ミシェルとラファエル。それからジョシュアとケイ。
R「ほら、長いローブを着ている先生さ」
M「機械時計のジョシュア先生?」
R「ちょっと、ミックに似ているよね」
M「そう?」
R「うん。目の色も同じだし」
M「そうだっけ?」
R「そうだよ。ミックと同じ
M「ラフ、よく知ってるね。先生、授業のとき以外はフード被ってるし、ロープで体も隠しているのに」
R「旅のときのミックと同じだよね。フフフ。ミックで慣れているから、いくら隠していても、ぼくにはわかるんだ」
M「ラフには、かなわないな」
R「ねぇ、ミック。機械時計の先生なら、ぼくらと同じヘルマフィロディトスなのかな?」
M「…… 知らない。先生は何も言わないし、ぼくも訊いたことないから」
R「ふーん。それと」
M「それと?」
R「ミックの先生なのに、アンジュとも仲良いみたいなんだ」
M「うん」
R「ミックも、知っていたんだ」
M「この間、森との境の温室のところで、ふたりでいるの見たんだ」
R「ぼくは湖の
M「温室のところではキスしていたよ」
R「どんなふうに?」
M「こんなふうに」
R「機械時計の先生、もしかしたら、ミックのにいさんかもね。あの先生、きれいだし。他の先生たちとは雰囲気違うし」
M「えっ!」
R「なんで、そんなに驚くの? だって、機械時計の先生なんだよ。ミックと同じ血が流れているって考えた方が、自然じゃない?」
M「…… そうなのかな」
R「フフフ。先生がミックのにいさんで、アンジュと先生が子どものとき、ぼくらみたいだったら笑うよね」
M「あっ、ジョシュア先生だ」
R「先生、こんにちは」
R「……あんまり」
M「ダメだよ、ラフ。そういうときは『はい、捗っています』って言わなきゃ」
J「ハハハ、ミシェルさま。ヘルメスはそう答えても、ヒュプノスの答え方は違うものです」
M「先生、どこに行くんですか」
J「……ミシェルさまは明日テストですから、今夜のうちに勉強しておくんですよ」
R「あっ! 明日、ぼくもテストふたつ、あったんだ」
J「それなら、ラファエルさまも早く帰って勉強した方がいいですね」
R「はい、先生。ミック、今夜はいっしょに勉強しよう」
M「うん。先生、さようなら」
R「ミックの先生、湖の方に行ったね」
M「うん」
R「さっき、アンジュも湖に行ったんだ」
M「アンジュ、帰ってきているの!」
R「だいじょうぶ。夕食がすんだら、また仕事に戻るって言っていたから」
M「…… わざわざジョシュア先生に会いに帰ってきたのかな」
R「たぶんね」
M「行ってみる?」
R「うん」
J「やあ、ケイ」
J「ああ」
C「かなり辛そうだな」
J「すまない。忙しいのに」
C「あやまるな。それより」
J「それより?」
C「弟たちが付いて来ている。気が付かなかったのか?」
J「ああ。うっかりしていた。さっき、カタバミの野原で会ったんだ」
C「ここまで歩いてくるのがやっとだろ、おまえ」
J「ケイ、あの子たちが見ているのなら……」
C「かまうことはない。いずれは知れることだ。今は、おまえの体が最優先だ」
J「すまない」
C「だから、あやまるな、ジョシー」
M「ふたりとも、服、みんな脱いじゃった」
R「わぁ、ミックの先生、綺麗!」
M「背中に、翼の跡がある…… 先生、ぼくらと同じだったんだ」
R「ほら、やっぱり、先生は、ミックのにいさんだよ」
M「……そうなのかな」
R「そうだよ、きっと」
M「黄泉の湖に入って行っちゃた、ふたりで」
R「なに、するんだろう」
M「わかんない。湖の中に潜っちゃったから、見えなくなっちゃったね」
R「ミックも、おとなになったら、先生みたいになるのかな」
M「ラフ、いきなりなんだよ」
R「先生の身体、あんなに綺麗だったもの。ミックなら、もっと綺麗になるんだよね。ミックは、誰よりも綺麗だもの」
M「誰よりも綺麗なのは、ラフだろ」
R「ぼくなんかより、ミックの方がずっと綺麗だよ」
M「そんなことない」
R「ミックは自分が綺麗なこと、嫌なんだよね」
M「……うん」
R「ごめんね」
M「なんで、あやまるの」
R「だって、にいさんのせいなんだもの」
M「アンジュのこととラフは関係ないよ。ぼく、ラフのことは好きだよ」
R「ありがと、ミック。ぼくもミックのこと、好きだよ……あのさ」
M「何?」
R「ミックは嫌だろうけどさ。にいさんはあんなだけど、本当はミックのこと、すごく好きなはずだよ。いつもぼくよりミックの方をよっぽど気にかけているもの」
M「……だったら」
R「だったら?」
M「先生がぼくのにいさんだとしたら、先生もきっとぼくよりラフの方が好きだと思うよ」
R「だったらいいな……」
教師とアンジュは気が付いていたはずだ。ぼくとラファエルが木陰から覗き見ていたことを。
二人の姿が湖面から消えたあと、ぼくらは榛の木の下で戯れ合っているうちに眠ってしまった。だから、教師とアンジュが湖からいつ上がってきたのかも知らなかった。
ぼくとラファエルが目を覚ましたときには、湖の月は高く上がっていた。
夕食の時間は、とうに過ぎている。
ぼくらは大慌てで服を着て、館に戻った。
幸いにもアンジュは既に出かけたあとだった。一人で夕食をすませ、すぐに仕事に戻ったらしい。人の世では方々で、きな臭い煙が立ち込めていて、彼は多忙を極めていた。
ぼくらは安堵し遅い夕食をとってから、夜通しいっしょにいた。明日の試験勉強という名目だったが、口実に過ぎなかった。使用人たちも知ってはいただろう。彼等はぼくらになんの興味もなかったから、勉強していようが湖畔の戯れ合いの続きをしていようが気にも留めなかった。
翌日のテストは、ぼくもラファエルも散々だった。
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