女子プロレスラー

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 中津警部・・・警視庁テロ対策室所属。副総監直轄。

 中津健二・・・中津警部の弟。興信所を経営している。大阪の南部興信所と提携している。

 西園寺公子・・・中津健二の恋人。愛川静音の国枝大学剣道部後輩。

 高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。

 泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。

 根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。

 本庄弁護士・・・本庄病院院長の娘で、中津興信所や南部興信所に調査を依頼することが多い。

 新里警視・・・あつこの後輩。警視庁テロ対策室勤務。

 村越警視正・・・警視庁テロ対策室室長。

 渡辺副総監・・・警視総監が病気の為、全て代行している。EITO立ち上げメンバー。久保田(渡辺)あつこ警視の叔父。

 森山尚人・・・蘭が勤める、美容サロン「カール」の店長。


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 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==


 1月7日。午前10時。中津興信所。所長室兼事務室。

「了解しました。」電話を切ると、中津は皆に言った。

「南部興信所から、応援依頼だ。幸田さんが大怪我を負わされたらしい。依頼人の牧場冬吉さんの女房が、浮気現場に踏み込んだら、牧場さんと幸田さんを突き飛ばして、浮気相手と、とんずらしたらしい。まるで女子プロレスラーみたいな体格らしい。」

「所長。南部興信所から電子ファイルが届きました。写真も添付されています。牧場さんは、奥さんとはSNSで知り合ったそうです。それで、前歴とかは曖昧なままだったそうです。」

「ディスプレイに出してくれ。」と、中津が言うと、泊はディスプレイに写真を出して言った。「確かに、ごつい女だなあ。」

「よし。浮気相手のヤサは分かっている。泊と高崎は、そっちに向かってくれ。根津と公子は、「女子プロレスだ。以前、調査で協力して貰っている。電話より直接行った方がいい。」

 中津の号令に、所員達は、支度をして出て行った。

 正午。目黒区。オールウーマンプロレス協会。事務所応接室。

 会長の中井が、根津と公子の相手をしに出てきた。

「お待たせして申し訳ないです。中津さんのお話では、『人探し』されているとか。」

「はい。この人なんですが・・・在籍したことは、ありますか?」と、公子は尋ねた。

「ああ。リングネームは、イナズマ映子、本名は木島映子ですね。3ヶ月くらいいたかなあ。学生時代はバスケやってたと言うし、体格もいいから採用して、修行中に辞めました。」会長はマイクを持って、練習場の選手を呼び出した。「かずみ、ちょっと来てくれ。」

 間もなく、かずみ選手がやって来た。

「何でしょう?会長。」会長は写真を差し出して、「お前、練習相手してやってたろう?どうだった?辞めた理由は詳しくは聞いていないんだが。」と尋ねた。

「体格いいし、ヒール向きかな?って言うことで、私達で技を教えてあげたりしたんだけど、何か身内に不幸があって考え方が変わったって言ってました。余所では、先輩のしごきに耐えられなくて辞める子が多いけど、ウチはイジメなんかないですよ。まだデビュー前だったし、家庭の事情があるんなら仕方ないから、私達で餞別あげました。コロニーの前だから、5年位前かな?」

 午後1時。中津興信所。

「資料として貰って来ました。特別仲のいい団員がいなくて、家にいった者はいなかった。ただ練習熱心で、当時あの体格に成長したらしいんです。」と、公子が言うと、「成程。修行してパワーアップしたか。デビューしていなかったとは言え、元プロレスラーなら、裁判になったら不利だな。逃げてるし。」と中津が言った。

「浮気相手の、大仏(おさらぎ)達夫の家にはまだ立ち寄っていないようです。泊を残してきましたが。」と高崎は言った。

「よし、交代で『張り込み』しよう。期限は明日1日まででいい。この女と、相手の男のデータがないか、今、兄貴に頼んで調べて貰っている。」

 午後5時。大佛達夫のアパート。

 チャンスは案外早く訪れた。大仏が戻ってきたのだ。

「大仏さんですね。」と、西部警部補が声をかけた。泊や高崎も同行していたので、覚悟を決めた顔になった。

「もう、やってませんよ。」「いや、今回は『万引き』のことじゃない。あんたの、そのう、『恋の相手』の件だ。牧場映子は、今どこにいる?」

 しどろもどろで、埒があかないので、西部は逮捕連行した。

 午後6時。高速エリア署。

 取調室から、西部が出てきた。

「空港で別れたそうなんですよ。ただ、美容室に行くと言っていたので、確認しに行きますが、来ます?」高崎達は頷いた。


 午後7時。美容サロン「カール」

 ここは、蘭が勤めている美容院だ。映子は丁度、セットを終えて出てきた。アフロヘアに近い髪型だったが、今は所謂『ボブ』と言われるショートヘアだ。

「おめかしして、どこへ?」と、愛宕は呼びかけた。

 ぎょっとした映子は、橋爪警部補に手錠をかけられた。

「何で?」「大怪我させて逃げて、何で?はないだろ。知ってる筈だよ。格闘技やってた人間が傷害事件起こした時、そうでない人間より罪が重い。相手は無防備だし。ま、後は署で。店長さん、閉店後で良かったですね。」

 愛宕が声をかけると、店長の森山は深く頭を下げた。

 午後8時。中津興信所。いや、中津家。

「いい報せと悪い報せ、どっちを先にする?」「悪い報せ。」「お前、根性悪いなあ。」「その根性悪い嫁貰ったのは誰?」「いいよ、もう。大仏達夫が逃げた。彼は、浮気の当事者ではあるが、傷害の犯人ではない。念の為、高崎と泊に見張らせていたが、姿を消した。高崎は、クビにして下さい、って泣いている。ベテランだけになあ。」「クビにするの?」「する訳ない。やっぱり、お前は根性が悪い。」「至福の褒め言葉だわ。」「至福?何か使い方違ってる気がするが。」

「いい報せが、まだよ、ダーリン。」「元プロレスラーが見つかった。本庄先生は弁護を断った。」「知り合いだったの?元プロレスラーと。」「いや、知り合いだったのは、あそこの会長と本庄先生。逃げずに出頭してくれれば、喜んで弁護を引き受けたのに、って言ってる。」「まあ、仕方ないわね」。」「でも、大仏は何で逃げたのかしら?関わり合いになるのが嫌だった?」「それだけならいいが・・・高崎が失敗したのが、気に掛かる。」

 ―完―


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