銀葉の館

秘密 フランス菊

 黄昏たそがれ時。

 ラファエルが庭で兎といっしょにいるのを見掛けた。森の湖の三羽のうちの一羽だ。


 湖の兎は時々、少女の姿になる。


 兎の少女は、ラファエルの首に両腕を回しキスをした。

 ラファエルは、ぼくが窓から見ているのに気が付かなかった。だけど兎はラファエルにキスをしたあと、窓を見上げ、一瞬ぼくと目が合った。

 それから兎の少女は、ラファエルの手を取ると銀葉ミモザの花影に消えていった。




 ラファエルは夕食の時間になっても、いっこうに姿を見せなかった。

 アンジュが仕事で不在のときは、この館の主人は弟のラファエルだ。館の主人が来なければ、食事は始まらない。

 召使いたちも普段通りで、慌てる素振りさえない。

 ぼくはラファエルがやって来るまで、食卓の椅子に座って待っていた。

 いつだって、ぼくには食欲なんてなかったから、どれだけ待っていたって平気だ。今夜の食事がなくなったって構わない。


 ラファエルが紅潮した頰でやっと食堂に入って来たときも、ぼくは何も尋ねなかった。彼の髪に銀葉ミモザの葉や花がついていたのも、見て見ぬふりをした。

 ラファエルはいつもより食欲旺盛だった。

 彼は気が付いているのだろうか。今夜の料理が兎のパイだということに。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る