幕間の機械時計
ジョシュアとケイ。そしてミシェル。
C「ケイではない。この館では、おれはアンジュという名だ」
J「わたしにとって、ケイはケイだ。アンジュなんて名の男は知らない」
C「片意地で融通の利かないところは、子どもの頃から少しも変わっていないぞ、おまえは」
J「悪かったな—— 何を笑っている?」
C「血は争えないと思ってな。あの子も頑固だ。素直で優しすぎるところも、おまえにそっくりだ。だから、おれは、あの子の瞳に煌めく光をおとなになる前に全て消し去ろうと誓ったんだ」
J「誰に?」
C「おまえに誓ったのさ」
J「頼みもしないのに」
C「己の弟と妹によって同じ悲劇が繰り返されるところなど、おまえだって見たくはないはずだ」
J「相変わらず、はっきり言うな、ケイ。そうさ。わたしはあの日以来、無様にも、このありさまだ」
C「すべては、おまえを思ってのことだ、ジョシー」
機械時計の教師がアンジュといっしょにいる。二人だけで。
どうしてアンジュがぼくの教師といるのだろう。ラファエルの教師たちならともかく。
アンジュにとって、ぼくの教師たちは目障りでしかないはずだ。せいぜい儀礼的に会釈を交わす程度で、お互い避けることはあっても二人だけで話し込むことなんてあるはずがない。それも誰もいない森との境の温室でなんて。
始めぼくはアンジュと話しているのは庭師だと勘違いした。だけど、もうすぐ黄昏時だ。こんな時刻に庭師は温室にやってこない。
授業が終わって館に戻る前に、ぼくは温室まで散歩に来ることがあった。たまに森の奥のフランス菊の花畑から戻って来るラファエルと会うことはあったけれど、それ以外使用人、ましてやアンジュや教師に出会ったことは一度もなかった。
フードを目深にかぶって顔を隠していても機械時計の教師であることは一目瞭然だ。体全体を覆い隠す古風なローブを
旅に出たとき、ぼくは人間たちの羨望と感嘆と欲望の目から逃れるために、帽子とコートで身を隠す。
彼は修道僧のようなフードとローブで、ミモザの館の中にある何から身を隠そうとしているのか。
ぼくはアンジュと機械時計の教師を見ながら、唐突に気が付いた。
おじいさまの高弟だという彼も、もしかしたらヘルマフィロディトスなのだろうか。運命の糸で動く機械時計の教師である以上。
どうして、そのことに今まで思い当たらなかったのだろう。
アンジュが出し抜けに教師を引き寄せ、フードを外す。艶やかな長い巻き毛が、はらりと
少なくとも、彼はアンジュから身を隠そうとはしていなかった。
唇が近付いて行く。
見てはいけないものを見ているのは、わかっている。
ぼくはふたりに気付かれる前に立ち去ろうとするものの、金縛りにあったように動けない。
キスを交わす彼等に、体中の血が疼くように熱くなる。
彼等のうちのどちらに嫉妬しているのか、ぼくにはわからなかった。
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