銀葉の館

白日夢

「ジョシュア先生、ぼくのにいさんはどこにいるんですか」

「なんのことかな?」

「先生は、ぼくのにいさんなんでしょ」

「きみのにいさんなら、とっくに存在をなくしてしまったよ。それできみが作り出されたんじゃないか」

「それならどうして先生は、ぼくの目の前にいるのですか」


「それはわたしがきみだからだ」教師の姿がぼくに変わる。「わたしはここに残るから、きみが代わりに消えるんだ」


 教師だったぼくの手が伸びて、ぼくの首を締め上げる。

 あんなに自分を消してしまいたかったはずなのに、いざ消されるとなると怖くて仕方がない。ぼくは懸命に伸し掛かる体を退けようとした。





「どうしたの、ミック」

 ラファエルが、上から覗き込んでくる。ぼくは大きく息を吐いた。


「夢、見てた。ラフがあんまり気持ちよくさせるから、眠っちゃったらしい」

「それにしては、気持ちよさそうじゃなかったよ」

「夢のせいさ」

「どんな夢?」


 ぼくは答えず体の位置を入れ替え、ラフの耳朶を噛みながら囁いた。


「ヒュプノスにも、これから夢を見させてあげるよ」


 カタバミの茂みの中でラフの形の良い足を肩にかけたとき、目の端をひっそりと猫のアルが過ぎて行った。

 きっと、噴水の水を飲みに行くんだ。アルは汲み置いた水より、流れる水の方が好きだから。黄泉から湧き出る噴水は彼の格好の水飲み場だった。

 ぼくはラフを抱きながら考える。アルは、元々は教師の猫だったのではないかと。



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