銀葉の館

両性具有

 ぼくは生まれたときは両性具有ヘルマフロディトスだった。だけど、生まれてすぐに、おじいさまの手によって二体に引き裂かれた。

 ラファエルも似たようなものだ。ラファエルは兄のアンジュによって二体に分けられたのだけれど。

 ぼくらの半身は、そのまま闇の中に落ちて行った。いずれ長い時間を経た後に、人の世に生まれるために。それが、ぼくらの半身である彼女たちに与えられた宿命なんだ。


 人の血が少しでも混じれば、翼は生えない。だから、人の世に生まれ落ちる彼女たちは、翼の芽を摘む鞭打ちを受けなくてすむ。ぼくらよりもろい存在の彼女たちにとって、それはとても良いことだ。


 代わりに彼女たちの生えなかった翼は、ぼくらの夢に紛れ込む。時折それは水薬では抑えきれないほどの激しい発作を引き起こした。

 翼の芽を摘み終われば、こうまで強い症状は出なくなると、オーレ・ルゲイエはいつもぼくらを慰めた。


 翼の芽はこどものうちに積んでおけば、おとなになるころには生えてこなくなる。だから、ぼくとラファエルは翼を積むアンジュの鞭を受けなければならない。  

 背中に翼が生えている方が、ぼくには鞭打ちより遥かにましな気がする。だけど、大きな翼は邪魔になる。とりわけ硝子の棺で眠らなければならないラファエルの芽は完全に摘んでおかなければならない。


 ぼくとラファエルは担う役目が違ったから、ぼくには背中の翼はそれほど邪魔にはならない。だけど、おじいさまが邪魔だと決めたのなら、従うしかない。

 ラファエルが一度入ったら二度と硝子の棺から出ることができないように、ぼくらはこの定めからは決して逃れられない。だから、翼の芽はこどものうちに総て摘んでおかなければならない。たとえ、ぼくにはそれほど必要のないことであっても。



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