銀葉の館

眠りのミルク

 生まれてすぐにミモザアカシアの咲く館に下げ渡されたぼくは、随分と長い間、冷たい地下の一室で眠っていた。

 厚い石の壁で隔てられた隣の部屋にはラファエルがいた。ラファエルとぼくは同じ日に似たような宿命を背負って生まれたんだ。



 地下室から出されたのは、ぼくらの姿が人間でいえば七歳くらいに成長したときだった。そのときから医師のオーレ・ルゲイエの朝晩二回の診察が始まって、夜はまぶたに眠りのミルクを落とされた。が起きそうな夜には、さらに甘くて苦い水薬も加わった。



 夢の発作以外にも、こどものぼくらはたまに人間の子のように熱を出したり風邪をひいたりした。

 だけど医師にかかるのは、朝晩の診療と夢の発作のときだけだ。オーレ・ルゲイエは眠りが専門の医師だったから。

 そういうときは、小間使いがニワトコのお茶をいれてくれた。

 落馬して怪我をしたり工作室で指を切ったりしたときも、小間使いが湿布をしたり、傷口を洗い包帯を巻いてくれた。だいたいはそれで、ぼくもラファエルも次の日には良くなっていた。






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