件ですか。」
「巷で話題になっているけど、遂に遺族が我慢出来なくなったらしい。テレビ3では、もみ消ししようと躍起らしいけどね。法廷で決着つけないと報われない案件よ。」
テレビ局は、政府から補助金を貰っているのをいいことに、今まで傍若無人に運営してきた。何か番組に不祥事があっても。まずは「無かったこと」にしようとした。
その最たるものが、コロニーという流行病である。もう『収束』は見えているのに、まだ油断出来ないまだ油断出来ないと不安を煽った。
取り分け、ワイドショーの「偏向誘導放送」は激しかった。
そのため、『5類への引き下げ』がかなり遅れたと言われている。
現在の総理市橋早苗は、総務大臣も経験しており、国民の声も高かった為、現行大手のテレビ局の免許を取り上げ、『電波オークション』で新体制にする事を閣議決定した。
国会は立法府だが、法案を審議して立法することは時間がかかり過ぎるからである。
新しいテレビ局キー局は、3つのみとし、オークションで免許を獲得した、イッコーマン、トンダ、芽立が、各々の企業名を冠にしたテレビ局名でスタートしたが、公平性がないという声に押されて、巷で通称になっていたテレビ1、テレビ2,テレビ3が局名として正式採用された。
総理は、セキュリティークリアランスも主張していたので、監督官庁も総務省から文化庁へ移管された。また、解体したテレビ局社員は、テレビ局以外の会社を斡旋し、再就職禁止は厳しく管理された。
今回、本庄弁護士が担当する案件は、たまたま当事者が亡くなっているが、旧体制の下のテレビドラマに関連して、トラブルは絶えなかった。
本庄弁護士が憤慨しているのには、こういった背景がありながら、事件が起こっていたからだ。
「この、無茶苦茶なドラマ化した脚本家は、陳謝する声明すら出していませんね。最終回を原作漫画家に書き直しさせたのは、彼は不本意だったかも知れないが。強制終了だったし。」と中津は言った。
「世間では、『死の抗議』って言ってるわ。脚本家は弟子か下請けの業者扱いしていた、という証言もあるわ。健二君達には、週刊誌ネタのおさらいは期待していないのよ。分かるわよね。」
本庄は、大きな胸を殊更大きくして、中津に迫った。「も、勿論です。先生あっての、中津興信所ですから。」
「良かった。お願いね。」本庄は意気揚々と引き上げようとしたが、中津が「あ、先生。忘れ物。」と資料のケースを差し出した。
「あら、私としたことが、ほほほ。」
本庄が出て行くと、一呼吸して中津は「聞いたな、みんな!」と大きな声を出した。
「俺と泊は、利根川さんにお願いして、テレビ局に行ってきます。」と、高崎が言って出て行った。
「私と根津ちゃんは、出版社に当たります。」と、公子が言って出て行った。
「優秀な所員だ。」と、中津は呟いた。
午後2時。
高崎から電話が入った。「利根川さんが間に入ってくれたお陰で、脚本家に仕事させていたプロデューサーの前歴が、本日テレビだと分かりました。」
「え?再就職出来ない筈じゃなかったのか?」「婿養子だそうです。前歴の時は独身でしたが、結婚する際、女房の籍に入ったんです。しかも、件の脚本家も婿養子です。やっぱり、マスコミの取材はいい加減ですね。最初は口が重かったんですが、『今なら引き返せる』の一言が利きました。警部に、婚姻の裏を取って頂きました。結論は、彼らの歪んだ芸術観によるイジメです。芹沢先生の周りの人も、ファンも心配していました。最終回、書き直した上でドラマになったけど、原作を無茶苦茶にされて悔しかったんでしょうね。」
その後、根津から電話があった。「今、みゆき出版社からの帰りですけど、山村編集長のお話を詳しくお聞きしました。同業者の漫画家からは、同情の声しかないそうです。『改ざん』と言うべきテレビ用の『直し』も見せて貰ったそうです。誓約書があるのに無視をして、人でなしだと言う人もいたそうです。」
「分かった。明日、報告書出してくれ。」「え?直帰ですか?」「嬉しそうな声出すなよ.俺はこれから出掛けるんだ。何かあったら、スマホの方にかけてくれ。」
午後3時。警視庁テロ対策室。
久保田管理官は、腕を組んで考えていた。
「これ、読んでくれ。」と、ビニール袋に入った手紙を、中津健二は中津警部から受け取った。
[
私は、重罪を犯しました。Chot GPTを使った闇サイトで唆され、徳野を雇用しました。旧体制のテレビマンを救えるのは、お前だけだ、と言われ、雇用したのです。徳野も、脚本家の林田も『新しい名前』で再出発させて、いいことをしたと思っていました。雇用してすぐは、普通の仕事をしていた2人がイジメに走ったのは、2人とも芹沢先生の事が好きだったからです。詭弁じゃありません。2人は、お互いに複雑な思いを『イジメ競争』にぶつけました。私には理解出来ない感情でした。ファンのクレームも知っていましたが、ドラマは、そこそこ数字を取っていました。以前聞いたことがある、『数字、視聴率』という魔物が私にも巣食っていたのでしょうか?私は、全ての責任を取って、先生の後を追います。あの世で、何度も土下座します。
]
「これって、遺書じゃないですか。」「問題は、もう一つの手帳の切り端だよ、健二。」
メモには、『闇サイト』『デプス』の文字が書かれていた。
「自殺死体の側にあった、都合のいい遺書。強引に幕引きされたんだよ。悔しいが、デプスの思惑通り、警察発表する。メモは髙良専務の筆跡だった。手掛かりを残して行ったんだ。悪魔の下へ。」
午後7時。シネコン映画館。
市橋総理のリモート記者会見が行われた。また、京都の文化庁とも中継で繋がった。
「悲しみを連鎖させないで欲しい、と芹沢先生は遺書に残されたようですが、残念な結果になってしまいました。残念・・・。」総理は嗚咽した。
嗚咽の後、総理はこう語った。「今回のことで、法律の抜け穴、落ち度が明るみになりました。遺族の皆様、国民の皆様。申し分けありません。」
総理が立って深々とお辞儀をした後、京都の文化庁にカメラが切り替わった。
「文化庁長官の戸倉です。私も、まずお詫び申し上げます。テレビ局社員の雇用は、安易な姿勢で行わないよう、各社に指導して参ります。また、『脚本』という呼称は誤解を招く、と各芸術団体から、お叱りを受けました。『脚本』という呼称はオリジナルの『お話』に限り、芹沢先生のように、原作のお力をお借りして、お話の筋道を作る場合は、『脚色』に統一するように、各テレビ局に指示しました。また、どの程度お話をドラマに生かして行くかは、双方の話し合いを必ず行い、今回のように誓約書がある場合は、必ず遵守するように指導致します。法整備は、これからのことですが、詐欺まがいの暴走は決して許されるべきことではありません。放送に関してのご意見・ご感想は、テレビ局に送るより、まず文化庁のホームページにアクセスして下さい。よろしくお願いします。」
―完―
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