第3話 都会の駅は恐ろしい

駅。

日頃電車に乗っている人達は何も考えずサラッと改札を通り、電車に乗って、またサラッと改札を出ていくのだろう。


柚紀(ユズキ)の住んでいるところはお世辞でも都会とは言えない。ちょっと都会とも言えないかもしれない。よって、電車よりも自家用車で移動する人が多い。


あるとき柚紀(ユズキ)は仕事の都合で東京に行くことになった。

(ヤバイ...)


「大丈夫!カードピッとして改札通れば良いのよ!」

と職場の同僚に言われるが

(そのカードを持ってないのよ!)

の心の中で呟く。


当日、何とか飛行機で東京に着いた。

ここからが闘いだ。

人の波を横切ったつもりが、信じられないくらい斜めに流され思ってた位置に渡りきれない。


暗号のような図を読み取り切符を買う。

改札に切符をいれてダッシュ!出てきた切符を空振りしもたついて受けとる。

(この時点で田舎者丸出しだ。)


駅構内に着くと、番号がずらっと並んでいる。

そして次々電車が入ってくる。

地元で1時間に1本のバスを逃し本屋で時間を潰す学生時代を送っていた柚紀にとって、未来にワープしたかのようだ。


電車がきた。

「長っ!」

柚紀の地元では、1両、2両の電車がほとんどでそれすら乗ったことがない。

降りる人が通りやすいように両脇に避けるのは日本人らしいと思った。

乗り込む番!と思ったら

トゥルルルルルルルル

とベルがなる。

「えっ!」

と思わず声が出た。

(早くないか!?)


もちろん座れるわけもなく、キャリーケースを持ちながらふらつく田舎者が申し訳なくなった。

カーブの度にふらつきながら何とか踏ん張る。


ふと横をみると、杖をついたお婆ちゃんがど真ん中に立っていた。何にも掴まらず、ブレもせずしっかりと立っている。

(お婆ちゃん。杖無くても歩けるんじゃなかろうか。少なくとも私より体幹しっかりしてるはず...)


と、都会のお婆ちゃんに尊敬の意を表した。


無事、目的地到着。

電車を降りる。さて、出口が分からない。

流れに身を任せて、何とか地上に出た。

改札を通る。

ガコン ピーッピーッピーッ

改札封鎖。


...


駅員さんが駆け寄ってきて

「切符見せてください」

と声をかけられる。


「ここ、通れないやつです」


流れをせき止めてる恥ずかしさと

(通れない改札って何!?)

というパニックを全面に表したかったが

ここは素直に「すみません」と言って移動した。


次は大丈夫!

と思って別の改札を通ると

ガコン ピーッピーッピーッ

「また!?」


「切符通しましたか?」

吸い込まれたまま出てこない切符を入れたことを話すと、駅員さん3人係で改札の機械を開けて探し始めた。

(ICカードじゃなくてごめんなさい...)

と思う。


しばらくすると、

「ありました!すみませんでした。どうぞ通ってください!」

と許可が出た。

(逆に手間を取らせてすみません...)

という思いを込めた会釈をして外に出た。


たった1回の移動でこんなにトラブルとは。

ホテルは新宿駅近く。

その後3日間、駅を出る度違う出口にたどり着き1時間さ迷うを繰り返し何とか終了した。


出張後、、、

「今回の出張で初めて新幹線乗りました!」


「?新幹線乗るような移動あったっけ?」


「先端尖ってるやつに乗ったんですけど...」


「それただの電車」

と帰ってもなお、爆笑される恥をかくのは毎度のこと。。。


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