秘密 ミモザアカシア

 夜半。

 ラファエルが、ぼくの部屋に忍び込んで来た。


 ラファエルと入れ替わるように、猫のアルが部屋から出て行った。

 きっと、星空の下の湖を見に行くんだ。


 ぼくもアルに付いて、ここから出て行きたかった。

 ラファエルは黙って、ぼくのベッドに滑り込むと、キスしてきた。

 ラファエルの口は、果実と兎の混じった匂いがした。今まで、兎の少女の誰かと会っていたのかもしれない。


 ぼくはラファエルから顔を逸らし、唇を外した。だけど、ラファエルは執拗にキスを求めてくる。

 そんな気に、なれるはずもない。まだ、前の夜にアンジュが付けた跡が体の隅々に残っているんだ。今夜はなにもかも忘れて、ただ眠りたかった。だから、医師のオーレ・ルゲイエから眠りのミルクを普段より多く瞼にさしてもらったんだ。


「よせよ、ラフ」

 ぼくは眠りたいあまりに、ラファエルを突き飛ばしたくなった。でもその衝動は一瞬だけだった。この館ではアンジュとラファエルの兄弟を拒絶することなど、ぼくにできるはずもない。それも、アンジュじゃない、ラファエルだもの。ぼくと同じに、逃れられない宿命を背負ったラファエルなんだもの。


「なぜ?」

「眠いんだ、ラフ」

「気持ちよく眠らせてあげるよ、ミック…… ぼくといっしょに眠ろう、甘くて美しいミック」


 確かにそうだ。ラファエルは眠りの神の子。死の神の美しい弟。

 


 ミモザアカシアの花言葉は、友情と秘密の恋。

 満開のミモザアカシヤに囲まれたこの館の中にあるものと同じだ。

 


 日付が変わる。


 ラファエルの荒い息遣いの中で、今日が昨日になって、明日が今日になった。

 ぼくは眠りの神の子にされるままになりながら、眠りの中に落ちていった。

 この眠りが最後の眠りになるのなら、どんなにいいだろう。

 今日が消えて明日なんか無くなれば、どんなにいいだろう。

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